高杉一郎と児童文学
高杉一郎と児童文学といえば、だれもがまず思い浮かべるのは、フィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』の翻訳だろう(彼はその他のピアス作品も訳しているが、今では入手困難かも)。
その陰にすっかり隠れてしまっているけれど、彼は、バーバラ・レオニ・ピカードによるホメーロスの再話ものの翻訳も手がけている。今でも軽装版で現役の本だけれど、しっかりした装丁の愛蔵版はもはや手に入らないんだろうなぁ。(T-T)
そして、さらにもっと地味で目立たないけれど、ジョン・ロウ・タウンゼンドの『子どもの本の歴史』も彼の重要な訳業のひとつだろう。
英米児童文学の研究・翻訳というと、私なんか、石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男、神宮輝夫、猪熊葉子、清水真砂子といった名前ぐらいしか知らない。
だから、その昔タウンゼンドが Written for Children: An Outline of English-Language Children's Literature という本を出したと聞き及んだときにも、いずれそうした人々が訳者(共訳者?)になると思い込んでいたので、高杉一郎が(しかも単独で)担当すると知ってすこし意外な気がしたものだった。
ええ
これは、シーラ・イーゴフらが編集した『オンリー・コネクト―児童文学評論選 』全3巻(猪熊葉子/清水真砂子/渡辺茂男 訳)とともに、電子書籍など、なんらかの形でぜひとも再刊してもらいたいものである。
その高杉一郎の訳業は、岩波の枠内にとどまるものではない。今では新刊書店でも古書店でも見かけないようだけれど、電子書籍でなら、ルイス・キャロルのアリスものや、『ピーター・パン』『トム・ソーヤーの冒険』などが講談社文庫で入手可能となっている(今見るとキンドル本価格の半額相当のポイントが付与されている。いつまでのことかは不明だ)。
ちなみに、上記のアリスの挿し絵はジョン・テニエル、トム・ソーヤーはトルー・W・ウイリアムズ、そして、ピーター・パンはあのエドワード・アーディゾーニによるものである! それが訳者の強い意向だったのか、編集者の好みだったのか、単にコストを抑えられるからという理由だったのか、それはわからないけれど、個人的にはうれしくてならない!
稀有な例外もあるので一概に決めつけたくはないのだけれど、新訳の登場とともに、オリジナル刊行当時から親しまれてきたイラストが、趣のない薄っぺらなものに差し替えられていく傾向は実に嘆かわしい限りである……と書き始めるときりがないのでここでは自粛しておきたい。(^^;