公共放送より公共的なラジオ番組 | DVD放浪記

公共放送より公共的なラジオ番組

 

私はテレビは持っておらず、ラジオをよく聴いている。なかでも、TBSの聴取率はかなり高いといっていい。

 

時計代わりに聴いている(^^; 早朝の生島ヒロシの番組に始まり、森本毅郎 スタンバイ!以降、「伊集院光とらじおと」「ジェーン・スー 生活は踊る」、そして「赤江珠緒たまむすび」を経て「荒川恭啓デイキャッチ!」「アフター6ジャンクション」へなだれ込むように、一日中ダラダラと聞き流していることもある。

 

その中で、異色といっていいのが、午後10時から始まる「荻上チキ・Session-22」である。若手評論家の荻上チキとアシスタントの南部広美が毎晩ゲストを招いて、政治・経済・社会問題から、映画や文学、スポーツまで幅広く、ホットな話題について学ぶ、月金の帯番組である。

 

基本はリベラルなスタンスで貫かれていて、憲法学者の木村草太、ジャーナリストの神保哲生らの登場が目立ち、保守好みからは嫌われるだろうし、私もいつもいつも全肯定というわけではないのだけれど、「公共放送以上に公共的」というキャッチコピーもあながち誇大とはいえない、充実した内容のプログラムが多い。

 

特に、今回のピエール瀧容疑者の薬物使用をめぐる報道については、14日(木)でメインに取り上げるだけでなく、荻上本人が溶連菌感染症に倒れ、代役を立てて休みをとっていたはずの13日(水)も番組冒頭にわざわざ登場して、自身が視聴したテレビ番組での薬物報道のあり方について熱く語っていた。

 

このSession-22」では、以前(有名野球選手の薬物依存が話題となっていた時期)から、薬物使用については、犯罪として一方的に断罪するだけではなく、薬物依存症という病気からの回復支援の重要性に目を向けるべきと主張し、そうした趣旨を盛り込んだ「薬物報道ガイドライン」を関係各方面の識者とともに策定・発表していたのだ。

◆ 薬物報道ガイドライン

◆ 薬物報道ガイドラインを作ろう!

◆ TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」|2019年3月14日(木)放送分

 

その内容は、薬物報道にあたっては、白い粉や注射器等をイメージカットとして利用することを避ける(=使用者・回復者の薬物への欲求を刺激しない)とか、使用者の人格を否定する表現を用いない、雇用・収入を完全に奪うことのないよう留意する、意味のない外録(町の声、関係者談話)を用いない等々、従来の報道姿勢全般に猛省を迫るものだった。

 

 

ピエール瀧は、TBSラジオ午後の帯番組「たまむすび」の木曜日のレギュラーメンバーだったが、他の曜日の担当者らとのつながりはもとより、この芸能界では駆け出し時代から親交のある人々も多く、他の番組のパーソナリティも今回の事件について番組内でそれぞれに驚き、やりきれなさを吐露していた。

 

そうしたなかで、例えば、伊集院光が薬物使用者への支援組織の存在に言及したり、ライムスター宇多丸が、今回のTV報道のガイドラインからの逸脱ぶりを嘆き、深夜の「JUNK 山里亮太の不毛な議論」山里亮太が「難しいことはわからないけれど、薬物のことについては荻上チキさんの番組を聴いてみてほしい」とリスナーに呼びかけている。荻上らの活動が静かに広がりをみせているのだ。

 

今回の一件で発生する損害賠償額は30億円にのぼるだろうなどと煽り立てる向きがある一方で、「デイ・キャッチ!」では山田五郎(木曜レギュラー)が、ピエール瀧の過去の作品の販売停止・回収に疑問を呈したり、翌日には、彼が出演し、お蔵入りが危ぶまれていた新作映画「麻雀放浪記2020」上映に向けての動きについて、宮台真司(金曜レギュラー)が肯定的なコメントを発している。レイプ犯などとは異なり、被害者というもののない薬物使用者について、メディアの対応にはこれから大きな変化が出てくるのかもしれない。

 

薬物問題を取り上げた翌日金曜日の「Session-22」は、恒例の「国会審議 珍プレー・好プレー」だった。これは、テレビなどのニュースでは、その一部のみが切り取られて報道されがちな国会審議の模様を、前後の文脈を保持した形で取り上げて、不毛な議論を揶揄する一方、目立たないが意義ある問題提起にもしっかり光を当てている。

 

こうした建設的な姿勢を崩さない番組は今日非常に貴重だと思う。