今年は、ストラヴィンスキー作曲『春の祭典』の初演100周年です。
ちょっと変わったところで、カラヤン指揮ベルリン・フィルで聴いてみました。


(写真:左が1963/64年盤、右が1977年盤)


イーゴル・ストラヴィンスキー/舞踊音楽『春の祭典』
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー
指揮 :ヘルベルト・フォン・カラヤン
録音 :
旧:1963年10月17/19日、1964年2月10日(ベルリン、イエス・キリスト教会)
新:1975年12月3/4日、1976年12月10日、1977年1月30日(ベルリン・フィルハーモニー)


合計演奏時間は34分46秒(1回目)、34分42秒(2回目)とほとんど一緒です。
しかし、聴いて受ける印象には少し差があります。
全体のイメージは、「整然とした1964年盤」「より完璧な1977年盤」です。
但し1964年盤の印象は作曲者の否定的なコメントとは違います。
確かに、荒々しさはあまりなく、きちんと整った「ハルサイ」です。
初演当時は「前衛音楽」でしたが、カラヤンは「現代の古典」のように聴かせます。
1964年には、作曲者指揮の『春の祭典』が米コロムビア(CBS)から発売されました。
カラヤンの1964年盤は、それよりは遙かに魅力的な演奏と言えます。


1回目の録音は、作曲者が「飼いならされた野蛮さ」と否定的なコメントを残しました。
このコメントから、「都会的過ぎ」「人工的」などの評判ができてしまった不幸な録音です。
作曲者のコメントが必ずしも正しいとは言えない不幸な例だと思います。
ブーレーズ指揮フランス国立放送管弦楽団の録音にも消極的な評価をしています。
まるで、自作自演のLPと競合する演奏に否定的な評価をしたかのようです。


勿論、G.グールドのようにこの演奏を高く評価した音楽家はいました。
しかし、カラヤン自身もその後の数年間、『春の祭典』を封印してしまいました。
カラヤンが封印を解いたのは、1971年のストラヴィンスキー追悼公演、
『春の祭典』他の作品を7回演奏しました。
翌1972年にはロンドン公演で、『春の祭典』を演奏しています。


カラヤンは1975年12月に2回目の録音に着手しました。
脊椎障害が重く一旦中断、最後に1977年1月に完成させています。
録音に3年かけた事から、当初は「継ぎはぎセッション録音?」と言われました。
しかし、採用されたテイクは1977年1月30日の1テイクのみだったそうです。
つまり、34分の全曲をスタジオ・ライブのように通して演奏した録音が、
ほとんどそのままレコード(今はCD)になったという奇跡的な演奏でした。
「Herbert von Karajan 1970s」の解説も、修正は一か所のみと記載されています。
こんな事が可能なのは、当時のカラヤン指揮ベルリン・フィルだけだったでしょう。


この演奏では、ベルリン・フィルがまさしくスーパー・オーケストラの姿を全開にします。
今回も洗練された演奏ですが、音響面では下手な「野性的演奏」より迫力満点です。
金管の咆哮やつんざくような打楽器のインパクトが迫ってきます。
カラヤンは1964年盤では出しきれなかった表現を、ここでやり尽した感じです。
やや個性的な演奏ではありますが、ここまでやり尽せば見事と言って良いでしょう。


1970年代は数多くの「ハルサイ」の録音が市場をにぎわせました。
ショルティ指揮シカゴ交響楽団(1974年5月録音)も技術面は超Aクラスでした。
しかし、舞踊音楽を管弦楽作品として描き出す力には格差を感じます。

デイヴィス指揮『春の祭典』

コリン・デイヴィス指揮コンセルトヘボウ管弦楽団(1976年11月録音)は、
録音の素晴らしさ、RCOの多彩な音色で万華鏡のような世界を体現できます。

アバド指揮『春の祭典』

Le Sacre Du Printemps  Firebird: Abbado / Lso (SACD Limited)

この時期では、クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団(1975年2月録音)の演奏が、
鮮烈さと第2部の抒情性、そして全体に吹き上げる生命力で圧倒する名演でしょう。


カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニーの1977年来日公演のSACDを聴きました。
彼らは1975年に来日してその公演は大成功!そして1977年にも来日しました。

ベーム/Wph、ベートーヴェン

ベートーヴェン作曲:
交響曲第6番ヘ長調≪田園≫ op.68
交響曲第5番ハ短調 op.67
『レオノーレ』序曲第3番 op.72a


管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー
指揮 :カール・ベーム
録音 :1977年3月2日、東京(NHKホール):NHKによる実況録音


一曲目の《田園交響曲》、1971年にDGに録音された演奏が有名です。
私も購入して、永らくブルーノ・ワルター指揮コロムビア交響楽団、
オイゲン・ヨッフム指揮コンセルトヘボウ管弦楽団と並んだ愛聴盤でした。

今回の演奏は晩年のカール・ベームと彼を敬愛するウィーン・フィル、
両者の組み合わせが上手く働いた名演でしょう。
ベームの統率力の衰えからか、アンサンブルがゆるかったり、
テンポが弛緩気味ですが、楽団員が自発的に補っていると思います。
アインザッツが緩く縦線が合わなくてもフレーズ全体では合わせてしまうという、
ウィーン・フィルの特徴がここでは効果を発揮しています。

指揮者が意図したのか、楽団員の自発性でそうなったのか、フレーズでの
テンポの揺らぎが、この交響曲では歌い回しの魅力になっています。
音色は美しく、第4楽章などは迫力不足ですが不満は感じません。

続く交響曲第5番では堂々とした演奏です。
このディスクの欠点の一つとして偏った解説が掲載されており、
交響曲第5番の演奏をあまり良く書いていません。
もちろん、ライブ一発の細かい傷はありますが、鑑賞には差し支えません。
近年の演奏に比べてテンポは遅いですが、チェリビダッケのような
耐えきれない遅さではありません。

アンコールはレオノーレ序曲第3番。アンコールにしては長大な曲です。
おそらく、カール・ベームはこの曲が大好きなのでしょう。
解説では、当日指揮のミスでアンサンブルが崩れかけるところを、コンマスが
身体で合図を出して小さな傷に収めたと述べられています。
音だけ聞くと、該当箇所の音量変化がやや不自然ですが、さほど気にはなりません。

さて、シングルレイヤSACDの音質ですが、マスターがFM放送用録音に
しては演奏を良く再現しています。SACDのダイナミックレンジを活かして、
田園の冒頭は低いレベルで収録されています。
CDでこれをやるとピアニシモで歪が増大しますが、DSD形式のSACDでは、
ピアニシモも美しく、フォルテに至る音量の増加をそのまま体験できます。
可能なら、アンプのボリュームを通常よりも大きめにセットすると、
このSACDの良さが味わえると思います。

カール・ベーム晩年のウィーン・フィルとの貴重な記録というだけでなく、
懐かしさもありますが、演奏自体も十分楽しめる録音です。

ESOTERICから、今日発売予定だったSACDのBOX セット「グレイト4オペラズ」。

SACD発売延期


お昼前にショップから電話があり、「出荷延期」との事でした。
なんでも、製品の一部に瑕疵が見つかり、出荷が一旦停止中とされています。
発売延期

Webサイトには、「音源提供元に詳細を確認中」と記載があります。
音質の問題なら、リマスタリング作業中に問題になるはずです。
従って、SACDの再生チェックで何か問題が見つかったのでしょう。
この時期にみつかる「問題」とは何かちょっと気になります。
過去、他社の例では、以下の例が考えられます。
・演奏の一部欠落
・演奏の曲順が一部異なる
前者なら、マスターを再度取り寄せる必要があり、販売は大幅に遅れます。
後者なら、日本で順番を差し換えて(または、これが最新の配列とする)、
再編集(または注意書きをシールで貼るだけ)することになります。

どちらにしても、ESOTERICのアナウンスがどうなるか次第で、時期も決まるでしょう。

この週末はオペラ三昧の予定でしたが、予定変更して、何か暖まる曲でも聴きたいと思います。

ESOTERICから12月5日にSACDの新譜が2点発売されました。
1点目は、ピエール・フルニエのチェロでドヴォルザークのチェロ協奏曲ほかです。
2点目は、マウリツォ・ポリーニのピアノ独奏を堪能する一枚です。


http://www.esoteric.jp/products/esoteric/essg90088/index.html


ストラヴィンスキー/「ペトルーシュカ」からの3楽章
プロコフィエフ/ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調 op.83 「戦争ソナタ」
ピアノ:マウリツォ・ポリーニ
録音:1971年9月、ミュンヘン

ポリーニは、1960年のショパン・コンクールに優勝後、
研鑽のために約8年間演奏活動を制限していました。
1968年に活動を再開、その後ドイツ・グラモフォン(DG)と契約、
第一弾として1971年に録音されたアルバムのSACD化です。

ペトルーシュカからの3楽章はバレエの全4幕からの抜粋で、
以下の3曲からなるピアノ独奏曲です。
Ⅰ.ロシアの踊り(第1場お第3部)
Ⅱ・ペトルーシュカの部屋(第2場)
Ⅲ.謝肉祭の日(第4場)

ここで聴くポリーニの演奏は、疾走する煌めきのように輝きます。
「テクニックが凄い」といったありふれた表現を遥かに超える衝撃!
この曲はA.ルービンシュタインのために書いたのでなく、
ポリーニによって弾かれるのを待っていた!そんなインパクトです。

プロコフィエフは第二次世界大戦中に3曲のピアノ・ソナタを書きました。
第6番イ長調、第7番変ロ長調、第8番ロ短調で「戦争三部作」と呼ばれます。
第7番は1943年に若き日のスビャトスラフ・リヒテルが初演しました。

ポリーニは力強く、かつ透明感あふれる響きで一気に聴かせます。
不安な響きの第1楽章を生きた機械のような力強さで颯爽と弾きまくり、
第2楽章では、タッチの美しさとダイナミックレンジの広い演奏で、
感傷を寄せ付けません。
第3楽章は、凱歌風の曲をまさに天馬が駆けるように颯爽としています。

SACDの音は、既存のCDよりも空間が広がった感じがします。
一瞬、録音レベルが低いかと思う箇所も有りますが、LPやCDは
リミッターでダイナミック・レンジを抑えていたのでしょう。
ぜひSACD層の音を堪能してほしいと思います。

このSACDはオリジナルLPと同じで、収録時間は35分ほどです。
マルチ・チャンネルを含まなければ長時間収録が可能なので、
既存のCDのように曲を追加して欲しかったと思いますが、
収録時間が短くても、この演奏は購入する価値がある宝だと断言してよいでしょう。

ESOTERICから12月5日にSACDの新譜が2点発売されました。
1点目は、ピエール・フルニエのチェロによるもの、
ドヴォルザークのチェロ協奏曲とベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番です。


http://www.esoteric.jp/products/esoteric/essg90087/index.html



ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調 op.104 (*)
ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第3番イ長調 op.69 (**)
チェロ: ピエール・フルニエ
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー (*)
指揮: ジョージ・セル (*)
ピアノ:フリードリヒ・グルダ (**)
録音:1961年6月1~3日 ベルリン、イエス・キリスト教会(*)、
   1959年6月 ウィーン、ムジークフェライン(ブラームス・ザール) (**)

2曲とも高く評価された名盤なので、何度も聴いた方も多いでしょう。
私も最初はヘリオドール(DGの廉価盤レーベル)のLPで聴きました。
先に購入していたロストロポーヴィチとカラヤン指揮ベルリン・フィルのLPと聴き比べ、
「ドヴォルザークのチェロ協奏曲は、この2枚があれば他にはいらない」などと、
生意気にほざいていた事を恥ずかしく思い出します。

ドヴォルザークのチェロ協奏曲で、
ジョージ・セル指揮ベルリン・フィルは非常に緊密なアンサンブルを聴かせます。
セルは、アンサンブルを引き締めるだけでなく多彩な音色を引き出しています。
例えば、コントラバスはフレーズによって筋肉質の「ブン!」という音を出したり、
内声部の下を支える柔らかな音を出したりと上手くコントロールしています。
金管群は決して咆哮する事は無く、ドヴォルザークの音色を

フルニエは、パワーやテクニックをことさら際立たせるような事はありません。
フレーズを丁寧に弾くことで、音量やコブシに頼らず主題を浮き上がらせます。
例えば、第1楽章で主題をソロが弾く時に、わずかにテンポを落とします。
この僅かな変化で独奏チェロの旋律線がくっきり浮かび上がります。
チェロの音色はほのかに明るく透明感あふれ、まさに「チェロの貴公子」です。
第2楽章は抒情的で落ち着いた演奏、決して旋律の美しさに流されずに、
曲の形を描いています。
第3楽章、オーケストラとソロの絡みでも、フルニエのチェロは凛とした佇まいで、
音色だけに頼らない構成美をベルリン・フィルと作り上げます。

ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番、作品番号は「田園交響曲 op.68」の次(69)、
ソナタ全5曲中で第3番だけが壮年期の曲です。
フリードリヒ・グルダとはレコードではこのベートーヴェンだけの共演のようです。
グルダはモーツァルトでは独自に装飾音を追加したり、ジャズも演奏したりと、
個性豊かな音楽家ですが、このベートーヴェンでは正統派の演奏です。
後に、シュタイン指揮ウィーン・フィルとベートーヴェンのピアノ協奏曲で
見事な演奏を遺していますが、フルニエと共演した影響も大きかったでしょう。

今回のSACD化によって、チェロのボウイングの音がより自然な響きになりました。
2曲ともステレオ初期の古い録音ですが、SACD化の価値がある名盤です。

今回も限定盤なので、リヒテルとカラヤン共演のチャイコフスキー
同様に短期間で売り切れてしまうかもしれません。
一般のCDショップに並ばない(オーディオ製品の流通)ので、
購入できる店舗が限られますが、早めに入手する事をお勧めします。