最悪のリメイク作品? | DVD放浪記

最悪のリメイク作品?

ここ数年で最悪のリメイク作品となると、やはりこれが筆頭にあがるだろう。「Mr. ディーズ」(2002年)である。

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◆「Mr.ディーズ」予告編

主演は、アダム・サンドラーにウィノナ・ライダー。脇を固めるのが、ピーター・ギャラガー、ジョン・タトゥーロー、スティーヴ・ブシェミとキャストは悪くない。 個々には笑わせてくれるシーンもある。だから、全体になんとも大味なこのB級コメディだって、フランク・キャプラ監督の「オペラハット」(1936年)のリメイク作品であると謳いさえしなければまだしも許せたかもしれない。

ネタ切れ気味の昨今、「ひとつ往年の名作を現代によみがえらせようじゃないか!」 スタジオ側はおそらくそう考えたのだろう。しかし、こうした名画のリメイクなんぞ無闇に作るものではない。運がよくて、オリジナル作品の貧弱な縮小再生産版ができあがるかもしれないが、実際には、「Mr. ディーズ」レベルのものにとどまってしまう可能性のほうが強いだろう。

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キャプラ監督は、この「オペラハット」を下敷きにして、もう1本別の映画を製作しているが、それも一種のリメイクといえなくもないだろう。そして、「Mr.ディーズ」が悪しきリメイクの典型だとするなら、キャプラのそれは、映画史上最良のリメイク作品の1本といっていいだろう。なにしろ、それは、あの「スミス都へ行く」(1939年)だったのだから。

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◆「スミス都へ行く」予告編

原題は、Mr. Smith Goes to Washington。タイトルだけからでも、「オペラハット」(Mr. Deeds Goes to Town)の姉妹作であることは容易に想像がつくだろう。

実業家の世界から政治家の世界へと舞台は移るが、理想主義的な夢の実現を願い、それに向かって邁進する主人公が登場する点は同じ。そんな彼を最初は小馬鹿にしていた女性が次第に彼に引かれ、支援していく点も同じ。そして、主人公が、当初は実力者の意のままに操られようとするのだが、自分の意思を持ってその支配下から脱しようとして、巨大な力によって圧しつぶされ、社会的生命を失いそうになるのだが、最後の最後に……という基本プロットも同じだが、「オペラハット」同様、いや、それ以上に感動的な作品に仕上がっている。

「スミス都へ行く」と比べられては「Mr.ディーズ」も立場はないだろうが、同じ「オペラハット」を出発点としたふたつの作品を隔てる差は志の違いとしか言いようがない。ウィノナ・ライダーが現代のジーン・アーサーになりえなかったのも当然の結果だろう。

※ ※ ※

実は、この「スミス都へ行く」をさらにリメイクした作品がある。それは「Mr.ディーズ」同様にコメディアンが主人公で、オリジナルの設定に大胆なアレンジを加え(そのためか、一般にはリメイク作品とは考えられていない)ながらも、現代の政治状況と主演男優のキャラクターにマッチしたひねりを加えて、奇跡的に「Mr.ディーズ」のような醜態をさらさずに済んでいる。

リメイクとは難しいものだ……。 (ーー)


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Mr. ディーズ
Mr. Deeds

2002年 カラー 96分
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◆スタッフ

監督:スティーヴン・ブリル
製作:ジャック・ジャラプト/シドニー・ギャニス
共同製作:アレックス・シスキン
製作総指揮:ジョセフ・M・カラッシオロ/アダム・サンドラー
原作:クラレンス・バディントン・ケランド
脚本:ティム・ハーリヒー
オリジナル脚本:ロバート・リスキン(*)
撮影:ピーター・ライオンズ・コリスター
音楽:テディ・カステルッチ

◆キャスト
ロングフェロー・ディーズ:アダム・サンドラー
ベイブ・ベネット:ウィノナ・ライダー
エミリオ・ロペス:ジョン・タートゥーロ
マーティ:アレン・コヴァート
チャック・セダー:ピーター・ギャラガー
クレイジー・アイズ:スティーヴ・ブシェミ
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* 「オペラハット」(1936)をはじめ、多数のキャプラ作品の脚本を執筆した。