SONY Classicalから、数多くの廉価盤BOXセットが発売されています。いずれも、単売されていた商品と比べると激安のため、市場でも賛否両論が出ていますが、とにかく安いので思わずいくつか買ってしまいました。

5月に、ブルーノ・ワルターが米コロムビアに録音したマーラーの交響曲集と歌曲集がBOZセットで発売されました。7枚組で1600円!(その後、少しだけ価格アップ)と本当に激安です。

収録されているのは、以下の通りです。特に、モノ時代の録音は聴いたことがなかったので、順に聴いてみました。
Disc1~2
・交響曲第1番ニ長調『巨人』
 コロンビア交響楽団
 録音時期:1961年
 録音方式:ステレオ(セッション)

・交響曲第2番ハ短調『復活』
 エミリア・クンダリ(S)
 モーリーン・フォーレスター(A)
 ウェストミンスター合唱団
 ニューヨーク・フィルハーモニック
 録音時期:1957&58年
 録音方式:ステレオ(セッション)

・歌曲集『さすらう若人の歌』
 ミルドレッド・ミラー(Ms)
 コロンビア交響楽団
 録音時期:1960年
 録音方式:ステレオ(セッション)

Disc3~4
・交響曲第4番ト長調
 デジ・ハルバン(S)
 ニューヨーク・フィルハーモニック
 録音時期:1945年
 録音方式:モノラル(セッション)

・交響曲第9番ニ長調
 コロンビア交響楽団
 録音時期:1961年
 録音方式:ステレオ(セッション)

Disc5
・交響曲第5番嬰ハ短調
 ニューヨーク・フィルハーモニック
 録音時期:1947年
 録音方式:モノラル(セッション)

Disc6
・『大地の歌』
 ミルドレッド・ミラー(Ms)
 エルンスト・ヘフリガー(T)
 ニューヨーク・フィルハーモニック
 録音時期:1960年
 録音方式:ステレオ(セッション)

Disc7
・交響曲第1番ニ長調『巨人』
 ニューヨーク・フィルハーモニック
 録音時期:1954年
 録音方式:モノラル(セッション)

・『若き日の歌』~思い出
・『若き日の歌』~別離と忌避
・『若き日の歌』~再び相まみえずに
・『若き日の歌』~私は緑の森を楽しく歩いた
・『若き日の歌』~夏に小鳥はかわり
・『若き日の歌』~ハンスとグレーテ
・『若き日の歌』~春の朝(たくましい想像力)

 デジ・ハルバン(S)
 ニューヨーク・フィルハーモニック
 録音時期:1947年
 録音方式:モノラル(セッション)

ステレオ録音の、第1番、第2番、第9番、大地の歌はステレオ初期の録音ですが、今聴いても素晴しい演奏です。第1番は、数年後に若き日のバーンスタインがニューヨーク・フィルを指揮した録音と、どちらがベストか友人と聴き比べたことを思い出しました。

第2番は、ニューヨーク・フィルを起用したこともあり、オケの響き見事ですし、第4楽章で聴くアルトのフォレスターの歌唱も素晴しいものです。第5楽章の迫力は、最新録音の演奏には及びませんが、曲を楽しむには十分です。

第9番は、1930年代にウィーン・フィルを指揮したSPからの復刻盤がEMIから発売されており、こちらも高い評価を受けています。しかし、音質の差は圧倒的なものがあり、曲を楽しむのならこのステレオ録音をお薦めします。

大地の歌は1952年にウィーン・フィルと英DECCAに録音した演奏が大変有名です。国内でも評論家のU氏が大絶賛しています。確かに、私もLP時代から愛聴盤でしたが、テノールの歌唱は、DECCA盤のユリウス・パツァークよりも、SONY盤のエルンスト・ヘフリガーの方が素晴しい歌唱だと思っています。スイスの名テノール歌手ヘフリガーは、カール・リヒター指揮のマタイ受難曲でエバンゲリスト役を歌ったのが有名ですが、この大地の歌も、もっと高く評価されても良い名演でしょう。オーケストラは、さすがにウィーン・フィルと録音用編成のコロムビア交響楽団では差があります。ワルターの指揮も最晩年という事もあってかところによって締まりに欠ける部分もありますが、曲が大地の歌なのが幸いしたか、それでも十分に素晴しい演奏です。


今年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン音楽祭は、ロシア音楽の特集でした。
ゴールデンウィークに、東京国際フォーラムで数多くの演奏会がありましたが、まず児玉桃さんがソロを弾く協奏曲主体の演奏会を聴きました。

児玉桃(ピアノ)
ベアルン地方ポー管弦楽団
フェイサル・カルイ(指揮)
ショスタコーヴィチ:バレエ組曲第1番
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調

最初はオーケストラだけで、ショスタコーヴィチのバレエ組曲第1番。
このベアルン地方ポー管弦楽団は、良くも悪くもローカル・オーケストラらしさを発揮しており、アインザッツはしばしばずれていましたが、楽しそうに弾く各奏者の表情は良いものです。
アンサンブルの上手さでは、国内にもっと上手なオーケストラは数多くあります。
しかし、このような楽しさを感じさせる演奏を毎回できるオーケストラは、そんなに多くはないでしょう。

後半のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は大変有名な曲で、実演でも何度も聴いた事がありますし、LPやCDも何種類も持っています。今回は十分なリハーサル時間を取れなかったのでしょう。随所にソロとオーケストラの間にずれが出ていました。
こういう時に面白いのが、指揮者とピアニストの対応です。
指揮者のフェイサル・カルイ氏は、時々オケに指示を出して調整していましたし、ソロの児玉さんは時々指揮者と視線を合わせて調整していました。



4月に、英国EMIから発売された、"Signature Series"というアナログ録音マスターの限定版SACD、初回発売分は、有名な演奏家の定評ある演奏が含まれています。

このシリーズに、スビャトスラフ・リヒテルがソロを弾いたピアノ協奏曲集の2枚組が入っていたので、購入して聴きました。

Disc1
・ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲ト短調 op.33
 管弦楽:バイエルン国立管弦楽団
 指揮: カルロス・クライバー
 録音時期:1976年6月18-21日

Disc2
・グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調 op.16
・シューマン:ピアノ協奏曲イ短調 op.54
 管弦楽:モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団(モンテカルロ・フィル)
 指揮: ロヴロ・フォン・マタチッチ
 録音時期:1974年11月


ドヴォルザークのピアノ協奏曲ト短調は、有名なチェロ協奏曲と比べれば聴く機会も少なく、曲自体もさほど有名ではありません。このSACDは何と言ってもカルロス・クライバー唯一の協奏曲録音であり、それもリヒテルとの競演という事でしょう。
クライバーは70年代にDGがミケランジェリを独奏者にベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の録音セッションを組みながら、打合せだけでキャンセルしてしまったのが実に残念です。
リヒテルはドヴォルザークのピアノ協奏曲を数多く演奏し、CDもライヴ盤が出ています。この録音も、曲目はリヒテルの希望で決まったのでしょう。
随所に美しい旋律が出てくるものの、後期の作品と違い曲自体は多少印象が薄い作品ですが、リヒテルとクライバーはこの曲の魅力を最大限引き出しています。ここしばらくの間は、ドヴォルザークのピアノ協奏曲といえばこの演奏がファースト・チョイスでしょう。

グリーグとシューマンのピアノ協奏曲は、LP時代から「定番」の組み合わせで非常に数多くのLPやCDが過去に発売されてきました。古くはディヌ・リパッティとカラヤン他によるMONO時代の有名な録音、ステレオでは1973年録音のラドゥ・ルプーとプレヴィン/ロンドン交響楽団による名盤があります。ディジタル時代になっても、若き日のクリスティアン・ツィメルマンとカラヤン/ベルリン・フィルの録音も素晴らしいものでした。
リヒテルによって、シューマンは1958年DGにロヴィツキ/ワルシャワ国立フィルハーモニーとの録音がありますが、グリーグは1966年のライヴ盤があるだけで唯一のセッション録音でしょう。
このグリーグは素晴らしい演奏です。ダイナミックですが粗暴にならず、マタチッチ指揮のモンテカルロ歌劇場管弦楽団も明るい音色が曲の色彩感を増すのに役立っています。
第一楽章は緩やかなテンポでスタート、スケールの大きな表現ですが決して大げさにはなりません。リヒテルのキラリと光るタッチも聞きものです。第二楽章の歌いまわしも、北欧の寒さよりも暖かさ(途中出てくるチェロやホルンのソロも暖かい音色です)がむしろ好ましく聞こえます。
第三楽章もスケールの大きな演奏で、終結部間近もゆったりとした演奏です。

シューマンも、リヒテルのファンにとっては大変魅力的な演奏です。シューマンの愁いある雰囲気は1958年のロヴィツキ/ワルシャワ国立フィルハーモニーの方が好ましいかもしれません。ただし、この演奏も十分に抒情性を打ち出しています。シューマンのベスト1とはいかなくても、リヒテルのファンには大変魅力ある演奏です。

最後に、SACDの音質をCD(Richter Complete EMI Recordings)と比べました。CDも単独で聴けば、大きな問題はありません。1970年代:アナログ最盛期の録音としては、オーケストラの混濁等、もう少し頑張って欲しいのですが、鑑賞には差し支えないでしょう。
しかし、SACDで聴くと明らかに別世界が広がります。音響空間が自然に広がり、SACDの後でCDを聴くと寸詰まりの印象が強くなります。EMIのマスタリングは、1970年代のLPのイメージ再現ではなく、21世紀の現代の最善を尽くしたディジタル色という感じですが、それでもCDよりもSACDの優位性は明らかです。
EMIの"Signature Series"は限定盤との事なので、安い事もありぜひ購入をお勧めします。


イスラエルのHelicon Classicsから、レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルによるマーラー作曲交響曲第9番二長調のライヴ録音がCD化されました。

バーンスタイン指揮のマーラーの第9番としては、1985年9月3日の大阪公演と8日の東京公演が空前絶後の演奏として語り伝えられています。残念ながら、両公演とも録音されていなかったため、聴いた人が文章で語り伝えた情報のみが残っています。

このCDは、日本公演の直前、1985年8月25日にテルアビブにある本拠マン・オーディトリアムでおこなった同一プログラムのコンサートの模様を収めたものです。同年にアムステルダムで録音されたDG盤との比較も含めて、期待して聴いてみました。

今回の演奏は、同じ1985年のコンセルトヘボウとのライヴに近いのですが、バーンスタインのファンなら両方揃えたい演奏です。勿論、ライヴ録音のため細かいキズはありますが、鑑賞に差支える事はありません。
強いて言えば、木管はコンセルトヘボウに軍配があがります。
個人的な好みでいえば、この頃からバーンスタインの指揮はテンポが激遅になってきました。DGに録音したマーラーの交響曲集(8番と10番、大地の歌を録音前に死去)でも、全体にその傾向があり、この演奏でもその傾向が出ています。
一部の評論家がバーンスタインの指揮を「神懸かり」的に褒めています。確かに、素晴しい個性豊かな演奏であることは間違いありませんが、この曲の「決定版」かと聞かれれば、少なくともファースト・チョイスではないと答えておきます。

バーンスタインの、個性溢れる大変魅力あふれる演奏ですが、曲自体を味わうのなら、クラウディオ・アバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団のブルーレイ(またはDVD)をお薦めします。


なお、バーンスタインによるマーラーの第9交響曲について、正規の商業録音として以下の4つの演奏が知られています。この中では、ベルリン・フィルとのライヴが有名ですが、結構破綻している部分があり、演奏の完成度では1985年のRCOとのライヴが一番でしょう。

・1965年12月 ニューヨーク・フィル(SONY、セッション録音)
・1971年03月 ウィーン・フィル(UNITEL、ライヴ録音)※映像作品
・1979年10月 ベルリン・フィル(DG、ライヴ録音)
・1985年5,6月 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(DG、ライヴ録音)



4月に、英国EMIから発売された、"Signature Series"というアナログ録音マスターの限定版SACD、初回発売分は、有名な演奏家の定評ある演奏が含まれています。

演奏家の豪華さでいえば、このアルバムがある意味最高でしょう。
スビャトスラフ・リヒテル、ダヴィド・オイストラフ、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチと、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニーが共演した、ベートーヴェンの三重協奏曲。
そして、オイストラフ、ロストロポーヴィチとジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団が共演した、ブラームスのヴァイオリン協奏曲と二重協奏曲。

前者は、リヒテル/オイストラフ/ロストロポーヴィチの共演を、当時のソ連当局との数年間に渡る交渉によって実現した「夢の共演」です。
幸運なことに、ベートーヴェンがピアノ、ヴァイオリン、チェロと管弦楽のための協奏曲という、マカ奇怪(失礼!)な作品を書いてくれたおかげで、この3人とカラヤン/ベルリン・フィルという豪華共演が実現したともいえます。久しぶりにこの演奏を聴きましたが、ピアノ三重奏の部分では、チェロのロストロポーヴィチの演奏が3人の主導権を握っているかのような存在感を示していました。

後に、この第2楽章のテンポを巡り3人のソリスト(具体的にはオイストラフとリヒテル)の間で意見の不一致があったようですが、録音を聴く限りではそれが演奏の欠点にはなっていません。
生前のカラヤンは、協奏曲の演奏で敢えて「完璧に」合わせる事をせずに、リハーサルを未完成のまま終了して本番に突入する事があったそうです。当時の関係者の話では、カラヤンは「完璧に合わせると、演奏がつまらなくなる」と丁々発止の精神を大切にしていたようです。

ブラームスの二重協奏曲も、聴く機会の少ない作品です。最近は、CDの収録時間に合わせて、ヴァイオリン協奏曲とのカップリングが増えてきましたが、60年代や70年代では録音は少なかったと記憶しています。
この珍しい曲でも、オイストラフとロストロポーヴィチの共演は、ぶつかったり絡み合ったりと見事な演奏を繰り広げています。
ヴァイオリン協奏曲は、さすがに三大ヴァイオリン協奏曲と言われるだけあって、演奏機会も多くCDも数え切れないほど出ています。オイストラフも、過去に何度も録音していますが、私はこのジョージ・セル/クリーヴランド管弦楽団との共演が最もお気に入りです。

SACD化による音質の向上は、過去のCDと聴き比べれば明らかに音の厚みが増しています。また、ピアノやピアニシモでの音が自然さを増し、休符での残響もCDより違和感が減りました。

これらの3曲を聴くためなら、お勧めのセットです。