
ちくまプリマー新書の近況(2023年初秋)
ちくまプリマー新書については以前にも取り上げたことがある。
もちろん、単に安ければお買い得というわけではない。ただ、バーゲン漁りのお子ちゃまジジイがそれをいくら力説したところで、説得力は皆無だろうから、(^^; ここでは、米原万里の助けを借りることとしたい。以下は、彼女の書評集『打ちのめされるようなすごい本』からの一節である。
読者の平均的居住面積とか、読書空間としての通勤列車の混み具合とか、それより何より書店に単行本が置かれる期間のあまりの短さに対抗するためだろう、ここ一〇年ほどのあいだに驚くほど多くの出版社が新書市場に参入して、過飽和状態が続いている。当然、新書の中で名著に巡り会える確率は落ちている。
そんな中で、中学生、高校生を対象に刊行されているらしいちくまプリマー新書シリーズは、情報のレベルを高く保ちながら分かりやすさ、面白さを幸せに合体させている本が多い。つまり、打率がとてもいい。
(週刊文春 2005・7・28)
『打ちのめされるようなすごい本』
通勤電車が空いていようとすでにゲームやSNSにのめり込む人々が大半を占めるこの2023年にあってもなお、ちくまプリマー新書は引き続き頑張っているようだ。
たとえば、本田由紀の『「日本」ってどんな国』は、日本社会が現在置かれている状況を、各種の国際比較統計データで具体的にあぶり出した好著で、書店店頭でも今なお平積みにしているところが少なくない。
他にもクリーンヒットが続いているのだけれど、ちょっと面白いのは、“よみがえる天才” と銘打って、プリマー新書内にミニ・シリーズを展開していることだ。
これは、内外著名人の伝記もので、率直にいって選定基準はよくわからない。(^^; ただ、それぞれの伝記を単独で出すと、すぐに他の既刊・新刊のなかに埋もれていってしまうだろうことを避けるための苦肉の策なのかもしれない。
このあたり、似たような問題をかかえる岩波ジュニア新書にも参考になるアイデアなのかもしれない。
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ちなみに、米原万里は先に引用した一節に続けて、「読まずにいるのは人生の大損と言いたくなる名著である」として、藤森照信の『人類と建築の歴史』を紹介している。