ホーキングとホイル | DVD放浪記

ホーキングとホイル

ベネディクト・カンバーバッチ ホーキング [DVD]/ベネディクト・カンバーバッチ,マイケル・ブランドン,ピーター・ファース

¥4,104
Amazon.co.jp

若き日のスティーヴン・ホーキングの姿を描いたこの作品(BBCがテレビ用に製作したもの)の観どころは、一般的には、デビュー間もないベネディクト・カンバーバッチさまの演技ということになるのだろうが、ここは私のブログだから優先順位はぜーんぜん違うのだ。 (^0^)

この映画の観どころは何と言っても、かつてイギリスの学者たちが「定常宇宙論」(steady-state universe theory)を提唱して「膨張宇宙論」(expanding universe theory)、つまり今でいうビッグ・バン理論に対峙していた時期のケンブリッジ大学を舞台としており、若き日のホーキングと関わる形で、フレッド・ホイル、デニス・シアマ、ロジャー・ペンローズ、ジョージ・エリスといった錚々たる学者とその卵たちが実名で登場する点だろう。

宇宙にはここが始まりという起点はなく、宇宙の膨張によって生まれるすきまの部分にはそれを補完するように新たに物質が生成され続け、過去・現在・未来を通じて宇宙全体としては常に同じ姿を保ち続けているとする「定常宇宙論」は現在では死語に近く、一般向けの解説書ではたいていスルーされてしまっているが、その「定常宇宙論」の旗頭だったのがフレッド・ホイルである。

その頃ホーキングはALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断され、徐々に四肢が不自由になっていく中で、博士論文に取り組むことになるのだが、その際の指導教授がデニス・シアマ(Dennis Sciama)で、ホーキングをロジャー・ペンローズに引き合わせたのも、そのシアマだった。

当時ホーキングは余命2年とされており、彼の父親の意向を汲んだシアマは比較的取り組みやすいテーマを提案するのだが、フレッド・ホイルの颯爽とした姿にあこがれる彼は、もっと大きなテーマにチャレンジしたいという思いを強くしていた。しかし、最初の1年は空回りし、あげくにホイルの論文の計算間違いを指摘して大御所のご機嫌を損ねてしまう。そんな彼に、他者の研究の批判ではなくオリジナルな研究に才能を振り向けろとシアマは諭す。


この映画では、冒頭に、ノーベル賞受賞式を直前に控えたふたりの学者へのインタビューの収録風景が映し出され、その模様がドラマ本編の端々に挿入されていくという形で進んでいく趣向となっている。このふたりがまるで漫才コンビのように掛け合いで話すので、最初面食らうもしれないが、そこは我慢だ。

【以下ネタばれあり】(見たい人はテキストを選択反転!)
と書いてはみたものの、宇宙論に触れた科学解説書にはたいてい書かれていることなので、あえてネタばれ注意など不要かもしれないが、このふたりはビッグ・バンを裏付ける宇宙背景輻射を発見したアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンなのだ。

ペンローズの研究からひらめきを得たホーキングは、苦心の末に博士論文を完成させる(これを読んだシアマの「最初の3章は平凡だが……」の後を引き取って、ペンローズが「4章はモーツアルト級だ」とほめるセリフが実に格好いい)。だが、その論文は、宇宙の始まりに言及する膨張宇宙論そのものを示す内容となっていたため、ホイルから面と向かって否定されてしまう。「ビッグバンが本当ならその名残があるはずだが、それはいったいどこにあるんだい、ホーキング君?」

そして、それに続けて件のふたりが、その名残そのものを発見し膨張宇宙論の正しさを決定付けたことを示してドラマの幕が閉じられるのだ。このあたりは脚本を担当したピーター・モファットの構成の妙といっていいと思う。



えっ? ハイハイ、カンバーバッチ君の演技は悪くないと思いますよ。ただ、タイトルを「ベネディクト・カンバーバッチ ホーキング」とするのはどうかなと思いますが。(^^;


ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)/スティーヴン・W. ホーキング

¥799
Amazon.co.jp

ホーキング 虚時間の宇宙―宇宙の特異点をめぐって (ブルーバックス)/講談社

¥950
Amazon.co.jp


ベネディクト・カンバーバッチ ホーキング
Hawking

2004年 カラー 89分
◆キャスト
スティーヴン・ホーキング:ベネディクト・カンバーバッチ
ジェイン・ワイルド:リサ・ディロン
フランク・ホーキング:アダム・ゴッドリー
イゾベル・ホーキング:フィービー・ニコルズ

デニス・シアマ:ジョン・セッションズ
ロジャー・ペンローズ:トム・ウォード
ジョージ・エリス:バーティ・カーヴェル

フレッド・ホイル:ピーター・ファース
ジャヤント・ナーリカー(*):ローハン・シヴァ

アーノ・ペンジアス:マイケル・ブランドン
ロバート・ウィルソン:トム・ホジキンス

◆スタッフ
監督:フィリップ・マーティン
製作:ジェシカ・ホープ
製作総指揮:ローラ・マッキー/ジョン・リンチ
脚本:ピーター・モファット
撮影:ジュリアン・コート
(*)Jayant Narlikar 発表前のホイルの論文をホーキングに見せて叱責されてしまう役回りで登場。後にホイルの『宇宙物理学の最前線』の共著者となる人物だ。

宇宙物理学の最前線/フレッド ホイル

¥9,180
Amazon.co.jp

重力―宇宙を支配する力の謎/ジャヤント・V. ナーリカー

¥2,705
Amazon.co.jp

暗黒星雲からブラックホールへ (フロンティア・サイエンス・シリーズ)/ジャヤント ナーリカー

¥1,782
Amazon.co.jp