ESOTERICから、DECCA原盤によるSACDが9月10日に発売されました。
ムソルグスキー作曲の管弦楽曲を集めたものです。

展覧会の絵
http://www.esoteric.jp/products/esoteric/essd90086/index.html

組曲「展覧会の絵」
交響詩「はげ山の一夜」
歌劇「ホヴァンシチナ」~前奏曲(モスクワ河の夜明け)
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団
指揮: エルネスト・アンセルメ

このディスクはLP時代から、大変有名だった録音です。
エルネスト・アンセルメは組曲「展覧会の絵」を4回録音していて、これが4回目となります。
1回目: 1947年(MONO)、ロンドン交響楽団
2回目: 1953年(MONO)、スイス・ロマンド管弦楽団
3回目: 1958年(STEREO)、同上
4回目: 1959年(STEREO、本録音)、同上
3回目のステレオ録音から僅か1年半ほどで再録音していますが、おそらく3回目の出来が芳しくなかったのでしょう。

LPの発売当時は大変人気のあった演奏ですが、今聴くとオーケストラの能力が最高レベルではないので、やや物足りなさを感じます。
アンセルメの解釈はなかなか優れたもので、色彩感と精密な描写を要求されるこの曲を、あまり癖が無くクールに(冷たくはありません)上手くまとめています。
残念なのは、スイス・ロマンド管弦楽団の演奏レベルが、アンセルメの解釈を全て表現しきるには足りないと感じることです。リハーサルを重ねてセッション録音しているので、ソロに破たんはなくアンサンブルもやや精悍さに欠けますが、普通には上手く弾いています。
ただし、その後数多くの名演に接してきた今、この演奏をベストには上げられないでしょう。もちろん、曲を楽しむには十分なレベルなので「下手」と言っているわけではありません。
1964年に録音され、LPの再発売以降常時組み合わされている2曲も、楽しむには十分な出来です。

一方、SACDの音質は素晴らしいと言いきってよいでしょう。
当時のDECCAのメインマイク3本を中心とした録音技術の高さに敬服します。
昔購入したLPでも録音の素晴らしさを堪能しましたが、SACDはLPに比べて取り扱いやすい分、普段聴いて楽しむには50年以上前の録音とは思えないバランスの良さと透明感を保っています。


ヘルベルト・フォン・カラヤンがドイツ・グラもフォンへの1970年代に録音を集めた『Karajn 1970s』。
カラヤンの重要なレパートリーの一曲、リヒャルト・シュトラウス作曲の交響詩《ツァラトゥストラかく語りき》を聴いてみました。

交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」op.30
管弦楽:ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
指揮 :ヘルベルト・フォン・カラヤン
録音:1973年1月、3月ベルリン、イエスキリスト教会


カラヤンはこの曲をセッションで3回録音しています。
1回目:1959年3月、ウィーン・フィル(DECCA)
2回目:1973年1月、3月、ベルリン・フィル(DG、この演奏)
3回目:1983年、ベルリン・フィル(DG)
その他:1970年8月、ベルリン・フィル(Live、テスタメント)

カラヤンは1970年代にR.シュトラウスの作品をDGとEMIにまたがって数多く録音しました。
「ツァラトゥストラはかく語りき」はカラヤンがステレオ時代~晩年に至るまで演奏会・録音で何度も取り上げており、重要視した作品の一つでしょう。

冒頭はゆったりとしたテンポで開始されます。
1959年録音のウィーン・フィルとの演奏に比べ鮮明な音色です。
フォーグラー氏のティンパニも豪快に叩いています。

勿論、CDなのでオルガンのファンダメンタル音は聞こえていないはず・・・・
やや箱庭的な音響空間ですが、艶のあるベルリン・フィルの音に魅せられます。

曲全体の迫力はこのベルリン・フィル盤が最高でしょう。
カラヤンは1983年にもベルリン・フィルと再録音しています。曲のタイトルとなったニーチェの著作に近いのは1983年盤、R.シュトラウスの音響世界を満喫したいならこの1973年盤だと感じます。

決してショウピース的な派手な演出はありませんが、しっかりした中低音に支えられて、木管やヴァイオリンソロの名人芸とオーケストラ全体の引き締まった音が綾なすシュトラウスの世界は『極み』ともいえるものでしょう。
第8曲ではミシェル・シュヴァルベのヴァイオリン・ソロを楽しめます。
1959年のウィーン・フィル盤でのボスコフスキーのソロとの対比に興味がわきますが、R.シュトラウスの曲に近いと言えば、このシュヴァルベの演奏の方がより自然に聴こえます。


演奏とは関係ありませんが、この印象的なジャケットはNASA提供の写真で、1969年に「アポロ12号」が地球の影に隠れた太陽を撮影したものだそうです。


ユニヴァーサルミュージックから、「プラチナSHM」のサンプル盤をもらいました。9月に発売のプラチナSHM第一回発売分20タイトルのさわりを収録したもので、1500枚が配布されたそうです。
レーベル面は「音匠仕様」のような青緑色(ターコイズブルー)で、SHM-SACDと同系色です。これも、CDプレーヤのレーザ光の乱反射防止用なのでしょう。

プラチナSHM

ところで、「プラチナSHMって何?」と思った方も多いのではないでしょうか。

「プラチナSHM」は、ユニバーサルミュージックとビクター・クリエイティブメディアが開発したCDプレーヤ用の高音質ディスクの新製品で、ディスクの素材はSHM-CD(Super High Material CD)と同じく、液晶パネルなどに使われるポリカーボネート樹脂を使っています。違いは、レーザー光を反射する反射膜素材に、従来のアルミではなく、純プラチナ(Pt1000)を使用している事です。
注意点としては、プラチナは反射率が約60%とアルミよりも低いため、CD(CD-DA)の規格である反射率70%には足りません。つまり、CD(Compact Disc)とは名乗れませんし、このディスクを再生できないCDプレーヤも存在する事になります。

当初はサンプル盤に小品がそのまま収録されていると思っていましたが、説明書を読むと「各曲とも約90秒でフェードアウト」との事です。

実際に再生してみました。使用したプレーヤはパイオニアのユニバーサル・プレーヤ「AX5AVi」です。8年ほど前の機種なので、プラチナSHMが再生できるかちょっと不安でしたが、問題なく再生できました。ところで、「ディジタル(PCM信号)で収録したディスクの再生に、盤質や反射材を変えて音が変わるのか」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。事実、最初にCDの規格が発表されたときには、今後盤質やプレーヤに何を使っても同じ音質で再生されると繰り返し発表されました。実際には、少なくともプレーヤを変えると明らかに音は変わります。これは単体プレーヤにはDA変換した後のアナログアンプを搭載しており、これが各社・各モデル違うからです。またドライブ(回転部)の振動もアンプに影響を与えます。セパレート型ではディジタル信号の時間軸ひずみ(ジッター)の影響が出ます。

実際に聴いた「プラチナSHM」サンプル盤の音質ですが、通常のCDとは音の粒立ちが明らかに違います。サンプル盤には20曲のさわりが収録されており、当たり前ですが曲によって音質は違います。反射材をプラチナにしたこと以外に、今回は過去にSACDで発売したタイトルのDSDマスターを採用した事、JVCのHRカッティングを採用した事(元々XRCD用に開発された技術)なども影響しているかもしれません。

但し、SACDには遠く及びません!

あくまで、CD規格(今回は厳密にはCD-DAの規格を満たしてませんが)の中で高音質を目指した製品です。サンプルディスクは、味もそっけもない透明ケースですが、商品は紙ジャケットで所有欲を刺激するものです。
個人的には、SACDを継続的に充実してほしいのですが、今年の2月以降リリースが途絶えており、ヨーロッパからはBlu-Rayオーディオディスクが発売されたりと、再度SACDには厳しい市場環境ですが、頑張ってほしいものです。

ESOTERICがメジャー・レーベルのマスターを借りてSACD化するシリーズ。
6月のブラームス(グリモーが弾く第1番と、バックハウスが弾く第2番)に続き、9月10日にユニヴァーサル原盤の2点が発売されました。

リヒテル&カラヤン
http://www.esoteric.jp/products/esoteric/essg90085/index.html

1点目は、スビャトスラフ・リヒテルのピアノ独奏による協奏曲を2曲収録した超有名盤。
1.  チャイコスフキー/ピアノ協奏曲第1番変ロ短調op.23
管弦楽:ウィーン交響楽団
指揮: ヘルベルト・フォン・カラヤン
録音: 1962年9月、ウィーン楽友協会大ホール

2.  ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調op.18
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー
指揮: スタニスラフ・ヴィスロッキ
録音: 1959年4月、ワルシャワ

いずれもリヒテルの代表的な録音です。LP時代はチャイコフスキーはこれ1曲のみ、ラフマニノフは前奏曲6曲との組み合わせで別々に発売されて、夫々ロングセラーでした。CD化されてからこの2曲を組み合わせたものは、"DG ORIGINALS"や限定版のSHM-CDを含めてリヒテルの顔写真をあしらったジャケットで何度も再発売されており、多分カタログから消えたことはないのではないかと思います。
私も、国内盤のLPや海外盤LP、そしてORIGINALSのCDなど何度も購入したものです。

ちょっと不思議に思ったのは、このリヒテルの「超名盤」をなぜユニヴァーサルミュージックがシングルレイヤSACDでリリースしなかったか?という事です。
SACD化にあたりマスターの品質が重要ですが、既にカール・ベーム指揮ベルリン・フィルによる1960年前後の録音や、カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管弦楽団による管弦楽組曲など、同時期の録音がSACD化されています。

演奏は今さらコメントを追加する必要がないほど素晴らしいものです。この2曲をまず聴きたいなら最初にお勧めの名盤ですので、SACD化による音について書いてみます。

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は、DGから出た”Karajan 1960s"LPと同じ構成(つまり、これ1曲だけで1枚という初期LPと同じ構成)、そしてORIGINALS(輸入盤)です。
ラフマニノフは、DG ORIGINALS(輸入盤)と比べてみました。

まず、チャイコフスキーで比べたCD2種類ですが、普通に聴く分には違いはありません。
同じマスタリングによるもののように感じます。ラフマニノフはDG ORIGINALSを改めて聴いてみました。1959年と録音が古く、西ドイツ(当時)からポーランドに機材を運んで収録するという不便さの中で収録にも困難さもあったと思いますが、古さを感じるものの鑑賞に差し支える事はありません。

さて、ESOTERICによるSACDですが、音質は向上していますが音響のバランスが微妙に異なります。古き良き時代の、良質LPのサウンドバランスを復元しようとした意図があるようです。
SACDという大きな器を活用しようと、CDでは再現困難なサウンドイメージを再創造したような擬似ピラミッド・バランスを作り上げた感じがします。勿論、ピアニシモの美しさはSACDならではの魅力でしょう。リヒテルの弾くピアノの響きはSACD化のメリットを感じさせるものです。
SACD層では、明らかに既存のCDとの差を感じますが、CD層では音色の違いがあまりメリットにはなっていないようです。これはSACD層の音を聴くべきディスクと言えます。

SACDと既存のCD(輸入盤)の価格差を考えると、DG ORIGINALSの存在価値も引き続き高いと思います。9月11日現在、Amazonマーケット・プレイスでは1000円以下で購入が可能です。
勿論、良質なSACDプレーヤとスピーカでSACDが描き出す音響空間を満喫したい方は、ESOTERICのSACDの購入を急がれた方がよいでしょう。

9月20日追記:
このSACD、発売後一週間ほどで主要な小売店では売り切れが多いようです。
本日も都内の某大型店で店の人に話を聞きましたが、短期間で入荷分を売り切ったそうです。
メーカの情報では、月内にもう一回だけ出荷があり、それで生産終了のようです。
購入希望の方は、ESOTERICの取扱店に予約した方が良さそうです。

大指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニーの70年代の録音を集めたHerbert von Karajan 1970sの中には、管弦楽の小品を収めたアルバムが何点かあります。カラヤンは大曲だけでなく、小品にも多彩な表現力を発揮した巨匠なので、今聴いても珠玉の名盤が数多くあります。

そんな中に、歌劇のバレエ曲を集めた一枚があります。
この素晴らしい演奏を「Karajan 1970s」と2011年11月に国内で発売されたシングル・レイヤSACD(SHM-SACD)で聴き比べてみました。


写真:左がシングルレイヤSHM-SACD盤、右が「Herbert von Karajan 1970s

1970年12月、1971年1月にベルリン・イエスキリスト教会で収録されたもので、1967年に録音された「オペラ間奏曲集」と並び、歌劇の中で管弦楽だけで演奏される小品を集めた名盤中の名盤です。収録された曲は以下の通りです。

・ボロディン:歌劇『イーゴリ公』~ダッタンの娘たち踊り
・ボロディン:歌劇『イーゴリ公』~ダッタン人の踊り
・チャイコフスキー:歌劇『エフゲニ・オネーギン』~ポロネーズ
・チャイコフスキー:歌劇『エフゲニ・オネーギン』~ワルツ
・ヴェルディ:歌劇『アイーダ』~巫女たちの踊り
・ヴェルディ:歌劇『アイーダ』~若いムーアの奴隷たちの踊り
・ヴェルディ:歌劇『アイーダ』~バレエ音楽
・ヴェルディ:歌劇『オテロ』~バレエ音楽
・ポンキエッリ:歌劇『ジョコンダ』~時の踊り

20世紀前半に活躍した大半の指揮者と同じく、カラヤンも歌劇場のカペルマイスターとしてウルム、アーヘン、ベルリンなどの歌劇場でで指揮のキャリアを築いてきました。晩年は得意な作品を中心に演奏していましたが、若き日から壮年期にかけては様々な作品を指揮した豊富な経験を持っています。
そのためか、これらの小品を演奏しても小さなドラマを描くように素晴らしい描写力を、ベルリン・フィルの絶妙のな名人芸で聴くものを引き込んでいきます。カラヤンの解釈を嫌う人に「演出過剰」と表現する人がいますが、当時のカペルマイスター出身の指揮者で音楽表現の「演出」なしの人は皆無でしょう。それ故20世紀前半の巨匠たちの個性が表れたのですから。

さて、カラヤンのバレエ音楽に対する「名演出」ですが、冒頭を飾る『イーゴリ公』からの2曲。個人的にも大好きな曲です。通常のCD盤でもOBIPリマスタリングは成功と言ってよいでしょう。70年代初頭のベルリン・フィルの素晴らしい表現力を満喫できます。一方、SHM-SACDに変えると、ピアニシモの静けさが段違いになります。そのため、木管のソロや休符の間の響きの余韻が何とも自然すぎるほどに流れます。そして後半の「ダッタン人の踊り」もカラヤン/ベルリン・フィルの余裕を持ったパワフルな表現を余すことなく再生してくれます。
なお、この曲で「咆哮するブラスや打楽器」を聴きたい方にはこの演奏を薦めません。カラヤンの指揮するバレエ音楽は、あくまで「ドラマを楽しむ極上のエンタテイメント」であり、決して絶叫や咆哮はしません。迫力重視の方にはロバート・ショウ指揮アトランタ交響楽団のTelarc盤でド迫力を堪能してください。

『エフゲニ・オネーギン』からの舞踏会シーンで演奏される2曲、カラヤンは何とも華やかに「演出」しています。これもSACDにすると空間が透明に広がったような感じがします。
『アイーダ』は2度の全曲録音やザルツブルク音楽祭での実演など、得意の曲でしょう。これも、各パートのソロ奏者の名人芸と引き締まった弦楽器群の絶妙のバランスを楽しめます。時折見せるマルカートのキレも「カラヤンはレガートばかり」と思い込んでいる人にぜひ聴いてほしい名演です。
『オテロ』のバレエ音楽は、歌劇の上演ではカットされることが多い曲です。あとから追加された曲なので管弦楽法も円熟度を増しており、ベルリン・フィルが「流石スーパー・オーケストラ」とうならせる完璧なアンサンブルを聴かせます。
『ジョコンダ』~時の踊り。昔、この曲を演奏した事がありますが、改めてカラヤン/ベルリン・フィルの演奏で聴くと、難しいフレーズもあまりにも楽々と楽しそうに聴かせるのに呆然とします。他の曲でもそうですが、バレエ音楽ではリズムを均等には刻みません。ダンサーが自然に踊るには、ジャンプのタイミングなど力を込める瞬間や切り替えの一瞬など「ごく僅かな」バランスを切り替える一瞬が何度も生じます。カペルマイスター時代にバレエ公演も何度か指揮したカラヤンのリズム感覚の見事さにも改めて感動した一枚でした。
SHM-SACD盤は高価なのが大きな問題です。SACD4枚の値段で全82枚のBOXが購入できてしまうので、一般にはBOXセットをお勧めしたいと思います。
しかしながら、SACDで聴く演奏のワイドレンジ感や空気感(ピアニシモや休符に響く微かな流れ)も他に代えがたいものです。私は、重複はありますが何枚かは高額なSACDを手元に置きたいと思います。
このような高品質ディスクを限定盤でしか発売しないレコード各社の販売方法には憤りを感じますが、市場環境がそれだけ悪いのでしょう。残念なことです。