カール・ベーム指揮ベルリン・フィルハーモニーの演奏するブラームスの交響曲第1番ハ短調。なんと、本家ユニヴァーサルミュージックとESOTERIC(エソテリック)から、ほぼ同時にSACDがリリースされました。前者はシングルレイヤのSHM-SACD、後者はJVCマスタリング・センターでリマスタリングしたハイブリッドSACD盤です。

(写真左がSHM-SACD/UCGG-9021、右がESOTERIC盤/ESSG-90053)
Bohm_Brahms-01

なぜ、同じ音源から異なるマスタリングで二社から発売になったんでしょうか?
某オーディオ・ショップで、「ESOTERICから聞いた話では・・・・」と語る店員さんがいましたが、真偽のほどは定かではありません。従って、ここではその話題には触れないことにします。

このブラームスの交響曲第1番は、古くから名演と定評のある演奏ですので、演奏については簡単に感想を書いてみます。
ベーム指揮のブラ1と言えば、1975年5月に録音されたウィーン・フィルとの演奏が有名です。このベルリン・フィルとのブラ1は1956年に録音された交響曲だ2番ニ長調に続く、ベーム/ベルリン・フィルのブラームスでした。交響曲第2番は録音があまりさえない事もあってか、最近では話題になりませんが、1959年録音の交響曲第1番はウィーン・フィルとの1975年録音よりも筋肉質のドイツ音楽を体現していると言われています。


今回発売された2種類のSACDですが、どちらも既存のCDと比べれば音質の改善効果は大きいと断言してよいでしょう。ただし、再生した印象は多少異なりますし、リスナーによって好みが分かれる音です。

まず、ESOTERIC盤ですが、ピラミッド・バランスをうまく再現したようなマスタリングがされています。高域(ヴァイオリンなど)は鮮明度を失わない程度に適度な木鳴りを感じる様なサウンドに仕上がっています。
一方、ユニヴァーサルミュージック盤はワイドレンジを感じさせる音響空間の広さとストレートさが特色です。ぱっと聴いた感じではESOTERIC盤よりも硬めの音に聴こえます。

おそらく、ディスクをぱっと再生した感じではESOTERIC盤がウェルバランスに聴こえるでしょう。しかし、これがイエス・キリスト教会でのベルリン・フィルの音か?というと少し違うような気がします。ダーレムのイエス・キリスト教会は全面石造りの教会で、透明感がある音響が高い評価を受けていました。1960年前後のカール・ベームはまさに全盛期、長年の職人芸で築き上げた重厚かつ引き締まった硬質な力強い表現が特色でした。ESOTERIC盤では、イエス・キリスト教会が木造の教会に化けてしまったような印象です。
ユニヴァーサルミュージック盤では高域にやや刺激的な部分もありますが、おそらくこれがマスター・テープに入っていた音に近いものだと思います。

つまり、作り物だけれどバランスよく仕上げたESOTERIC盤、再生機器などの調整が必要になることがあるがオリジナルに近い(と思う)ユニヴァーサル盤、といった違いになると思います。

今年(2011年)は、モスラの生誕50周年にあたります。

ゴジラと並んで東宝のスター怪獣の一画を占めるモスラは、1961年7月に公開されたので、今年で50年になります。

「音楽のブログになんで怪獣映画が登場するのか?」
こんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

理由は、
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私が個人的に怪獣映画が好きなのです(爆)

それだけでは面白くないので、当ブログに関連する部分にも触れてみたいと思います。

東宝怪獣映画の音楽といえば、ゴジラの音楽を担当した伊幅部昭氏が有名ですが、モスラの音楽を担当した古関裕而(こせき ゆうじ、1909~1989)さんをご存知でしょうか。音楽大学は出ていませんが、リムスキー=コルサコフの弟子の金須嘉之進氏に師事、つまりR=コルサコフの孫弟子にあたります。1929年にイギリスロンドン市のチェスター楽譜出版社募集の作曲コンクールに応募した作品、管弦楽のための舞踊組曲『竹取物語』が入賞しましたが、日本人が国際的な作曲コンクールに入賞したのは、これが最初でした。
『竹取物語』を含め、戦前に作曲した交響曲やピアノ協奏曲など、多くの作品が散逸して行方不明になってしまったのは本当に残念なことです。

古関裕而さんは、生活のために(実家が破産)コロムビア・レコードと契約し、多くの歌謡曲やスポーツ関係の曲を作曲しています。
あまり知られていない作曲家のようでいて、とても有名な曲が何曲もあります。

・阪神タイガーズ応援歌 『六甲颪(おろし)』、作曲当時は「大阪タイガーズ」応援歌
・読売ジャイアンツの歌 『闘魂こめて』
・早稲田大学第一応援歌 『紺碧の空』
・慶應義塾大学応援歌 『我ぞ覇者』
・高校野球大会歌 『栄冠は君に輝く』
・1964年東京オリンピック、入場行進曲『オリンピック・マーチ』

1961年には「モスラ」のほかに、森光子主演の『放浪記』の音楽を作曲しています。

もっと知られてもいい作曲家でしょう。
EMIから連続して発売されている、フルトヴェングラー指揮の録音のSACD化、オペラも登場しました。1953年10月に豪華メンバーをそろえてウィーンでセッション録音されたものです。


レオノーレ:マルタ・メードル
フロレスタン:ヴォルフガング・ヴィントガッセン
ロッコ:ゴットロープ・フリック
ドン・ピツァロ:オットー・エーデルマン
ドン・フェルナンド:アルフレート・ペル
マルツェリーネ:セーナ・ユリナッチ
ヤキーノ:ルドルフ・ショック、他
合唱: ウィーン国立歌劇場合唱団
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー
指揮: ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
録音時期: 1953年10月13-17日
録音会場: ウィーン、楽友協会大ホール(Musikvereinssaal,Wien)

フルトヴェングラーが得意にした演目を豪華メンバーでセッション録音、しかも晩年の比較的良好な音質を最新リマスターでSACD化、価格以外はいいことずくめのようです。

しかし、フルトヴェングラーのファンが今回の記事をご覧になると、お怒りになるかもしれません。私は、この演奏に以前から「不自然さ」を感じていました。勿論、ザルツブルク音楽祭のライヴ盤のようなドラマティックな感じとは異なる演奏ですが、フルトヴェングラーはセッション録音の演奏をライヴとは別物と捉えていた様なので、これは理解できます。

調べてみて、「不自然さ」の原因と思われるものが判明しました。
原因は、こセッションが歌劇場の公演終了後、深夜に突貫作業で録音された事にあり、名歌手たちは疲れた体にムチ打って「弾丸セッション」をこなしていたために、歌唱にそれが表れていたのでしょう。
犯人は、EMIのウォルター・レッグです。
当時、フルトヴェングラーは歌劇「フィデリオ」を録音したいとEMIに働きかけていましたが、プロデューサーのレッグは、このプランに積極的ではありませんでした。理由は、「フィデリオ」ではあまり売れないだろうと考えたようです。

最終的に、レッグは「フィデリオ」の録音を承認して、会場や演奏者の手配をしましたが、なんとウィーンで本番の公演日程と重複する収録スケジュールを立ててしまいました。
つまり、ウィーン・フィルや有名歌手たちを別途集めれば経費が膨大に上ります。ちょうどウィーンで公演中なら録音のキャストがほぼそのままいます。
但し、公演の前後に収録の日程を組めばやはり経費がかさむため、なんと国立歌劇場の、公演終了後の夜間に収録を断行したのです。

当然、歌手たちの疲労は大変なものです。
例えば、スポーツ選手に大きな試合の後で夜にもう一試合組まれるようなものでしょう。
フルトヴェングラーが、このような悪条件をよくOKしたと感心しますが、多分妥協の産物だったのでしょう。
その後、フルトヴェングラーはレッグと疎遠になり、「トリスタンとイゾルデ」ではフラグスタートの希望を受けてレッグのプロデュースで録音に付き合いますが、それに続くマーラーの歌曲集(D.フィッシャー=ディースカウとの共演)では、同じ会場・同じオーケストラによる連続した日程の収録なのに、フルトヴェングラーは違うプロデューサーと仕事をしています。

このように、この歌劇「フィデリオ」は出演者の疲労困憊の中で突貫作業による収録だったのです。それにしては、各歌手の歌唱もオーケストラも見事なもので、彼らのプロ意識には敬服したいと思います。

ひとつの重要な記録として、このSACDは出演者の疲労の中の歌唱を見事に拾っています。
限定盤という事もあり、価格が高い事と「フィデリオ」の代表的名演ではない事から、フルトヴェングラーのファンは購入を検討しても良いでしょうが、一般にはベーム/ドレスデンなどより録音の良い演奏をお勧めしたいと思います。
今月発売されたフルトヴェングラー指揮によるベートーヴェンの交響曲全集のひとつ、古くから名盤中の名盤として定評がある交響曲第9番を改めて聴いてみました。
1951年のバイロイト音楽祭ライヴを録音したものと言われていましたが、近年バイエルン放送局の音源による別のテイクがOrfeoからCD化されて話題になったものです。

過去、この「バイロイトの第9」は、擬似ステレオ盤や「足音入り」など同じ演奏にも関わらず何種類ものCDが発売されてきました。
今回の国内盤SACDと輸入盤CD-BOXはともに、EMI/アビーロード・スタジオがSACD用にリマスターした音源によっています。

ディスクの第1トラックには、指揮者入場時の拍手、足音と共に演奏直前に指揮者が団員(コンサートマスター?)に語りかけた声が記録されています。この声について、フルトヴェングラー未亡人は「夫が本番の演奏開始前に団員に話しかけたことは無い」と言っていたようですが、彼女はこの演奏の本番に遅刻してしまい、冒頭の状況を目撃していないようなので、なんともいえません。

演奏自体は定評のあるもので、音質も1951年のライヴという制約の中では聴きやすくまとめられています。但し、ノイズの除去は積極的に行われており、オリジナルのテープヒスは巧みに除去されています。音色も、過去のLPの音を再現しているのではなく、最新のディジタル・リマスターの音を目指したと思われます。
今回の一連のリマスターで、ライヴ録音は音質向上の恩恵が少ないものが多かったのですが、この第9はその中でも成功したほうと言ってよいでしょう。

特に、orfeo盤との演奏聞き比べをしたい人には、リマスターによって僅かだが生々しさを増しているので、どこが共通でどこが編集で異なるかを探すのも楽しめると思います。

気になるSACD化のメリットですが、自宅の設備(プレーヤがPioneerのユニヴァーサル・プレイヤ、スピーカはB&Wの803S)では、明らかに差はありました。CDもよくまとめていますが、SACDに比べるとピアニシモが不自然(CDの限界か?)で音符~休符~音符の流れもSACDが一段上です。
フルトヴェングラーのファンなら高額ですがSACDを購入する価値はあるでしょう。
ただし、再生環境によっては輸入盤CD-BOXと国内盤SACDの差はわずかなものです。
価格差を考えると、一般には輸入盤CD-BOXの方が多くの演奏を低価格で楽しめるメリットが勝ると思います。
今年、EMIミュージックから、フルトヴェングラー指揮の録音が数多くSACDで発売されました。

これらは、日本からの依頼でアビーロード・スタジオにてDSDマスタリングされたそうですが、このベートーヴェンの交響曲第7番イ長調は、新発見のマスターテープを使用したマスタリングとのうたい文句で、ある意味今回の目玉の一つでした。

既にご存知の方が多いでしょうが、1950年1月にウィーンにて行われたセッション録音は、EMI初期のテープ録音で、オリジナル・テープ(以降、原盤A)からSP用の金属原盤(以降、原盤B)が作成されてSP盤として発売されました。
ところが、その後原盤Aが行方不明となり、金属原盤からLP用の2次マスターテープ(以降、原盤C)が作成され、その後発売されたLPやCDは、基本的にこの原盤Cを音源として再マスタリングされてリリースされています。このバージョンは、第4楽章に女性の声が混在しており、金属原盤を再生してテープ録音し、LP用に編集する過程で混在したものとされています。

今回の第7番について、EMIから次のようなアナウンスが出されました。
「1950年1月にウィーンのオリジナル・セッションで録音されたテープがみつかりました。このテープを現存するLPのマスター・テープと比較しても、大変優れた音をしていたため、今回はこの未使用のテープを使用することにしました。このテープの音源が世に出るのは、世界で初めて。」

この通りなら、行方不明となった原盤Aまたは、その控えコピーが発見され、初めてディジタル・マスタリングされたのか!と話題になりました。

その意味で大変興味をそそるものであり、早速聴いてみましたが、以下のような特徴がありました。
1. 第1楽章冒頭に「ゴロ音」らしき低いノイズがある。
2. 問題の第4楽章、約3分過ぎにごく小さい異音らしきものが聞こえる。(加工で消そうとした形跡)
3. 一部に編集の跡と思われる音の継ぎ目らしき箇所がある。SP用原盤をテープで再編集?

音質は、以前のディスクよりやや改善されたような気がしますが、どうも最初の原盤Aではなく、原盤Cの状態の良いもののように感じられます。
演奏は以前から定評のあるものですが、音質は向上しているものの劇的に改善されたわけではありません。このディスクに収録された、第5番ハ短調の方が54年のセッションという事もあってか改善効果が感じられます。

その意味で、第7番の「新発見マスターによるリマスタリング」目当てでSACDを購入すると失望するかもしれません。第5番がメイン、第7番はサブと考えるファンでしたら、SACDを購入しても良いでしょう。