「夜来たる」整理メモ | DVD放浪記

「夜来たる」整理メモ

先へ進む前に、ここでちょっと整理しておきたい。

 

アイザック・アシモフのSF短編「夜来たる」の日本語訳については、いくつかのバージョンがある。

 

なかでも、グーテンベルク21の電子書籍版が297円で、今のところ一番お安いけれど、これには「夜来たる」「ガニメデ星のクリスマス」「赤い女王のレース」の三編(訳者は川村哲郎、仁賀克雄ら)が収録されているだけである。

 

 

 

もちろん、「夜来たる」だけ読めればオッケーという人もいるかもしれないが、ダウンロードしたサンプルの冒頭部分を覗いて、「え、スマン。俺パスするわ」という人も出てくるのではないだろうか? (^^;

 

 もし星が千年にただの一夜のみ、あらわれるとすれば、人々は幾世代にもわたって神の都の追憶をいかに信じ、讃嘆し、保ちつづけることであろう ――エスマン

 

 

いっぽう、早川書房の『夜来たる』Kindle本には、「夜来たる」に加えて「緑の斑点」「ホステス」「人間培養中」「C-シュート」が、アシモフのコメントとともに収録されている。でも、この本はどこか中途半端な雰囲気を漂わせている。

 

 

 

ここで、表紙カバーの画像にご注目いただきたい。タイトルの上に NIGHTFALL ONE とあるのだ。ONE とあるのなら、TWO もありそうな気がするが……あった! 『サリーはわが恋人』という別の短編集の表紙に NIGHTFALL TWO とあるではないか!

 

 

 

 

実は、この2冊の奥付には、どちらも1969年に刊行された、NIGHTFALL AND OTHER STORIES が原著と記されている。つまり、これらは翻訳出版時に分冊化されたものなのだが、あいにくと、Kindle本には、そうした説明は見あたらない(まあ、紙の書籍には解説があったのかもしれないが)。『サリーはわが恋人』のKindle版には書籍カバーの画像が欠落しているので、これが『夜来たる』とひとつながりのものであるとはとても分からないだろう。奥付にその旨ひとこと書き添えておくだけの手間さえ惜しむ早川書房の "アシモフ愛" にはまったくおそれいってしまう。(^^;

 

そうそう、その埋め合わせのつもりか、『サリー』の巻頭にも、『夜来たる』とまったく同じ献辞が繰り返し載せられている!

 

「夜来たる」のヒントを与えてくれたこと、および三十年におよ

ぶ友情のために、ジョン・W・キャンベル・ジュニアに。

 そして、アンソニー・バウチャーとグロフ・コンクリンの思い出に。

 

 

まあ、それはそれとして、これら2冊は、1941年発表の「夜来たる」に始まり、1950年代の16編、1960年代の作品3編、合計20の短編とそれらにまつわるアシモフのコメントが収録された自選短編集である。ただし、ロボットものは『われはロボット』『ロボットの時代』そして、『コンプリート・ロボット』などにまとめられていて、ここには一編も収録されていないので、ご注意いただきたい。

 

 

 

 

 

ごく率直にいって、この夜来たるサリーには大傑作といえるようなものはないのだけれど、アシモフが明かす、作品の成立過程にまつわるエピソードの数々はどれも興味深いものばかりで、それが本書を救っていると思うのは私だけだろうか?

 

その昔通いつめた銀座のイエナ書店の奥まった一画にはSFコーナーがあって、そこに、クリス・フォスらが表紙画を描いたパンサー/グラナダの英国版ペーパーバックが置かれていたものだった。それらのなかに、NIGHTFALL ONENIGHTFALL TWO というタイトルもあったような気がするけれど、今では絶版のようだ……と書いていて、ちょっと調べてみたら、NIGHTFALL AND OTHER STORIES が、なんとこの7月中旬に再刊されるようである!

 

 

 

 

 

さて、もうひとつ忘れてならないのは、この「夜来たる」は後に長編化されていることだ! オリジナル版「夜来たる」を知る人にとってはなんと無謀な試みかと思えたはずだが、共著者に才能豊かなベテラン作家ロバート・シルヴァーバーグを得て、これはまずまず無難な成功をおさめたようである(この企画の成立過程に興味のある方は、アシモフやシルヴァーバーグそれぞれの自伝的回顧録などを参照されたい)。

 

 

 

 

 

一時期、国内では洋書も含めてオリジナル版が見当たらなくなり、この長編版だけが入手可能な時期が続いたこともあったようだが、現在では創元文庫の長編版は品切状態が続いている。

 

最後にトリビア情報を。この「夜来たる」は映像化もされているのだ! DVDもまだ入手可能なようである。