【タイトル】 『世界と趣向のShort tales』

【著者】 田辺 晋

【発行所】 Project Be Silly

【概要】 本誌に掲載されている三作品は、いずれも、歌舞伎や浄瑠璃における物語創作技法、すなわち、世界と趣向の技法を真似ることで成った短編小説。

 

 世界と趣向の技法とは、義経記や平家物語といった、誰もがそのストーリー展開を共有しているポピュラーな既成の作品を下敷きに(世界)、原作にはない独自要素を加えて(趣向)新たな展開を生み出そうとするものです。

 京都を拠点に活動する団体〈木ノ下歌舞伎〉を主宰する木ノ下裕一氏によれば、江戸時代における芸能作品は、まったくのゼロから創造するものではなく、誰もが知る物語をいかに変えていくか、との視点で創作されるものであったといいます(NHKラジオ第二放送『おしゃべりな古典教室』番組中シリーズ「歌舞伎作者になってみよう」(各15分4回)に出演した際のコメント)。

 また、同氏によれば、趣向には、原作にない登場人物を加える、新たな設定を持ち込む(実は○○だった、など)、別の世界と掛け合わせる(綯い交ぜ)、現代の出来事と重ねる(社会風刺)など、いくつかの代表的なパターンがあるとのこと(同前)。

 本作『世界と趣向のShort tales』は、この手法を真似て創作した短編小説集となっています。以下、掲載作を簡単に紹介します。

 

 一作目は『あなたのおうちは……。』です。本作の世界は童謡『犬のおまわりさん』。そこに趣向として、童話『マッチ売りの少女』の世界を掛け合わせました。原作にない新たな設定を持ち込んでもます。

 

 二作目『黒ヤギさんの手紙』は、タイトルから察しがつくと思いますが、童謡『やぎさんゆうびん』です。読まずに食べてしまった手紙に何が書いてあったのか、それが本作の趣向として持ち込んだ設定です。

 

 三作目は『伯爵令嬢と精霊狐の隠匿協定』です。本作の世界は童謡『森のくまさん』です。『森のくまさん』の歌詞は謎めいています。お嬢さんを森から逃がそうとするのはなぜか、そもそもお嬢さんは森へ何をしに行ったのか、急いで逃げてきたにしては呑気に歌っているのはどういう状況なのか、などなど。これらの謎に対するひとつの想像的見解を示しつつ、歌詞からは読み取れない斬新な設定と新たな登場人物の導入によって一本の物語として発展させたファンタジーとなっています。

 

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【規格】A4 横書き 35ページ

 

【発行】令和5年10月16日

 

『世界と趣向のShort tales』(PDF)18.5MB