先生の授業スタイル(中学編③)
A先生は小柄ながらよく通る声の持ち主で、授業はムダなくスムーズに進められていった。最初は短文から始まり、次第にトムやスージーやブラウンが登場し、ストーリーが展開していった。私たちの教科書はクラウンだったので、ジャックやベティのことは知らなかったけれど、ま、似たようなものだったのだろう。
生徒受けを狙った漫談、脱線などはいっさいなく、たまにテープレコーダーが不調で動かなくなると、すぐに自身で教科書を読み上げ、授業が滞るようなことはなかった。
ある意味、型どおりの単調な運びだったわけだが、こちらは毎回新たに学ぶことの連続で、退屈する余裕などありえなかったというのが率直なところだ。
ただ、ある日先生は授業の途中で、「みなさんは英語で夢を見たことがありますか?」と問いかけてきたことがあった。私たちは互いに顔を見合わせていたが、そのなかで、女生徒の、Si さんひとりが手を挙げた。声にこそならなかったけれど、教室内のどよめきが感じられた!
「熱心に英語を勉強をしているとそうなるものなんです」と先生に言われてしまうと、私などはもううなだれるしかなかったが、後年アニメ・フィギュアフェチ大学教授となる Ni も折に触れ、遠くを見る目つきでうわ言のように「Si さんて英語で夢を見るんだ……」とつぶやいていたものだった。(^^;
ちなみに、この Ni は、当時 NHKで放映開始されたばかりの英国製人形劇「サンダーバード」の大ファンで、休み時間になるとノートに(映画化版第一作に登場した火星探検船)「ゼロX号」の三面図を熱心に書き込んでいたような男であるが、いちおう、フィギュアだけでなく実体のある三次元の女性にも人並みの関心は持っていたようだ。(^^;
またあるとき、A先生は get up というフレーズの英米人(の子ども)の発音に触れて、「“ゲタップ” でも “ゲラップ”でもなくて、ほんとうに滑らかな “get up” なのよねぇ」と夢見るような口調で語ったりもした。
そう、A先生は英語が好きなのだ。それは私のような生徒にも確かに伝わってきた。私も、試験はいやだれど、英語自体は嫌いではない。なんとなく好きである。曖昧ではあるけれど、英語を学び始めた初期段階でそんな気分にさせてくれたA先生にはほんとうに感謝している。 <(_ _)>