ドイツのバイエルン州立放送局が、自社の音源を発売するBR KLASSIKから、ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団による、ブルックナーの交響曲第8番ニ短調が発売されています。

クーベリックは、スタジオ録音では、CBS(現SONY)に第3番と第4番しか残しませんでしたので、このようなライブ音源は貴重な存在です。
以前、Orfeoから1963年8月のライヴ録音が発売荒れていましたが、これは録音のせいもありあまり強い印象を受けませんでした。
今回のCDは、1977年のライヴということもあり、音質面では問題ありません。


・ブルックナー:交響曲第8番ハ短調 WAB.108 [ハース版]

管弦楽:バイエルン放送交響楽団
指揮 : ラファエル・クーベリック

録音時期:1977年5月12日
録音場所:ミュンヘン、ヘルクレスザール
録音方式:ステレオ(ライヴ)

この曲のセッション録音を残してくれなかったのは残念ですが、このライヴ盤はなかなかいい演奏です。演奏時間は約78分。私の好みからいえば、きびきびして好ましいテンポです。ただし、決して慌てたような性急さはなく、第3楽章後半など必要なところではじっくりとうたい上げます。また第4楽章のクライマックスでは、生演奏の勢いを感じさせる迫力も見事です。
オーケストラも当時の西ドイツではベルリン・フィルに次ぐレベルの実力を誇っていたようで、しっかりしたアンサンブルを聞かせてくれます。
放送録音ということもあり、金管のバランスが時々「?」となりますが、鑑賞に差し支えるほどでははありません。
今は亡き巨匠、クーベリックの貴重なブルックナー、長く楽しめる名盤だと思います。

フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラによる、ベートーヴェンの交響曲全集がSACDでリリースされました。

1984年から1992年にかけてPhilips(当時)に録音した旧全集から約20年。
以前の来日公演でも、ベートーヴェン・チクルスをやっていたので、再録音間近と思っていましたが、それからかなり年月が経過して、やっと2011年にライヴで一気に録音しました。

旧全集の録音でもそうでしたが、ピリオド楽器オーケストラによる演奏でも、アーノンクールのような刺激的な表現とは大きく異なる解釈です。
良くいえばまろやか、悪く言えば地味な演奏です。木簡のくすんだ音色をそのまま生かし、弦もキリキリと絶叫しません。テンポもピリオド楽器オーケストラに良く聞かれる高速テンポではなく、今の感覚ではむしろ中庸ともいえるテンポです。

以前の来日公演のインタビューでも、ピリオド楽器で弾こうが現代楽器で弾こうが、スコアに記載された作曲家の表現をどう会場で再創造するかに注力する趣旨の発言をしていました。

最新録音「だけあって、音はとても自然に流れ出してきます。
SACDはこのような最新録音でこそ、そのメリットを発揮できる好例でしょう。
サラウンド収録されており、会場の空気感も良く伝わってきます。
メジャー・レーベルから、サラウンド収録の新譜が途絶えて久しい中、マイナー・レーベルでこのような良質の作品を世に出してくれるのは、ありがたい事です。

管弦楽:18世紀オーケストラ、
合唱:ラウレンス・コレギウム&カントライ
ソプラノ:レベッカ・ナッシュ
メゾ・ソプラノ:ウィルケ・テ・ブルンメルストローテ
テノール:マルセル・ビークマン
バス:ミヒャエル・テーフス
指揮:フランス・ブリュッヘン(指揮)

【録音】:2011年11月、デ・ドゥーレン(ロッテルダム)

数年前に発売された、アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団の来日公演ライヴがシングルレイヤSACDで発売されました。

1964年5月の来日公演をNHKが収録したもので、古いライヴ録音ですがSACD化でどの程度の音になっているか気になったので、聴いてみました。

演奏は当時のフランスを代表するオーケストラ、しかし細部にはアンサンブルの乱れが散見されます。もちろん、ライヴなので多少の傷に大騒ぎするほどではなく、演奏自体はなかなか見事なものです。

昔こんな事を聴いた事があります。
「フランスのオケは良い指揮者が振っても下手な指揮者が振ってもアンサンブルは合わない。ドイツのオケはどちらでもピタッと合う。アメリカのオケは良い指揮者が振ると合うが、下手な指揮者だと合わない。」

パリ音楽院管弦楽団は、パリ音楽院の教授や卒業生中心に編成されたオーケストラで、同じ土壌で育った奏者によるフレーズの一体感はありますが、アインザッツは必ずしもトップレベルではありません。勿論、随所にエレガントな音色も聴かせます。第2楽章は美しい音色で、第3楽章がベストの出来でしょう。ただし、第4楽章など絶叫して硬い響きも混在します。また第5楽章のコル・レーニョ奏法は控えめすぎて不気味さが伝わりにくい感じです。

パリ音楽院管弦楽団が解散してパリ管弦楽団として再編された後には、フランス風のオケの気質は失われてしまったと言われる事があります。このSACDの解説にも似たような記述がありますが、あまりこのような典型的な解説をうのみにはしない方がいいでしょう。

シャルル・ミンシュ指揮パリ管弦楽団による幻想交響曲の演奏は遥にダイナミックですが、フランスのエスプリも残っているように感じます。
このSACDは、クリュイタンス指揮のライヴの記録として、貴重な存在です。また、彼が指揮した幻想交響曲のステレオ録音としても貴重な遺産といえます。

SACD化により、古いアナログ録音テープに残された演奏の記録を良く再現してくれる事は福音といえますが、最新録音のSACDももっと聴きたいものです。


【曲目】
ベルリオーズ:幻想交響曲
ムソルグスキー:「展覧会の絵」より 古い城
ビゼー:「アルルの女」からファランドール
【演奏】
管弦楽:パリ音楽院管弦楽団
指揮: アンドレ・クリュイタンス
【録音】
1964年5月10日 東京文化会館(ライヴ)

仏ヴィヴェンディ参加のユニヴァーサル・ミュージックが、米国時間の9月28日に英EMIのレコード部門買収を完了したと発表しました。(出版部門は6月にSONYが買収を完了)
世界最古のレコード会社だった英EMIがこれで分割&買収により、他社の傘下に入りました。

英EMIの源流をさかのぼると、1897年に設立された2つのレコード会社から始まります。
一つ目は英コロムビア。
エジソン式シリンダー型蓄音機「グラフォフォン」の製造・販売を行っていたコロムビア・フォノグラフ社(後の米コロムビア)のイギリス支店である「英コロムビア」として設立されました。
同社は1922年に米コロムビアから独立、別企業となりました。
米コロムビアは、後のCBS(コロムビア放送のレコード部門)を経てSONYに買収され、現在のSONY Musicになります。

もう一つは英グラモフォン~HMV(His Master's Voice)
ベルリーナが発明した円盤型蓄音機「グラモフォン」の製造・販売を行っていたベルリーナ・グラモフォン社のヨーロッパ進出のため、「英グラモフォン」が設立されました。翌年、ドイツのハノーファに工場を建設、これが第一次世界大戦により独立して後にドイツ・グラモフォン(DG)となり、現在に至っています。英グラモフォンは1907年から犬のニッパーのイラスト(His master's Voice)を採用して、レーベル名もHMVと愛称で呼ばれるようになりました。

HMV_Label


旧コロムビアは米コロムビア(CBS)と、旧グラモフォンは米RCA(ビクター)と業務提携していました。RCAも当初はHMVをトレードマークに採用、日本では日本ビクター(現JVCケンウッド)がトレードマークに採用しました。

英コロムビアと英グラモフォンは1931年に合併してEMIが誕生します。
その後も、アメリカでは旧HMVが米RCAと旧コロムビアが米コロムビア(CBS)と業務提携していたため、原盤の系列によってアメリカでは競合するRCAとCBSから分かれて販売される状態が続きました。日本でも、HMV系は日本ビクターから、コロムビア系は日本コロムビアから発売されていました。

1955年、英EMIは米RCAとの契約を打ち切り、米Capitolを買収して米国の拠点にします。そのため、それまでHMV系のレコードを日本ビクターが販売していましたが、当時の東京芝浦電気がレコード事業に参入してEMIと契約しました。
1962年、英EMI(コロムビア)が日本コロムビアとの契約を打ち切り、東芝に契約を集約します。以降、東芝が英EMIの両系列を一手に販売するようになりました。

21世紀に入り、世界のレコード産業は衰退期に入って大手に集約が始まります。
そんな中、EMIは他のメジャー・レーベルと合併しない中で業績が低迷、2007年に英国の投資会社テラ・ファーマが買収しました。しかし、2008年の金融危機で両社の業績が悪化、シティ・グループが2011年2月にEMIを買収して売却先を探し始めました。
当初は、ワーナー・ミュージックも買収に興味を示していましたが、2011年11月に分割&売却が決定しました。

これで、世界のメジャー・レーベルは、ユニヴァーサル、SONY、ワーナーの3系列に集約されました。企業の再編成は経済事情でやむを得ないものの、やはり寂しさを感じます。
ジュゼッペ・シノーポリがシュターツカペレ・ドレスデンを指揮してDGに録音したブルックナーの交響曲集を順に聴いてみました。

交響曲 第3番 ニ短調《ワーグナー》(1877年ノーヴァク版)
録音:1990年4月

この頃、シノーポリはロンドンのフィルハーモニア管弦楽案の首席指揮者でした。
しかし、ブルックナーは全てシュターツカペレ・ドレスデン(SKD)を指揮しています。
SKD側もシノーポリを気に入ったのか、1992年からSKDの首席指揮者に就任しています。

この第3番はベルリンの壁崩壊後に録音されたものです。
シノーポリのブルックナーに共通している鮮明さは、この第3番でもはっきりしています。
第一楽章冒頭のトランペットによる下降音形も明確に美しく浮かび上がります。
おそらく強化メンバーが加わっていないSKDが美しい音色
第二楽章では個々の音像をくっきりと描きながらスケール感豊かな表現です。この演奏はノヴァーク版ですが、この楽章のクライマックスの壮大さを見事に描き出しています。
第三楽章では実に勇壮なスケルツォを聴かせます。
第四楽章は比較的冷静な感じで始まりますが、透明感を保持したままスケール感を拡大していきます。

シノーポリに死後、彼のブルックナーを振り返る機会は少なかったのですが、あらためて素晴らしい演奏だと思います。