ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
カールの失墜①
カールの治世の中で、最も難解だったのは新教徒問題だ。
「来世での幸福を保障する」と言う、嘘ハッタリをかまし王侯貴族から多大な寄付を得、政治的にも強力な権力を持っていたカトリック教皇の堕落振りには目を見張るものがあった。
妻帯を禁じながら何人もの妾を持ち、10分の1税等何かにつけて税金をかけては貧しいものから金銭を絞り上げ、挙句の果てには免罪符等という怪しげなモノ迄交付する教皇庁に対する不満は膨れ上がっていった。
そこに一石を投じたのがマルティヌス…歴史の教科書に出てくるマルティン・ルターその人だ。
特に領主から税の取り上げが酷かったドイツの農民の間で、ルターを主とする信教が広く浸透していった。
はじめは意に介していなかった教皇レオ10世も、余りにも新教徒の数が増えカトリック教徒の脅威になり始めるとルターを破門する様声を上げ始めた。
「おい、カール。 お前皇帝なんだから、ちとマルチヌスとやらを締め上げてちょ」
教皇はカトリック教徒を守護する立場にあるカールに処分を押し付けた。
真面目なカールは「ちっ、パシリかよ!」とは思わない。
「ったく物騒な話だなぁ。 でも、多くの支持者がいると言うのなら、マルチヌスの説く教義にも意義はある筈」
ボルムスにて帝国審議会が開催され、ルターが召喚された。
議場では、多くのカトリック教徒に取り巻かれているにも関わらず、ルターは教皇庁の不正を糾弾し、魂は信仰と福音によってのみ救われると、95か条に及ぶ言論を朗々と読み上げた。
その姿は、何か憑かれた様なものを感じさせた。
「何だとーっ!!ルターを殺せーっ」
「そうだ、今すぐ処刑しろ」
ルター以外は全てカトリックの僧侶である。完璧アウェー。
血気盛んな僧侶達から罵声が飛び交い、ルターの身の安全も保障出来ない状態だ。
(うっ…この若者(ルター)は痛いところ突いている)
罵声が飛び交う中、若き皇帝だけはルターの声に耳を向けていた。
つづく