タワーレコードのWebサイトに、旧EMIミュージックのSACDの在庫を割引き販売する広告が掲載されていました。EMIレーベルの版権がユニヴァーサルミュージックからワーナーミュージックに売却されたことに伴い、国内で旧EMIミュージックから発売されていたSACDが全て生産&出荷終了となる模様です。また、ユニヴァーサルミュージックのSHM-SACDも品切れが増え始め、少しずつ市場から消え始めています。

EMIミュージック・ジャパン(当時)は2011年初めにヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮の古い録音を大量(全29タイトル)にSACD化しました。それが大ヒットとなった事を受けて、マルタ・アルゲリッチやサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルの近年の録音のSACD化、そして2011年12月~2012年3月に一挙に100タイトルの『EMI CLASSICS名盤SACD(ハイブリッド)』シリーズを発売しました。
それらが好調だったのか、2010年6月にスタートしたユニヴァーサルミュージック他のシングルレイヤSACDへの対抗策なのか、2012年9月からシングルレイヤのSACD(限定盤)を5か月連続で全75タイトルリリースしました。

リリースされた中には、直前に『EMI CLASSICS名盤SACD(ハイブリッド)』シリーズで発売されたばかりのタイトルが約1/3あった事から、買い直しを煽ると一部で非難されたものの、音質に対する評価は高く、過去のEMI国内盤の音質に対する酷評を挽回する事が出来たシリーズです。

その間に、英EMIがユニヴァーサルミュージックに買収され、日本でもEMIミュージックジャパンがユニヴァーサルミュージックに吸収されました。ちょうど同時期にユニヴァーサルのSHM-SACDのリリースが停止しました。当時は「買収に伴う業務が多いため」と言われていましたが、未だにクラシック音楽のSHM-SACDの新リリースはありません。

SACD_SHM

そして、欧州ユニヴァーサルミュージックがEMIの欧州資産の大半(ドイツの事業、ビートルズ、ヴァージンを除く)をワーナーミュージックに売却(こちらもご覧ください)、それに伴い国内のEMIレーベルの販売もワーナーミュージック・ジャパンに移りました。
EMIレーベルの消滅により、EMIのロゴが付いた商品は順次生産&販売を終了するので、SACDだけの話題ではありませんが、ワーナーミュージック・ジャパンはSACDの発売についても、ごく少数のタイトルをリリースしただけです。今回市場から消えゆくEMIレーベルのSACDがワーナー・レーベルで復活する可能性はあまり高くないような気がします。

SACD(スーパー・オーディオCD)は12年ほど前は「CDの次世代規格」と話題になりましたが、SACD再生可能なプレーヤが必要な事や当初のソフトウェア価格が高かった事などから普及が進まず、長らくSACDの新譜が一部マイナーレーベル中心(例外的にSONY傘下のRCAレーベルが少数リリース)になっています。

明らかにCDよりも高音質を追求できるフォーマットですが、普及する事無く歴史の谷間に沈んでいくのでしょうか。


9月16日の公演予定が台風で延期になっていた、江沢茂敏さんのリサイタル。

江沢茂敏


このたび、代替日が決定して会場の横須賀芸術劇場のWebサイトに掲載されました。

江沢茂敏

江沢茂敏さん、ピアノ・リサイタル、代替日のお知らせ
次回の開催は2014年1月11日(土)、15:00~だそうです。
寒い季節ですが、今度は晴天になってほしいと思います。


その前に、11月20日に表参道のパウゼでリサイタルがあります。
《 桐朋学園 表参道 サロンコンサートシリーズ Vol.22 》
江沢茂敏ピアノリサイタル
2013年11月20日(水) 開場18:30 開演19:00

時間があれば、行ってみたいと思います。

サー・チャールス・マッケラスがスコットランド室内管弦楽団を指揮した、ブラームスの交響曲全集(米Telarc)を久しぶりに聴きました。
この全集は、ブラームス没後100周年を記念して制作されたものです。

オーケストラ編成も1876年に交響曲第1番を初演した当時の編成に近いもので、2管編成(倍管なし)のオーケストラによるものです。ブラームスの生前、もっと大きな編成による演奏もあったようですが(交響曲第2番の初演は1878年、ハンブルグで113名の編成)、作曲者と親しかったマイニンゲン宮廷管弦楽団の編成は49名で、第4番の初演の際にブラームスは増員に反対したそうです。


スコットランド室内管弦楽団は基本的にモダン楽器で演奏していますが、一部の管楽器(トランペットやF管ホルン等)は作曲当時の構造の楽器を使用しています。

今回の演奏の特徴は、作曲当時の演奏表現を、モダン楽器のオーケストラによって現代に生かしたことでしょう。ヴィブラーとを抑制し当時よく行われたポルタメントを効果的に採用、さらにテンポはブラームス自身の解釈に近い、「メトロノームによる機械的な速度決定ではなく、楽譜から読み取れる柔軟な速度(テンポを揺らす事も含む)で」演奏スタイルをとっています。
編成が小さいため、20世紀前半~中盤で広く普及した大編成オーケストラのような重厚感はありませんが、透明感あるれる響きと随所に室内楽風のアンサンブルの妙を聴く事が出来ます。

第1番の冒頭から快速テンポで始まりますが、主題の提示部からテンポを落として一般的な速度になります。主題の提示部を繰り返していますが、冗長感はありません。
第2楽章の演奏は大変チャーミングでさわやかです。
第3楽章も軽快に始まります。全合奏でも音は濁らずに、贅肉をとったような輪郭線が明確な演奏を聴かせます。
第4楽章も、過去に聴いたような重々しい演奏ではなく、コラール風な部分も秋晴れの空に爽やかに響くイメージです。

なお、交響曲第1番のディスクには復元された初版の第2楽章も収録されています。現在演奏されるものと同じ主題を用いながらABABAのロンド形式をとっています。現在の最終版と比べると、明らかに完成度が低くブラームスが改訂した意図が良く分かります。

交響曲第2番は、元々明るく伸びやかな演奏が多かった曲ですが、さらに透明感あるれる響きと奏法の違いから各フレーズの流れがより自然に感じられます。フィナーレに向かって快速で進む風通しの良い演奏です。

交響曲第3番も早めのテンポに曲が凝縮された、ある意味まろやかで濃い味付けです。濃いけれど濁りはありません。第2楽章ではポルタメントを効果的に活用して歌いあげます。第3楽章もロマンティックになり過ぎず、淡い憂いをサラリと聞かせます。

交響曲第4番は、しばしば老成した指揮者が人生の晩秋に臨んだ黄昏のイメージが付きまといます。しかし、マッケラスの演奏はここでも透明感を失わずに進めます。第1楽章から軽やかにスタート、第2楽章も冒頭は快速テンポで途中ぐっと減速、中間部に室内楽風の表現も顔を出します。第3楽章もド派手にならず節度ある輝きを聞かせます。第4楽章に大伽藍の巨大な響きを求めると肩透かしを食わされますが、パッサカリアの構造が透けて見える様な響きはブラームス自身が当時求めたものだったかもしれません。

全体を通じて、現代楽器を使って作曲当時の表現を再創造する魅力を聴かせてくれた全集だと思います。


エレーヌ・グリモーがブラームスのピアノ協奏曲全2曲を録音したCDが発売されました。
録音は2012年4月(第1番)と11月(第2番)です。

H.グリモー、ブラームス


・ピアノ協奏曲第1番ニ短調 作品15
管弦楽: バイエルン放送交響楽団
録音時期:2012年4月
録音場所:ミュンヘン、ヘルクレスザール

・ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 作品83
管弦楽: ウィーン・フィルハーモニー
録音時期:2012年11月
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール

グリモーはフランス出身ですが、レパートリーはフランスものに限定されず、プロコフィエフやラフマニノフのようなロシアもの、モーツァルト/ベートーヴェン/シューマン/ブラームスといった独墺系も得意にしています。過去にもエラート(ERATO、現ワーナー)にブラームスの後期小品集(op.116~119)やピアノ協奏曲第1番(共演:K.ザンデルリンク指揮シュタープカペレ・ベルリン)などを録音しています。

今回の2曲に共通の印象として、いわゆる「男性的な骨太のブラームス」とは一味違うしなやかで抒情的なブラームスという感じです。個人的には、こういうブラームスも有りかな、と思いますが、今回の演奏は評価が分かれそうです。

グリモーは、ピアノ協奏曲第1番をドラマのように捉えているようです。ライナーノーツに掲載されたインタビューでは、第1楽章はシューマンの苦しい生涯、第2楽章はブラームスのクララ・シューマンへの叶えられない愛、第3楽章は復活」と述べています。

第1番の冒頭、ティンパニがドロドロと鳴り響く有名な主題がゆったりと始まります。指揮のネルソンスがグリモーと打ち合わせを進めたうえでの演奏なのでしょう、テンポはややゆっくりでオケのサウンドもバイエルン放送交響楽団の全力投球ではなく、パワー控えめのイメージです。グリモーのソロは輪郭を明確にした演奏ですが、オーケストラの音量を控えめにしているため、あまりひ弱な感じはしません。
第2楽章は「叶えられない愛」を悲しくじっくりと歌い上げます。
第3楽章で力強さを見せますが、太筆書きではなく中細で描くような描写です。終了後に拍手も収録されており、ライヴの本番演奏を主テイクとして制作された事が推測されます。
今回2度目の録音という事もあり、グリモーも過去数多くの演奏経験の積み重ねの上に自信を持った演奏だと思います。

第2番は、オーケストラがウィーン・フィルに交代します。第1番とは別にウィーン・フィルとわざわざセッションを組んで録音しているので、曲の性格によって第1番と第2番で違うオーケストラを起用したのかもしれません。グリモーはインタビューの中で、第2番を「甘美な物語」と表現しています。第1番とは異なるドラマと解釈しているのでしょう。
ブラームスはピアノ協奏曲第1番と第2番の作曲の間に22年の時が流れました。また、グリモーが最初にピアノ協奏曲第1番を取り上げてから第2番を録音するまでに同様に約20年の歳月が必要だったと述べています。

柔らかなホルンの序奏に続いてグリモーのソロ(上昇する分散和音)は、個々の音を美しく響かせます。オーケストラの全合奏は、ムジークフェラインの木とビロードの組み合わさったような響き(同ホールの2階席で聴くと、音がフワーと湧き上がる独特の感じ)を思い出させます。長大な第1楽章は、美しい旋律とは別にピアニストにとって結構過酷な曲ですが、ウィーン・フィルの柔らかなサウンドをバックに巧みにこなしています。
第2楽章のスケルツォ、グリモーのピアノは決してひ弱ではありませんが、もう少し力強さが欲しいと思います。
第3楽章、チェロ独奏とオーケストラが美しい間奏曲風の掛け合いで、グリモーのピアノもこの美しさにピッタリの透明感あるれる演奏を聞かせます。
第4楽章、軽快なオーケストラの導入に続いて、グリモーのピアノも力強さを増して華やかに曲を閉じます。

なお、ドイツ・グラモフォンがこの録音を紹介するムービーを公開しています。

冒頭に、「こういうブラームスもあり」と書きました。グリモー独特の美しさを聴かせる魅力は何度も聴きたくなる演奏です。しかしながら、個人的にはこれら2曲のファースト・チョイスにはならないでしょう。
やはり、過去に聴いたE.ギレリスとE.ヨッフム/ベルリン・フィルの骨太の演奏は永遠の名盤だと思いますし、近年ではM.ポリーニとC.アバド/ベルリン・フィルによる最高の名人芸がマイベスト、第1番はCh. ツィメルマンやA.ブレンデルも魅力的ですし、第2番はポリーニの旧録音も美しさ+超絶の名人芸が忘れられません。

1995年に亡くなった名ピアニスト、シューラ・チェルカスキーが1993年にロンドンのウィグモア・ホールで開いたリサイタルの録音を聴いてみました。

チェルカスキー/ウィグモア・ライヴ
英WIGMORE HALL LIVE WHLive 0014


曲目は、以下の通りです。
ラモー:   新グラヴサン組曲~ガヴォットと6つの変奏 イ短調
ハイドン:  ピアノ・ソナタ第34番 Hob XVI:34
ヒンデミット:ピアノ・ソナタ第3番 変ロ長調(1936)
ショパン:  バラード第3番 変イ長調 op.47
        夜想曲第14番 嬰ヘ短調 op. 48の2
        マズルカ第38番 嬰ヘ短調 op. 59の3
              第42番 ト長調 op. 67の1
バークリー: 6つの前奏曲 op. 23~第5, 6曲 (1945)
         ポルカ op. 5
リスト:    ハンガリー狂詩曲第2番
チャイコフスキー:四季~10月「秋の歌」

1909年オデッサ生まれのシューラ・チェルカスキーは、1935年に初来日しています。
演奏活動が長かったので、レコード録音も比較的数多くありますが、私が最初に聴いたのは、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニーと共演したリストのハンガリー幻想曲でした。

最初のラモーのガヴォットと変奏、チェルカスキーの好みの曲なのか、度々演奏していたようです。軽やかなタッチでチェンバロ曲をピアノで表現しています。

ヒンデミットのソナタ第3番、彼のピアノ作品の中では比較的よく知られている曲です。
あまり聴く機会はありませんが、チェルカスキーは生前よく演奏した曲です。

続くショパンの作品集、流石に技術の衰えは隠せませんが、しっとりと聴かせます。
バークリーの珍しい小品はなかなかチャーミングに聴かせます。

リストのハンガリー狂詩曲では流石に迫力不足は否めませんが、小ホールの特徴を生かして、ここのフレーズを分かりやすく浮かび上がらせるのはさすがチェルカスキー!

最後のチャイコフスキー、この秋の歌を聴くと、他の曲も聴きたくなります。

最晩年の技術的には相当衰えた演奏ですが、各作品をじっくりと歌い上げる表現力はなかなか捨てがたいものもあり、貴重な演奏の記録として手元に残したい演奏といえましょう。