昨年発売されたアルカント・カルテットの演奏を集めたSACDボックス。
ブラームスを聞いてみました。

なお、このブラームスは単売のCDは既に廃盤のようです。

ブラームス: 弦楽四重奏曲 第1番 ハ短調 op.51の1,
ピアノ五重奏曲 ヘ短調 op.34 / ジルケ・アーヴェンハウス (ピアノ) 
録音: 2007年11月

ブラームスの弦楽四重奏曲は、交響曲同様にベートーヴェンを強く意識したと伝えられています。このSACDで、アルカント・カルテットの演奏はさほど重々しくありません。第1楽章のやや不安な感情のような旋律と和声も精密に見事な技術で歌い上げます。精度をここまで磨き上げた演奏はなかなか他では聴けません。第2楽章の美しい流れでは、彼らの団体名(弓+歌)そのものの美しい響きが魅力的です。第3楽章のまた不安そうな旋律や第4楽章のフィナーレでも、彼らの精密(決して機械的ではありません)&パワフル+美しさを存分に味わうことができます。

ピアノ五重奏曲で共演している、ジルケ・アーヴェンハウスはアンティエ・ワイハートとも何度も共演しており、他のメンバーとも息が合っているようです。ピアノソロ+弦楽四重奏ではなく、五重奏ならではのスケール感と表情の豊かさを描き上げている名演と言えましょう。

日本では、室内楽があまり人気がないのか、著名な演奏家がソロはやっても室内楽の機会が少ないのか、私たちもこのような名人芸に触れる機会が少ないのが本当に残念です。

アルカント・カルテットの演奏を集めたシングルレイヤSACDから、ドビュッシー/デュティユー/ラヴェルの四重奏曲を聴いてみました。

この四重奏団は、室内楽では珍しく名手が揃った団体です。
ヨーロッパでは、室内楽が身近に定着しており、巨匠と呼ばれる大スターでも日本よりは気軽に室内楽を楽しむ機会が多くあります。ただし、巨匠同士が組む場合は二重奏や三重奏まで、それ以外の場合は巨匠と若い音楽家の組み合わせが多いようです。

前者の例では、古くはピエール・フルニエとヴィルヘルム・ケンプが組んだベートーヴェンのチェロソナタ・変奏曲全集、ダヴィド・オイストラフとスビャトスラフ・リヒテルが時々共演した例などがあります。その後は、ギドン・クレーメルとマルタ・アルゲリッチが組んだベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタや、ミッシャ・マイスキーとアルゲリッチのベートーヴェンのチェロ・ソナタがあります。クレーメル、マイスキー、アルゲリッチ3人の共演や、更にバシュメットが加わった四重奏もありますが、スケジュール調整だけでも大変でしょうし、これは例外的なものでしょう。

後者の例は、アルフレード・ブレンデルが若い弦楽器奏者達と共演した例や、スイスのルガーノ音楽祭が有名です。

少なくとも、四重奏以上の組み合わせでソリスト級の名手が常時組んで成功した例は極めて稀なケースでしょう。

さて、ドビュッシーとラヴェルの四重奏曲を組み合わせたCDやLPは昔から室内楽の名曲としていくつか聴くことができます。
アルカント・カルテットの演奏ですが、見事な技術と個々の音を明確かつ美しく響かせるアンサンブルの美しさを両立させたとても魅力的なものです。ドビュッシーの鮮明で絶妙のバランスの後に、デュティユーの作品が違和感なく続きます。フラジョレット、ピツィカート、コルレーニョ、スル・ポンティチェロなどの様々な奏法が顔を見せる作品ですが、ドビュッシーより数十年後とは思えないような繋がりを感じさせます。
最後のラヴェルを聴くと、このSACDがデュティユーを中心にした弥次郎兵衛のようなプログラム・ビルディングを感じさせます。ラヴェルの四重奏曲は演奏者によっては難解な作品に聴こえてしまう事もありますが、アルカント・カルテットはここでも緊密なアンサンブルと美しい音色で楽しませてくれます。

・ドビュッシー:弦楽四重奏曲ト短調 op.10
・デュティユー:『夜はかくの如し』(弦楽四重奏のための)
・ラヴェル:弦楽四重奏曲ヘ長調
 アルカント四重奏団

 録音時期:2009年10月
 録音方式:デジタル

昨年末に、アルカントカルテットの過去のCDをシングルレイヤ・SACDにまとめたセットが発売されました。2002年に結成されたアルカント・カルテットは昨年が結成10周年です。
元々一流ソリストが4人集まった四重奏団で、普段はそれぞれの演奏活動が忙しくて、カルテットしての活動は制限されますが、過去の演奏は高い評価を得ています。

メンバーは以下の4名、夫々がオーケストラの主席やソロで高い評価を受けている音楽家です。
アンティエ・ヴァイトハース(第1ヴァイオリン)
ダニエル・セペック(第2ヴァイオリン) 
タベア・ツィンマーマン(ヴィオラ) 
ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)

彼らのCDデビューとなった、バルトークの弦楽四重奏曲第5番と第6番を聴いてみました。

第5番は1934年に作曲された作品で、前作の弦楽四重奏曲第3番(1927年)、第4番(1928年)は、典型的な無調音楽として書かれていたのに対し、30年代のバルトークは伝統的な和声への回帰の傾向が見られるようになりました。この第5番は、流石に伝統的な三和音が目立つ場面はありませんが、全5楽章に晩年に向かう澄み切った音色が聞かれます。
アルカント・カルテットの演奏で驚いたのは、この曲がこんなに美しい響きだったのか!と新しい発見があるような演奏です。古くはステレオ初期のハンガリー弦楽四重奏団(第5番のヨーロッパ初演を担当)に始まり、過去多くの名演が録音に残されていますが、曲の構成のバランスを感じさせる演奏や前作の田尾3番や第4番に続く鋭敏さを特色とするものが多かったようです。

第6番は1939年に作曲されました。既にヨーロッパでは第2次大戦が勃発しており、作曲後に母国で初演の機会を失ったバルトークはアメリカに亡命し、1941年にアメリカで初演されています。
曲は第5番のようなシメントリカルな構成から古典的な4楽章構成に変わっています。
悲しみの気分が全体を支配するような曲ですが、アルカント・カルテットの演奏は、お涙ちょうだいにはならず、構成の美しさと響きの静穏さが浮かび上がるような見事な演奏です。




3月9日に、調布市のせんがわ劇場で、江沢茂敏さんのピアノリサイタルを聴いてきました。
3月19日演奏会

案内があったのは今年の1月。実は、演奏者の江沢さんは妻の会社時代の先輩のご子息。
第81回日本音楽コンクールで3位に入賞、さらにせんがわ劇場のオーディションを受賞してのリサイタルでした。

曲目は、前半がスクリャービン、後半がブラームスと重量級です。
スクリャービン/幻想曲ロ短調、2つの左手のための小品~夜想曲変イ長調
ブラームス/ピアノ・ソナタ第3番(当初予定のリストから変更)
リストからブラームスへの変更は、練習のやりすぎで指を痛めたらしいとの事で、出来が心配でしたが、当夜の曲目ではあまり影響は内容でした。
冒頭のスクリャービンは、硬くなっていたのか少しばかり機械的な演奏で始まりましたが、曲の後半は自分のペースを取り戻したのか、調子が上がってきたようでした。

後半のブラームスは、リストとは別に弾きにくい曲です。全曲が40分弱と長く、弾き疲れする割に交響曲ほど聞かせどころが分かりやすくないので、労多くして功少なしの作品です。しかし、結果としてこの曲をメインにしたのは正解でした。全5楽章、力強く弾ききっていました。

まだ粗削りですが、今後伸びてほしいと思います。

ベルリン・フィル創立70周年記念演奏会のライヴCDを購入して聴いてみました。

歴史的録音の復刻で名前が知られている、Spectrum SoundによるCD化でドイツのフルトヴェングラー協会盤を元にCD化したものです。

・ベートーヴェン: 大フーガ 変ロ長調
・オネゲル: 交響的運動第3番
・シューベルト:交響曲第8番ロ短調 D.759『未完成』
・ブラームス: 交響曲第1番ハ短調 op.68

 管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 指揮: ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

 録音時期:1952年2月10日
 録音場所:ベルリン、ティタニア・パラスト
 録音方式:モノラル(ライヴ)
 使用音源:独フルトヴェングラー協会 (Original Archive of RBB)

曲目は大半が既にDGなどから発売されていますが、一晩の演奏会のプログラムをまとめて収録してあるのは、このCDだけでしょう。また、採用した音源に独フルトヴェングラー協会がRBBの放送音源をLP化したものを「板起こし」でCD化しているのが特徴と言えます。

他社と違い、「板起こし」のメリットとは何でしょうか?
通常は、放送局所有のテープまたは他の放送局制作のコピーテープを放送用に入手したものからディジタル化して、マスタリングします。オリジナル・テープまたは第二世代のテープからCD化するので、元の音質が悪くとも現状で最善のCD化が可能です。
一方、板起こしを採用する理由は、オリジナルテープが経年年化で劣化するが、昔LP化されたものは保存状態の良いLP盤は劣化が少ないので、劣化したオリジナルテープよりもむしろ良い状態の音でCD化できる、との主張からです。

さて、実際の演奏と音はどうでしょうか。以下の3曲はDGからCDが発売されています。
ベートーヴェン: 大フーガ 変ロ長調
シューベルト:交響曲第8番ロ短調 D.759『未完成』
ブラームス: 交響曲第1番ハ短調 op.68

聴き比べた感触ですが、DGのCDはノイズと暗騒音の除去が相対的に多く、雰囲気自体が微妙に違います。ブラームスの交響曲第1番を昔発売されたLPと比べると、LPはノイズや暗騒音がまだ残っており、音に若干のひずみ感はあるものの最もライヴの雰囲気を残していました。SpectrumのCDは、DGのLPとCDの中間的な感じがします。

では、「板起こし」によるマスタリングが成功したのでしょうか?
正直なところ、このCDではDGのCDを全体として上回るかどうかは再生環境によって評価が変わる程度のものだと思います。
特に、ブラームスの交響曲第1番はSACDもあり、これと聴き比べるとまた異なる印象を受けます。トータルのバランスでは、SACDのマスタリングが比較的うまくいっていると思われます。

つまり、このSpectrumのCDの最大の魅力は、一晩の演奏会を丸ごとCD化したこと、そしてマスタリングは悪くはなく、昔の録音の劣悪さを可能な範囲で救おうとしていることでしょう。
勿論、あくまで1952年のラジオ用録音のレベルを大きく改善することを期待すると、失望がお気いでしょう。独フルトヴェングラー協会のLPとDGのLPを比べることはできませんでしたので、この点は「不明」としておきます。