fatal と ignorance の周辺 | DVD放浪記

fatal と ignorance の周辺

5日(火)に「女性自身」が、「ニューヨーク州弁護士会のホームページで、小室さんがなんと論文のコンペティションで2位の成績を収めた」とする記事を配信した。

小室圭さん"資金調達"論文が専門誌掲載の快挙!

小室圭さん コンペ準優勝の論文で力説「信頼の喪失は致命的」

 

このコンペは、ニューヨーク弁護士会が主催するもの。本誌は昨年、小室さんの論文が法律専門誌『NY Business Law Journal』'19年夏号に掲載されたことを報じていたが、それが専門家からも高い評価を得たというのだ。さらに、小室さんは賞金1千500ドル(訳15万5千円)も獲得したという。

 

「信頼の喪失は致命的」という、いかにもおいしそうなフレーズに注目したのは「女性自身」のお手柄といっていいのかもしれない。 (^^;

 

ちなみに、小室さんの論文はクラウドファンディングに関する法制度について論じたもの。論文の中には以下のような記述もあった。

 

《信頼は目に見えません。信頼の喪失はクラウドファンディングでは致命的であり、クラウドファンディング市場全体に影響を与える可能性さえあることに、常に留意する必要があります》

 

例によって、私なんぞにその論文の内容がわかるわけもないけれど、海の王子さまにはそれなりに親近感を抱いているので、ちょっとだけ覗いてみると、そこにはこう書かれていた。

 

Although trust is invisible and may be even more ambiguous in "crowd" or online transactions, parties must always keep in mind that a loss of trust is fatal in crowdfunding and it may even affect the entire crowdfunding market.

 

Challenges and Implications for Potential Reforms of Crowdfunding Law for Scial Enterprises (Kei Komuro)

 

論文の最終パラグラフ中の2番目の、そして最後のセンテンスである。この a loss of trust is fatal だけを取り出してみれば、賢者のことばの響きすら感じられるではないか! 信頼の喪失は致命的である。

 

ちなみに、常に「trust = 信頼」と訳せるとは限らない! 法律や経済などの分野ではさまざまな意味で用いられているし、brain trust なんてものもある。

 

 

 

 

このように、"... is fatal."(……は致命的)と言い切るとき、「……」部分は、短ければ短いほどインパクトがあってカッコいいと思うのは私だけだろうか?

 

以下は、レイ・ブラッドベリの名作『火星年代記』を構成する短編群のひとつ「第二のアッシャー邸」からの一節である。彼の『華氏451度』を思い浮かべる人も多いことだろう。

注意一般に『火星年代記』の訳者は小笠原豊樹と表記されているが、「第二のアッシャー邸」は木島始が担当している

 

 「ギャレットさん、あなたは、わたしが何故あなたにこんなことをしたか、おわかりですか? それは、あなたが、ろくすっぽ読みもしないで、ポーの作品を焼き棄てたからですよ。あなたは、人が、ああいう本は焼き棄てなければいけないというのをきいて、その勧告に従ったのだ。そうでなければ、さっきわれわれがここに来たときに、あなたは、もうわたしが何をしようとするのか分かったはずなんでね。無知ってのは致命的ですよ、ギャレットさん」

 

二〇三六年四月 第二のアッシャー邸 『火星年代記〔新版〕』

 

この「二〇三六年」という数字を書き写すとき、私の胸は痛むのだが、それはまた別の話。この、晩節を汚したブラッドベリについてはいつか書き記すことがあるかもしれない……が、今はその時ではない。大事なのは「無知ってのは致命的ですよ」(Ignorance is fatal.)の部分である。えっ? この場面だけ切り出されても何のことか分からない? 万一、『火星年代記』を未読の方がいたら、こんなブログなんか読んでないで書店へ直行だ!

 

 

 

 

 

 

Ignorance is fatal. なんて聞くと、私なんかは、ジョージ・オーウェル『一九八四年』の世界に導入した Ignorance Is Power(無知は力なり)というスローガンをぼんやり思い出してしまう。

 

 

 

けれども、一般的には、Ignorance is bliss. を思い浮かべるほうが自然なのだろう。これは、日本語の「知らぬが仏」に相当することわざとされている(日英で若干ニュアンスにズレがあるような気もするのだけれど、私の考え過ぎか(^^;)。

 

もっとも、妊娠中絶とかエイズなどにからめて、Ignorance is bliss, but it may be fatal. とか、Ignorance is not bliss. It's fatal. とかのような形で用いられることも多いらしい。

 

 

 

 

話が脱線したけれど、私が親近感を抱いてやまない海の王子さま"a loss of trust is fatal" は、ブラッドベリの "Ignorance is fatal." とともに、いつの日か、名だたる引用句辞典に殿堂入りするのではないだろうか……なんちゃってね! (^-^)

海の王子さまに親近感ってどういうことよ?