十二人のイカれる男 | DVD放浪記

十二人のイカれる男

「本の雑誌」に掲載された話題の連載記事に、新たに筑摩書房編集部からのリクエストに応えて加筆したものをまとめた単行本。前半はタイトルどおりにミステリーものでそろえ、まさしく法律家としての観点から物語の核心部分に異議申し立てを行っていて、なかなかに痛快だ。後半は、恋愛小説などが入ってきて、切れ味もやや鈍り気味にはなるのだが、それでも全体に楽しい読み物になっている。
キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る/木村 晋介
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なかでも異色なのは、「十二人の怒れる男」だろう。と言っても映画そのものというより、その原作となった戯曲なのだが。

十二人の怒れる男
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この物語は、(あらためて紹介の必要はないだろうが)父親を殺害した容疑で起訴された少年について、法廷での審理が終了した直後、12人の陪審員たちが協議のために別室に移るところから始まり、その密室の中で評決に達するまでの一部始終を描いたドラマである。陪審員制度の問題点が浮き彫りにされながらも、それが「普通の人々」によって克服されていく様子は感動的で、名作としての誉れ高い作品なのだが、キムラ弁護士はこれをあっさり切って捨てるのだ。

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確かに、あれが実際の裁判の事例だったとしたら大いに問題ではあるだろう。この点でキムラ弁護士の指摘はもっともな部分もある。レジナルド・ローズは、TV畑で活躍した脚本家だが、おそらくは、法廷ドラマ用のネタとして、法廷内で証人の証言能力を突く反対訊問のアイデアをいくつも持っていたのだろう。それを、陪審員だけのドラマで使ってしまったために無理が生じてしまったのではないか、というのは考えすぎだろうか。


ただ、基本的にこのドラマは、11対1という圧倒的多数が少年を有罪と認めるなか、それにただ一人疑問を呈した男が、皆の理性に訴えて事件の再考を促し、徐々に支持者を増やし、ついには皆が少年無罪の結論にたどり着くという流れがキモなので、多少のことは、"suspension of disbelief" ということで許してやっていいのではないかと私などは思うのだがどうだろう?


ちなみに、映画のタイトルは「十二人の怒れる男」。これを「12人の怒れる男」としてはならない。なぜなら、別の作品になってしまうからだが、それについては、また別の機会に。