ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
第一次世界大戦へ④ -サラエヴォの銃弾②-
フェルディナントはハプスブルク家の集まりを嫌っていた。
伝統を重んじる宮廷は序列に煩い。
幾ら、次期皇帝の妻とは言え女官出身のゾフィーは、一番位の低い女性の後ろを歩かなくてはならなかった。
よい大人が、小さな子供の後ろを歩くと言う屈辱をゾフィーは味あわされていたのだった。
「ゾフィーすまないね」
フェルディナントはゾフィーが不憫でならない。本来なら、次の帝妃として大事にされて良いのに…。
ゾフィーはそっと微笑んで首を横に振る。
黙って耐えているが、ゾフィーだってきっと辛いだろう。
(僕と結婚したばかりに…ごめん。 でも姉さん女房っていいなぁ、しっかりしていて)
フェルディナントは、いつか愛する妻に日の当たる場所に立たせてやりたいと思う。
やがてその機会はやってきた。
情勢が不安定なサラエヴォで軍事演習を観覧する事となり、フェルディナント夫妻が招待される事になった。
そこでは市長訪問の際に、パレードが行われる事になっていると言う。
サラエヴォがあるボスニア・ヘルツェゴビナは1908年にオーストリア=ハンガリー二重帝国に併合され、ボスニアに住むセルビア人達はこれに反発し、人々の不満が膨らんでいたのだった。
当然、フェルディナントがスラブ人を排除しようと言う考えを持っている事は周知されているのだから、そんな危険な場所にノコノコと出ていったらどんな事になるか想像がつきそうなものだ。
「馬鹿な! あんな情勢が不安定な所に行くなんて。 まるで死に行くようなものじゃないか!!」周囲は反対をする。
しかし、フェルディナントは、行くといってきかない。
(一度でいい、ゾフィーを大公妃として表舞台に立たせてやりたい。立たせてやりたいんや~~~っ!!)と思った。 強く、強く思った。
フェルディナントは反対を押し切ってゾフィーを連れてサラエヴォに向けて出発する。
「パパとママは直ぐに帰ってくるからね。いい子にしているんだよ」
両親は代わる代わる子供達を抱きしめ、キスを贈る。
「うん。パパ、ママ気を付けね」
両親は子供達の頭を撫で、屋敷を後にする。
つづく