先日、ある方のブログを読んで書きたくなったテーマ。

 不眠を訴える人は多く、この新聞記事によると日本人の10人に1人もいるそうです。


 内科を受診したついでや、心療内科で「最近眠れません」と訴えると簡単に睡眠薬を処方してくれます。
 服用するとさすがはよく眠れるのですが、効きが悪くなる、癖になる(依存する)という心配がつきものです。

 今日は睡眠薬そのものの依存性は別にして、アルコール依存症と不眠・睡眠薬のことを書いてみたいと思います。
 
 「寝酒として飲んでいたのが量が増え、アルコール依存症になった」。院内例会ではよく出る話です。

 お酒を飲むと実際よく眠れるので、眠れない日があると「お酒があればいいなあ」という精神依存が生じます。これは病気でもなんでもないのですが、アルコールには耐性があるのでそのうちより多くの飲まなければ眠れなくなります。

 「飲んで鍛えれば酒に強くなる」と言われた人も多いと思いますが、お酒を1合しか飲めない人が毎日たくさん飲んでも2合まで耐えられる肝臓になるわけではありません。
 耐性とは砕いて言えば、脳が満足をするために必要な量が増えること、酒に強くなったと喜んでいる人もいますが、よく考えると1合で酔えたものが2合飲まないと酔えなくなっているのだから損をしているのです。

 そうこうしているうちに、飲まないと眠れないを通り越してお酒が切れると朝早くに目が醒めてしまうようになります。こうなると要注意。なぜなら不眠・覚醒もアルコールの離脱症状の一つだからです。
 離脱症状とはこれまた砕いて言えば、体内に当たり前にあるものが無くなって、自律神経が慌てている状態です。つまり酒切れると目が醒めるのは、アルコールが体内にあるのが当たり前になってきている証拠といえます。
 もちろんこの段階でアルコール依存症が発症しているとは言えないのだが、依存への針は確実に進んでいるといってよいでしょう。

 私のようにアルコール依存症を発症し、長い間お酒を飲み続けている人が突然お酒を切ると、まずやってくるのが不眠。しかも相当えげつない不眠が待ち受けています。アルコール病棟に入院すると、多くの人がまったく眠れない「全不眠」を経験します。
 全不眠が続く期間は人によって違いますが、相当長い間しんどい目をした人を見ています。
  
 全不眠が過ぎ去っても、細切れ睡眠~睡眠状態誤認~熟睡感の喪失という経過をたどって睡眠のリズムを取り戻しますが、人により1年から2年かかることもあるそうです。
 
 こうなると患者が訴えることはだた一つ「睡眠薬を出してほしい」になるが、残念ながら私の主治医は決して処方しません。(※)

現在、国内で認可されている睡眠薬のほとんどは新聞記事にあるようにベンゾジアゼピン系で、これらは大量に服用しても死亡することがほぼない安全な薬なのですが、アルコール依存症者にとっては禁忌です。
 ベンゾジアゼピンは脳内ではアルコールと同じ動きをする物質で、これを飲むのはお酒を飲んでいるのと同じなのです。当然、酔っぱらった状態が続くし、飲酒欲求を引き起こしてしまいます。
 
 昔、ベンゾジアゼピンの危険性が指摘されていなかった頃は、病院でもふつうに処方していたそうで、今から思うと「アル中を治しに来て、ヤク中にして帰す」という笑えないことをしていたと先生は仰っています。 
 また、アルコール病棟を退院してあまり時間が経たない不安定期に、不眠やうつを訴えて他の心療内科などを受診してこの薬を処方され、病気をこじらせてしまうことも多くあるそうです。
 
 お酒を止めたことによる不眠、それはお酒を飲んだことで起こっているので、飲まずに耐えるしかありません。睡眠薬で安眠を得たとしても、結局は後々乗り越えなければならず、リスクも大きいのです。

 アルコール依存症のことで個別に相談を受けることも多いのですが、必ず専門外来の受診を勧めるのは、この危険を避けるのがひとつの大きな理由です。
 
 もっとも最近は、抗不安薬や睡眠薬などの向精神薬を数多く処方した場合に診療報酬を原則認めない制度が導入され、薬物依存や重篤な副作用を防ぐ方向にあります。
 欧米ではもっと早くから指摘されていたことですが…


 
 新聞記事にある薬が認可された日には、アルコールや薬物依存の離脱症状を緩和し、離脱の苦しさゆえに飲むことを抑えるという点で、依存症治療に一定の効果があるのかもしれない。
 もっとも、それがこの薬の開発者の本来の狙いではないであろうことは理解しています。

 

(注) 私は医療や薬の専門家ではありません。アルコール依存症患者として病院で教わったことや、勉強したことを書いています。この記事を読んで独断で処方されている薬の服用をやめることはしないでください。必ず専門家に相談してください。
(※)  アルコール依存症以外の病気を併発している患者には処方されることもあるようです。