最近活躍が目覚ましい、イザベル・ファウスト。
ベルクやベートーヴェンやブラームスのヴァイオリン協奏曲の録音も注目されています。
今回はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集を聴いてみました。

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ集(全曲)
Disc1
・ソナタ第1番ニ長調 op.12-1
・ソナタ第2番イ長調 op.12-2
・ソナタ第3番変ホ長調 op.12-3
録音:2008年6月

Disc2
・ソナタ第4番イ短調 op.23
・ソナタ第5番ヘ長調 op.24『春』
・ソナタ第10番ト長調 op.96
録音:2008年9月

Disc3
・ソナタ第6番イ長調 op.30-1
・ソナタ第7番ハ短調 op.30-2
・ソナタ第8番ト長調 op.30-3
録音:2008年7月

Disc4
・ソナタ第9番イ長調 op.47『クロイツェル』
録音:2006年5月(Disc4)

イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ、実は「ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲」です。
そのため、ピアニストの役目も大変重要です。

2人の演奏ですが、出版譜や当時の手書き譜面などを検討して、作曲者の意図を現代に再創造しようとしたのでしょう。
昔のオイストラフやメニューヒンのような「巨匠の大技」ではなく、太筆書きで一気にいく感じではなく、精密かつダイナミックに楽譜に書かれたイメージを描き出しています。
テンポはやや早めで部分的にヴィブラートを抑制し、全体に知的な雰囲気を感じます。

ファウストとメルニコフは2012年に来日した際にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲を演奏しましたが、当時のインタビューでも、10番についてこんな発言をしています。
近年ではヴァイオリニストが主導権を持って演奏を組み立てるケースが多いので、このアポジャトゥーラを省くことが多いと思いますが、ベートーヴェンはおそらくピアノ側の視点で考えていたのではないか――ということで、私たちはこれを実際にやってみることにしました。
http://www.ojihall.jp/topics/interview/faust_int.html

作曲当時の即興演奏の記録を参考にしたのか、第9番「クロイツェル」では第一楽章の提示部で、主題をリピートする際に装飾を加えています。
ベートーヴェン自身が卓越した即興演奏で有名だった事から、
決してリピートを同じように弾かなかったはずですから、そういった面も意識して録音していきました。」と、ファウストは上記インタビューでもコメントしています。

個々の曲には、彼らの他にも素晴らしい演奏をしている音楽家もいます。
しかし、全10曲に対する研究成果を学研的ではなく即興を意識した音楽家としてのアプローチは素晴らしいものです。
特筆すべきはピアノのメルニコフ、ただの伴奏ではなく「二重奏」の一人として、必要ならファウストと対等に渡り合い、ある時は寄り添い、抜群の連携プレーを聴かせます。

サー・ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団によるシベリウスの交響曲全集から、最も有名な第2番ニ長調を、ワーナー・クラシックス盤とEMIレーベル売却前の国内盤SACDで聴いてみました。

バルビローリ_シベリウス2
(写真左側は、国内盤SACD、右側はワーナーの全集中の1枚)


ヤン・シベリウス/交響曲第2番ニ長調 op,43
管弦楽:ハレ管弦楽団
指揮: サー・ジョン・バルビローリ
録音: 1966年7月25-26日

バルビローリはシベリウスの交響曲第2番を3回録音しており、この1966年盤が3回目になります。この年に録音したシベリウスの管弦楽曲集とこの交響曲第2番が好評で全集に発展したのでしょう。
第1楽章はゆったりと牧歌的に開始します。オーケストラのアンサンブルがやや緩い傾向ですが、曲の暖かな雰囲気をよく出しています。
第2楽章は、指揮者によっては重く暗く演奏します。バルビローリは沈潜した響きを強調しすぎることなく、重い響きもオドロオドロシクなりません。これを「良い雰囲気」と感じるか「もの足りない」と感じるかは好みの差が出るでしょう。
第3楽章、少し荒々しさを感じさせるスケルツォです。ハレ管弦楽団の音色をうまく活かして精密さよりも活き活き感を表に出した演奏です。
第4楽章の出だしは、節度ある盛り上がりのように感じてしまい、個人的には少し物足りません。カラヤン/ベルリン・フィルの1980年盤のような超壮麗な演奏を期待しているわけではありませんが、ゆったりとしたテンポでスケール感を出すか、早めのテンポでキビキビを進めるかどちらか主張があっても良いと思います。

SACDとCDの比較は、先日比較した管弦楽曲集と同様な違いです。特にSACDはシングルレイヤなので、音の鮮明度はCDより上回ります。その分、オーケストラの粗さも分かりやすくなってきます。SACD1枚の価格で交響曲全集を上回る価格差を考えると、一般には輸入盤の交響曲全集+管弦楽曲集の方がより多くの曲を堪能する事が出来ます。

バルビローリの演奏は、交響曲全集の中の1曲としては名演と言ってよいでしょう。北欧系の指揮者に多い寒色系の演奏よりも、この曲にはバルビローリのような暖色系の解釈が生かされます。ただし、シベリウスの交響曲第2番は他にも素晴らしい演奏が数多く存在します。


バルビローリ指揮ロイヤル・フィルハーモニーとの演奏(Chesky Records)は、彼の2回目の録音ですが、録音自体はむしろこちらの方が良いのでは、と感じられます。オーケストラも、当時のロイヤル・フィルのアンサンブルはハレ管弦楽団よりも優れた演奏を聴かせます。私の持っているのは米CheskyのLPですが、これは単独でも名盤といえます。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルの1980年盤(EMI→ワーナー)は、オーケストラの名人芸による細やかさと圧倒的な力で全曲を押し通します。第4楽章の壮麗さはやや「やりすぎ」の傾向もありますが、ここまでやり切れば一つの「極地」でしょう。

シベリウス自身が高い評価を与えたユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団(RCA)の演奏もお勧めです。
オーマンディのシベリウスに対する深い理解と共感を感じる事が出来、リズム感と音色やオーケストラのアンサンブルも出色のものです。国内盤のXRCDは残念なマスタリングで、フィラデルフィア管弦楽団の音響バランスと似つかぬよそ行きサウンドになってしまっているので、RCAの輸入盤をお勧めします。

他には、バルビローリと同じく1970年に惜しまれつつ病没したジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の東京公演ライヴも、完璧なアンサンブルと適度な流麗さ、そして曲の息吹をライヴで活かしきった素晴らしい演奏が発売されています。私は、このSACD盤を持っていますが、何度聴いてもうっとりするほどで、昔ジョージ・セル指揮のクリーヴランド管弦楽団の演奏を「機械的」と評した人には、ぜひこの演奏を聴いてほしいと言いたい「生命感」あふれる貴重な遺産です。

10月22日は、フランツ・リストの誕生日です。
リストは1811年10月22日に生まれ、1886年7月31日に亡くなっています。
ピアノの名手として知られ、作品も2曲のピアノ協奏曲やピアノ・ソナタロ短調、ハンガリー狂詩曲など数多くのピアノの作品が有名です。

リストのピアノ作品を聴く場合、CDに最も手がのびるのがラザール(ラーザリ)・ベルマンの演奏です。今年は、村上春樹の小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に便乗して、『巡礼の年』全曲を収めたCDが売れたようです。

彼の名を一躍世界中に知らしめたのが、1963年にモスクワで録音された「超絶技巧練習曲」です。このレコードがメロディア・レーベル経由で西側で販売されてベルマンの名が知られ、カラヤンがエミール・ギレリスにベルマンについて尋ねたところ「リヒテルと私が4本の手で弾いても敵わない」というコメントが有名になりました。
その結果、彼は1975年に急きょカラヤン指揮ベルリン・フィルと共演してチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番をドイツ・グラモフォンに録音しています。
ベルマンは1977年に来日、NHK交響楽団とチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏しています。
その後、ベルマンは欧米のメジャー・レーベル各社にいくつかの録音を行いましたが、晩年はあまり録音を行わず2005年に惜しまれつつ世を去りました。

ベルマン_リスト

私も当時、輸入盤でLP2枚組の「超絶技巧練習曲」を購入して、その驚くような技術(あまりにも自然に弾くので、この曲集が超絶技巧に聞こえないほど)にボーッとした記憶があります。

ラザール・ベルマンの弾くリストの「超絶技巧練習曲」は、この曲の決定盤と言われながら、なぜか長い間廃盤のままで入手困難な状態が続いていました。おそらく、当時の原盤を管理していた旧ソ連のメロディアが、民営化後に何らかの混乱で、原盤の提供がストップしてしまったのでしょう。


幸いなことに、2年ほど前にロシアの「ヴェネツィア」レーベルから、この名演が再発売されました。70年代のメロディアへの録音も合わせて3枚組で、価格も安く入手しやすいのですが、解説はロシア語です。

Berman_Liszt
(再発売された「ヴェネツィア」レーベルのCD)

改めて聴いてみましたが、ベルマンは技術一辺倒ではなく、ロマンティックに歌い上げるような演奏が特徴です。20世紀半ばに活躍したピアニストですが、19世紀ロシアのロマン派の潮流を受け継いでいたのでしょう。
超絶技巧練習曲は、録音も古くやや聴きづらい個所もありますが、演奏の見事さでは今でもこの曲のNo.1でしょう。このセットに収録されているシューベルトの歌曲をピアノに編曲した作品群や、有名なソナタロ短調も素晴らしし演奏です。


CD1
・シューベルト/リスト編:『魔王』
・シューベルト/リスト編:『どこへ?』(『美しき水車小屋の娘』から)
・シューベルト/リスト編:『若き尼』
・シューベルト/リスト編:『アヴェ・マリア』
・シューベルト/リスト編:『幻覚』(『冬の旅』から)
・シューベルト/リスト編:『辻音楽師』(『冬の旅』から)
 1965年モスクワでのスタジオ録音(ステレオ)

・リスト:メフィスト・ワルツ第1番ハ短調
・リスト:『巡礼の年』第2年 補遺~「ヴェネツィアとナポリ」
 1975年モスクワでのスタジオ録音(ステレオ)

CD2
・リスト:超絶技巧練習曲
 第1番ハ長調「前奏曲」
 第2番イ短調
 第3番ヘ短調「風景」
 第4番二短調「マゼッパ」
 第5番変ロ長調「鬼火」
 第6番ト短調「幻想」
 第7番変ホ長調「エロイカ」
 第8番ハ短調「狩」
 第9番変イ長調「回想」
 第10番へ短調
 第11番変ニ長調「夕べの調べ」
 第12番変ロ短調「雪かき」
 1963年モスクワでのスタジオ録音(ステレオ)

CD3
・リスト:ハンガリー狂詩曲第9番変ホ長調『ペシュトの謝肉祭』
 1961年モスクワでのスタジオ録音(モノラル)

・リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
 1975年モスクワでのスタジオ録音(ステレオ)

ピアノ:ラザール・ベルマン

ワーナーから発売された、ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団によるシベリウスの交響曲全集から、第6番ニ短調を聴いてみました。

バルビローリ_シベリウス3&6

(写真は単売のジャケットです)

シベリウス/交響曲第6番ニ短調 op.104
管弦楽:ハレ管弦楽団
指揮: ジョン・バルビローリ
録音: 1970年5月21日~22日、ロンドン


バルビローリ指揮によるシベリウスの交響曲の録音は、1966年7月に第2番と第5番で開始されました。その後以下のように録音が進み、1970年5月に第6番を録音して交響曲全集が完成しました。

交響曲第2番、1966年7月25-26日
交響曲第5番、1966年7月26-27日
交響曲第1番、1966年12月28-30日
交響曲第3番、1969年5月27-28日
交響曲第4番、1969年5月29-30日
交響曲第7番、1969年8月5日
交響曲第6番、1970年5月21-22日

演奏は、寒色系のこの曲のイメージを大切にしながら情緒と気品を感じさせるものです。バルビローリのシベリウスは、特に初期の作品では独特の暖かさを感じさせ、北欧系の指揮者によく聴かれる寒色系の演奏とは異なる魅力を持っています。また同時にこの第6番では、ドリア旋法を取り入れた神秘的かつひんやりした感触を上手く表現しています。
第1楽章ではヴァイオリンによる聖歌風の旋律やフルートが奏でる第2主題をさわやかに聴かせます。第2楽章は、間奏曲風に弦と木管が寂寥感を描いています。第3楽章はスケルツォ風(スケルツォではありませんが)に躍動感あるリズムがイキイキとした感触です。
そして最後の第4楽章。ドリア旋法による宗教的雰囲気を醸し出しますが、じめじめした感じはありません。途中で高揚しますが、最後は静かに幕を下ろします。

バルビローリは1970年5月3日にマンチェスターで彼の最後の演奏会を指揮しました。
その中に、この交響曲第6番ニ短調が含まれています。演奏会の後、5月21日と22日にこの曲を録音した後、約2ヶ月後来日を前にして亡くなりました。来日公演を聴けなかったのは残念ですが、この第6番は彼の貴重な遺産であるとともにシベリウスの交響曲全集の中でも安心して聴けるセットの一つだと思います。


EMIの欧州資産がユニヴァーサルミュージックからワーナーミュージックに売却されたことに伴い、過去にEMIクラシック・レーベルで発売されていたタイトルの一部が、ワーナー・クラシックスレーベルで再発売され始めました。買収の件は、2月の記事もご覧ください

2000年にEMIから発売された、ジョン・バルビローリ指揮ハレ 管弦楽団によるシベリウスの交響曲全集+管弦楽曲集が、ワーナーからも再発売されましたので、まずCD1の管弦楽曲集を国内盤のSACDと聴き比べてみま した。なお、「トゥオネラの白鳥」はLPで交響曲第2番と組み合わせたためか、SACDでも同じ組み合わせになっています。

(写真左がEMIの国内盤SACD、右がワーナー盤のライナーノートとCD)


1. 交響詩「フィンランディア」op.26
2. 「カレリア」組曲 op.11
3. 交響詩「ポホヨラの娘」op.49
4. 悲しき円舞曲 op.44
5. 交響詩「4つの伝説曲」~トゥオネラの白鳥 op.22-2 (SACDは未収録)
6. 交響詩「4つの伝説曲」~レミンカイネンの帰郷 op.22-4

管弦楽:ハレ管弦楽団
指揮: ジョン・バルビローリ
録音:1966年1月23日-24日、ロンドン アビーロード1番スタジオ
ディジタル・リマスター:CD/1999年、SACD/2011年(担当:サイモン・ギブソン)

最初はもっとも有名な交響詩「フィンランディア」。冒頭の暗い金管のイントロが、暗くなり過ぎず十分な厚みをもって木管の素朴な旋律に引き継ぎます。チューバに重なるティンパニのロールも力強く、オケ下手側の定位も比較的明確です。
さて、CDとSACDの比較ですが、CD盤は単独で聴けば十分に演奏を堪能できますが、SACDとの比較では、弦楽器がペタっとして不自然に感じます。また、全体的にノイズ・リダクションの弊害で各楽器の立ち上がりや余韻が平坦に感じてしまいます。
この感触は「トゥオネラの白鳥」以外の全曲に共通して、ARTマスタリングでのノイズ・リダクションのかけ過ぎと今回とのイコライジングの違いに起因しそうです。勿論、SACDでもノイズ・リダクション(Cedar社の製品か?)はしっかりと使用されてヒスノイズやポップノイズはほとんど聞こえません。

「カレリア」組曲は私の大好きな作品の一つです。優しく美しい旋律と終曲の行進曲に聴かれる軽やかな盛り上がりなどが印象的です。バルビローリは行進曲がややゆっくりした演奏ですが、独特の暖かい音作りがフィンランドの指揮者と異なる個性が活きています。この曲では、特にピアニシモの細かいニュアンスでCDとSACDの格差を感じました。
交響詩「ポホヨラの娘」では、前半はじっくりと抒情的に歌い上げ、中間部では巧みに盛り上げて迫力ある演奏を聴かせます。
悲しき円舞曲では、ハレ管弦楽団の弦にもう少し艶が欲しいと思いますが、ワーナーのCDでは臨場感が少ない分、その難点が隠れ気味になります。CDに対する意見が厳しくなりましたが、あくまでSACDと比較しての話なので、CD単独で聴けばバルビローリ指揮の定評あるシベリウスの演奏を堪能できるレベルです。

全体では、2011年にリマスタリングしたSACDがより音響空間の透明度や各楽器の自然さで勝ります。しかしながら、ワーナーのCD BOXは、5枚組で交響曲全曲と上記の管弦楽曲集が収録されて、実売価格がSACD1枚よりも安いのが現状です。(2013年10月現在)
これだけ価格差があると、通常は輸入盤のCDを勧めた方が無難かと思います。
ただし、EMIレーベルの消滅に伴い、国内盤のSACDは生産と出荷を終了するので、SACDを欲しい方は早めにショップの在庫を確認して購入した方が良いでしょう。