ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
会議は踊る、されど進まず③
「…では、会議を始めます。 え~、赫々しかじかで…」
流石にヨーロッパ中の大小様々な国の代表が一同に会する訳だから中々話は進まない。
大詰めに入る前に、先ずは2ヶ国、3ヶ国で内容を詰め、ある程度纏まった所で全体が揃って大詰めとなるのだが、この小会談が全く纏まらないのだ。
何故か?
勿論、各国の言い分、取り分もある。
しかし‼︎
何といっても社交大好きの王侯貴族の集まり。
今夜はフランスのタレーラン外相主催の晩さん会です、明日は宰相メッテルニヒの舞踏会ですと、連日パーティーが催されていた。
「これまで舞踏会も晩餐会も出来なかったんだから、えーじゃないか、えーじゃないか」と言ったところだ。
開催国ウィーンではオーストリアの威信をかけて、美食の数々が供される。
アーモンドミルク、フルーツパンチ、ハプスブルク家で供されている伝統料理の数々。
そして、晩餐会の花形はルイ14世が「ワインの王。王の為のワイン」と称えた甘口のトカイワインだ。
ザッハトルテもウィーン会議の為に考案された訳ではないが、ウィーン会議を盛り上げる為の一役を買った。
対するフランス…フランスにとって所謂「被告人」という立場で参加する事となったウィーン会議だったが、フランスには秘策があった。
各王室の厨房で最高シェフとして腕を振るってきたアントナン・カーレムを連れて外相タレーランは乗り込んできた。
「ふふふ…オーストリアも中々やるわねぇ。でも美食大国おフランスの底力を侮っちゃいけないわよ!」とタレーランは美食の数々で要人達を迎える。
最高の料理に合わせるのは最高のワイン、グラーブ地区のシャトー・オーブリオン。
タレーランの主催する晩餐会は大好評となった。
後に、1855年のパリ万博の際、ウィーン会議での活躍を評価され、オーブリオンはメドック地区外から唯一、1級に格付けに選ばれる。
因みに5大シャトーとは、1級に格付けされている、メドックのシャトー・ラトゥール、シャトー・ラフィット、シャトー・マルゴー、シャトー・ムートンとグラ―ヴのシャトー・オーブリオンである。
バチバチバチ…
昨日の友は今日の敵。
メッテルニヒとタレーランの美食戦争の幕は切って落とされた。
尤も、こんな戦争なら王侯貴族もウィーンっ子も大歓迎だろう。
しかし、この戦いも意外な方向から収束を余儀なくされる。
つづく