IRIAMライバーの生存戦略――「弱さ」が生み出すコミュニケーション
ライブ配信サービス「IRIAM」では、多くのライバーが日々配信を行い、リスナーとの交流を続けている。しかし、数多く存在するライバーの中で継続的に人を集め、コメントや同時視聴者数を維持することは容易ではない。配信内容や話術、歌唱力など、さまざまな能力が求められるように思えるからである。
しかし、必ずしも「何でも知っている」「何でもできる」ことがライバーの強みになるとは限らない。むしろ、「何も知らない」「初心者である」「感情が表に出やすい」といった、一見すると弱点に思える性質が、リスナーとのコミュニケーションを生み出す強力な武器になる場合がある。本稿では、このような弱点を利用して配信を成立させる方法を、IRIAMライバーの「生存戦略」として考察する。
1.「知らない」がコメントを生み出す
例えば、ライバーが配信中に「それって何?」「初めて聞いた」「全然知らない」と発言したとする。この瞬間、リスナーには「教える」という選択肢が生まれる。
もしライバーが最初から正しい知識を持っていれば、会話は「ライバーが知識を提供し、リスナーが聞く」という一方向のものになりやすい。しかし、ライバーが知らないことで、リスナーは説明する側に回ることができる。
「それはこういう意味だよ」という一つのコメントから、「じゃあこれは知ってる?」「実はこういうものもある」と会話が広がっていくことも考えられる。
つまり、「知らない」という状態は、単なる知識不足ではない。それは、リスナーが会話に入り込むための「余白」になるのである。
ここにIRIAMのようなリアルタイム配信の特徴がある。配信者が完成された情報を一方的に提供するのではなく、リスナー自身が配信を作る側へ回ることができるからだ。
2.「教えたい」という欲求
では、なぜリスナーはわざわざ知らないライバーに知識を教えようとするのだろうか。
その理由の一つとして、人間が持つ承認欲求や優越欲求を考えることができる。
もちろん、誰かに教える行為がすべて悪意から生まれるわけではない。「役に立ちたい」「相手に喜んでほしい」という純粋な親切心も当然存在する。しかし、それだけでは説明できない側面もある。
人は、自分が持っている知識や能力を他者に認められることで、自分の存在価値を感じることがある。「自分はこれを知っている」「自分が教えてあげられる」という感覚は、ある種の有能感につながる。
特に、ライバーが「知らない」と明確に示している場合、リスナーは相対的に「知っている側」に立つことができる。
ライバーとリスナーという関係の中で、普段はただ画面を見ているだけだった人が、一時的に「先生」のような立場になれるのである。
そこには、「教えてあげたい」という善意だけでなく、「自分の知識を見せたい」「自分の存在を認めてほしい」という欲求が含まれている可能性がある。
3.優越感と劣等感
さらに興味深いのは、優越感と劣等感の関係である。
人間は常に自分と他者を比較しているわけではないが、他者との比較によって自分の価値を感じることがある。そのため、「自分には他人より詳しいものがある」という経験は、自分自身の有能さを確認する機会になり得る。
逆に、自分に自信を持てない人にとっても、「自分が誰かに何かを教えられた」という経験は、自分の価値を実感するきっかけになる可能性がある。
つまり、「教える」という行動の裏側には、必ずしも純粋な善意だけではなく、「認められたい」「必要とされたい」「自分にも価値があると思いたい」といった複雑な心理が存在する可能性がある。
このような人間の少し「どす黒い」部分ともいえる欲求を、ライバーが意図的、あるいは無意識的に利用することで、コメントを生み出すことができる。
ただし、ここで重要なのは、すべてのリスナーを「優越欲求や劣等感を持っている人」と決めつけることではない。人間の行動には複数の動機が存在し、一つの行動を一つの心理だけで説明することはできないからである。
4.「初心者」は弱点ではなく物語になる
この構造は「初心者」という立場にも当てはまる。
IRIAMを始めたばかりのライバーは、アプリの機能や配信文化、専門用語などを知らないことが多い。しかし、それは必ずしも不利とは限らない。
「これどうやるの?」という疑問があれば、リスナーは教えることができる。「それはこうだよ」と教えれば、ライバーはそれに反応する。そのやり取り自体が一つのコンテンツになる。
さらに、初心者には「成長」という物語がある。
最初は何も分からなかったライバーが、リスナーから教えてもらいながら少しずつ成長していく。その過程をリスナーが見届けることで、単なる「視聴者」と「配信者」の関係から、「一緒に成長していく」という関係へ変化する可能性がある。
完成されたライバーを見ることとは別に、「自分たちがこのライバーを育てている」という感覚が、リスナーの継続的な参加につながることも考えられる。
5.感情的な反応もコンテンツになる
また、「感情が表に出やすい」という性質も、IRIAMでは強みに変わる可能性がある。
驚く、喜ぶ、悔しがる、困る、照れるなどの反応は、それ自体がリスナーにとっての楽しみになる。
特にリアルタイム配信では、リスナーのコメントに対してライバーがどのような反応を返すのかが重要になる。
すると、リスナーがコメントする理由は単に「話したい」だけではなく、「このコメントをしたらライバーはどう反応するだろう」という興味にもなる。
ここでは、コメントが「情報伝達」のためだけに存在しているのではない。コメントそのものが、ライバーの反応を引き出すためのきっかけになっている。
つまり、ライバーの弱さや感情的な反応は、リスナーとの間に「投げかければ返ってくる」という相互作用を作り出すのである。
6.コメント数と同時視聴者数
このようなコミュニケーションが増えれば、配信の活気にも影響する。
コメントがほとんどない配信では、新しく入ってきたリスナーも「ここでは会話に参加しにくい」と感じる可能性がある。一方、多くのコメントが飛び交っている配信では、「自分も参加してみよう」と思いやすい。
もちろん、コメント数が多ければ必ず同時視聴者数が増えるという単純な因果関係ではない。しかし、コメントが生まれやすい環境を作ることは、配信を「ただ見る場所」から「参加する場所」へ変えることにつながる。
そのため、「知らない」「分からない」「初心者である」という弱点を利用してコメントのきっかけを増やすことは、IRIAMライバーにとって一つの生存戦略になり得る。
7.弱みを武器にすることの危険性
しかし、この戦略には危険性も存在する。
例えば、本当は知っていることまで「知らないふり」をしてしまえば、リスナーに演技だと見抜かれる可能性がある。また、常に大げさな反応を続ければ、自然なコミュニケーションではなく「反応を取るための演技」と受け取られる可能性もある。
さらに、「無知であること」を自分のキャラクターとして固定してしまうと、そのキャラクターから抜け出すことが難しくなる。
したがって、重要なのは「弱点を作ること」ではない。本来持っている弱点や未熟さを隠すのではなく、それをコミュニケーションへ変換することである。
結論
IRIAMライバーにとっての生存戦略とは、必ずしも「何でも知っている」「何でもできる」存在になることではない。
「知らない」「分からない」「初心者である」「感情が表に出る」といった一見すると弱点に見える要素も、見方を変えれば、リスナーが参加するための入口になる。
特に「知らない」という状態は、リスナーに「教える」という役割を与える。そしてその背景には、親切心だけでなく、「役に立ちたい」「認められたい」「自分の知識を示したい」といった、人間の複雑な欲求が存在する可能性がある。
これは決して、人間の「どす黒い欲求」を単純に悪用するという話ではない。むしろ、人間が持つさまざまな欲求を理解し、それによって生まれるコミュニケーションの構造を理解することが、ライバーの生存戦略につながるのである。
結局のところ、配信において価値があるのは、ライバーが一人で完璧なコンテンツを作ることだけではない。リスナーが「自分もこの配信を作っている」と感じられる余白を残すことも、重要な価値となる。
ライバーの弱さは、必ずしも弱さのままではない。それをリスナーが参加できる「余白」に変えた瞬間、それは一つの武器になるのである。