ワイヤレス給電の回路特性を解析している論文などでは、送受電コイルをトランスと同じT型等価回路に置き換えて解析する場合がほとんどのようです。
送受電コイルまたはトランスの回路図
T型等価回路
送受電コイルやトランスは、どちらも2つの巻線の相互誘導なので、同じ等価回路で解析することができます。
ところで、等価回路とは何と何とが等価なのでしょうか?
この等価回路の定義を明確にしておかなければ、等価回路を使った解析の意味がわからなくなってしまいます。
そこで、今回は等価回路の定義について、
「何を満たせば等価回路といえるのか」
という視点で解説します。
●なぜ等価回路を使うのか
送受電コイルを等価回路で表すのはなぜでしょうか?
本来、コイルやトランスの電磁誘導(相互誘導)現象は磁界や磁束を使った磁気系で表現されますが、電気系に組み込まれたトランスを電気回路として解析するために等価回路が用いられます。
つまり、磁気系と電気系が共存すると、複雑でわかりにくくなるために、磁気系を電気回路に置き換えて解析しているということです。
このような、置き換えが可能であることが等価という意味になります。
●磁気系と電気系が共存した回路
では、電気系に置き換える前の、磁気系と電気系が共存した回路とはどのような回路でしょう。
まず、基本的な考え方として、コイル単体の自己インダクタンスから説明します。
コイル(自己インダクタンス)の電磁回路
電圧: 電流:
磁束: 起磁力:
巻数: パーミアンス:
これがコイル(自己インダクタンス)の電気系と磁気系が共存した回路モデルです。
パーミアンスは、磁路(磁束経路)における磁気抵抗の逆数であり次式のように定義されます。
(透磁率×磁路断面積)/磁路長 (単位はインダクタンスと同じ
)
このコイルの回路モデルの回路方程式は、次の3つの基本法則から求められます。
① 電磁誘導の法則
(電圧は巻数と磁束の時間微分に比例)
② アンペールの法則
(起磁力は巻数と電流に比例)
③ ホプキンソンの法則
(磁束はパーミアンスと起磁力に比例)
この3つの式を連立方程式として、電気系の電圧と電流との関係を表すように解けば、
となります。
ここで、 とおけば
という、自己インダクタンスが であるコイルの電圧と電流との関係式が得られます。
このように、3つの基本法則を使うことで、電気系と磁気系が共存した回路モデルから、電気系だけの回路モデルへ置き換えることができます。
以上で、電気と磁気とを統合する基本的な考え方がわかりました。
次に、同様の考え方で、2つのコイルの相互誘導を説明します。
この記事の最初に示したトランスおよびT型等価回路において
1次側コイルの自己インダクタンス:
2次側コイルの自己インダクタンス:
2つのコイル間の相互インダクタンス:
です。
この相互インダクタンスを介して、2次側電流
が1次側電圧
に影響し、1次側コイルの電流
が2次側コイルの電圧
に影響することを相互誘導と言います。
この相互誘導は、数式で表現すると次のような関係式で表され、T型等価回路の回路方程式です。
磁気系と電気系を含む相互誘導の回路モデルとしては、下図になります。
相互誘導(トランス)の電磁回路
電気系には巻数の1次側コイルと2次側コイルがあります。
磁気系はその2つのコイル間に、1次側の漏れ磁束経路のパーミアンス、2次側コイルの漏れ磁束経路のパーミアンス
、両方のコイルを貫通する磁束経路(ギャップ)のパーミアンス
の、3つのパーミアンスがある回路モデルです。
そして、この回路の回路方程式は次式となります。
連立数は多くて難しそうに見えますが、
それぞれの式は先に説明した3つの基本法則の式と、磁気系におけるキルヒホッフの法則に相当する簡単な式です。
この連立方程式を電圧と電流の関係式として整理すると
またについても同様に
が得られます。
この2つの式を、自己インダクタンスと相互インダクタンス
に置き換えれば
となり、T型等価回路で表される相互誘導の式と一致することがわかります。
●等価回路とは
このように、回路方程式が一致するということが等価回路であるという意味です。
磁気系と電気系が共存した相互誘導(トランス)回路は、電気系だけで表したT型等価回路と等価であり、置き換えが可能であるということになります。
なお、方程式が一致する等価回路は無数に考えられるため、等価回路に唯一の正解というものはありません。
自分で設計や解析で使いやすい等価回路を選択すればよいと思います。
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