ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
中世最後の騎士マクシミリアン②
ブルゴーニュ公国。
ドイツ的言い方ではブルグント公国とも表記されるが、ブルゴーニュ公国とはフランス王家ヴァロア家の分家にあたる。
現在のブルゴーニュ地方一帯の他、ロレーヌ地方、フランコンテ地方、ほかベルギー、オランダ言ったフランドル地方と言った現在のフランス東南部とオランダ・ベルギーを家領とする広大な領地所有していた。
当時のフランス王家がパリとロワール地方を所有していたに過ぎなかった事を考えると如何に広大な領地を持っていたかが窺い知れるだろう。
加えて、ベルギーやオランダは織物工業が盛んで、イギリスから安く羊毛を輸入し、高価なタペストリーや絨毯に仕立てて輸出していたので、商業的にも栄えていた。
ヨーロッパのどの国より先駆けて商業簿記が取り入れられ、司法制度も発達し、政治・通商・文化のどれをとってもヨーロッパで最高の水準を誇っていたのだった。
ブルゴーニュ公国はヴァロア家の分家ではあるが、本家とこの分家は元々仲が良くなかった。
そこへ来て、現当主シャルル突進公の祖父、フィリップ豪胆公が本家と袂を分かち、飛び出した事で生まれた公国領だ。
突進公の次の君主、フィリップ善良公は渾名「善良公」の如く、近隣王国とさしたる揉め事も無く、ブルゴーニュ公国の最盛期を築き、華麗な宮廷文化が開花した。
この様なヨーロッパの最先端を行く宮廷の当主シャルル突進公には嗣子がいなかった。
その為、一人娘のマリアが誕生すると結婚候補者の後が絶たず、幼い頃から7度も婚約をさせられて来たのだった。
「どうか御息女を我が息子の妻に」
「お義父さん、お嬢さんを私も妻に!」
年頃になったマリアの下には引きも切らず花婿候補が殺到する。
しかし・・・・
「うちには金銀財宝は履いて捨てる程あんのよぉ~。もぉお金で汗が拭けちゃう位だよぉ~ん」
と、お金に苦労していないシャルル突進公はどの王子にも触手が動かない。
そこへ来て、ハプスブルクからの結婚申込みだ。
・・・・・んっ?この展開、前にもあったな。
シャルル突進公は思った。
「幾ら大金持ちと威張っても、ブルゴーニュは所詮、侯爵領に過ぎない。
俺は王になりたい、なりたいんやゃゃーっ!!
王様って呼ばれてかしずかれたいっ! 」
シャルルは考える。
「フリードリヒは気弱な奴だから脅せば皇帝になれるかも・・・・・ぐふふっ、皇帝かぁ。これこそ俺に相応しい地位だ」
シャルルは財政的には何も得るモノはないが、皇帝の椅子欲しさにマクシミリアンをマリアの婿にする事に決めた。
「皇帝の椅子を手に入れる為には、そう易々と娘をやる訳にはいかないぞ。 皇帝にすると保障して貰う迄は結婚はさせない!・・・よし、その手で行こう」
シャルルは先ず、モーゼル川畔にあるトーリアの街で皇帝と会見を開く事にする。
つづく