ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
ハプスブルク家再び皇帝となる~虚弱な王フリードリヒ~⑥
ウィーンに戻ったフリードリヒとエレオノーレ。
2人の結婚生活が始まった。
1年を通して陽光に恵まれるリスボンの宮廷とは違い、ここウィーンの宮廷は暗くどんよりとし、エレオノーレは気が滅入った。
「あら? 陛下、何を持ってらっしゃるの?」
「ひっ」
「ひっ、ってそんなに驚かなくても…。それは何ですの?」
「あぁ、これは鍬だよ。これから畑を耕しに行くのさ」
「畑?耕す?家庭菜園が趣味なのかしら?…⁇」
そう、ハプスブルクの王宮は毎日の食事にも事欠く程貧しく、フリードリヒは自ら鍬を持って土を耕していた。
「えーーっ、自給自足なのぉ? しっ、信じられない‼︎ あのぉ、確認してよろしいかしら? 皇帝のお仕事には畑仕事がおありなの?何て言うか、修道士体験的な… 」
故郷のリスボンの宮廷とは何から何迄違いすぎる為、エレオノーレは「本当にこの人は皇帝なのかしら?」と、心底疑う程だった。
それでも結婚7年目。
エレオノーレは待望の男の子を出産した。
マクシミリアンと名付けられたこの男の子こそ、後にブルグント公国の姫君マリアと結婚し、ハプスブルク家の家領を一気に広げ、新大陸までも自家の所領とする足掛かりとなるのである。
大方予想がつくと思うが、フリードリヒとエレオノーレは夫婦仲良く睦み合う様子も見られなかった。
その為「マクシミリアンは本当は皇帝の子供ではないのでは?」と宮廷内で噂されていたのだった。
何はともあれ世継ぎが生まれて一安心。
エレオノーレは惨めな生活を埋める彼女様に、マクシミリアンに愛情を注いだ。
しかし…
出産後も妃エレオノーレの苦労は続く。
甲斐性なしのフリードリヒとは言え、一応は皇帝。皇帝となれば敵も多い。
マクシミリアンが3歳の時、フリードリヒの弟アルプレヒト6世よって、エレオノーレとマクシミリアンは王宮の片隅に幽閉されてしまった。
物静かなフリードリヒと違い粗暴な叔父アルプレヒトはフリードリヒからオーストリア統治の実権を奪い取ろうとウィーンの市民を焚きつけて暴動を起こしたのだった。
「アルプレヒトさん!私の事はともかく、せめてマックスだけでも解放して頂戴。まだ3つの小さな子には過酷過ぎるわ!」
「ふん、兄貴が大人しく言う事を聞けば直ぐに自由にしてやるさ。尤もいつもの様に逃げ出していなければだけどな。あの意気地、今頃どうしているかなぁ、はっはっは」
「まぁ、子供の前で父親の悪口だなんて!この子がどんな気持ちでいるか…」
「ふん、知るか!それに、その小僧未だに喋らねーって言うじゃねーか。耳が聞こえてねーんじゃね?」
「んまぁーっ!なんて事を!マックスは言葉が遅いだけですっ!」
マクシミリアンは言葉を話せる様になると、淀む事なく流暢に話し、幼い頃からその話術は、聞く者の心を捉えてしまう程だったと言われている。
しかし、喋り始める迄が異常に遅く5歳になる迄言葉を発しなかった。
その為、エレオノーレは息子の成長にも、心配が尽きなかったした。
「可哀想なマックス。あんな人の言う事なんか気にしちゃダメよ。時が来れば貴方はちゃんと話せる様になるから。さぁ、お父様を信じて待ちましょう!」
流石に、この時ばかりはフリードリヒも逃げ出す事はしなかった。
だが、アルプレヒトにそそのかされた反徒達にウィーンの城壁の中に入る事を拒まれた。
フリードリヒは、暴徒化する市民たちから一方的に数々の条件を飲まされる形で、やっと王宮内に入れて貰える始末。
「エレオノーレ!マックス!何処だ?無事なのか?」
「アナタ!助けに来て下さったのね」
「あぁ、本当に酷い目にあった…」
聞けば何ともまぁ屈辱的な条件と引換に城内に入るのを許されたと言う。
エレオノーレはブチ切れた!
(それでも王か?なんとも情け無い…)
憤怒収まらないとはこの時のエレオノーレの心情を言うのだろう。
これ迄耐えに耐えて来た想いが怒涛ごとく溢れ、完全にブチ切れた。
「貴方っ‼︎それでも皇帝ですか‼︎ 何ですか、そのザマは。あぁ情け無い!これが皇帝かと思うと、ほっんとうに情け無い。こんな男と結婚した自分も情け無い。このどアホーっ‼︎。私の人生返せーっ‼︎」
「ぎぇ〜、許して〜」
フリードリヒは、この時も嵐が過ぎ去るのを待った。
カタツムリが殻に身を隠す様にじっと待った。
すると…
やがて、皇妃の怒りも収まり、やがてアルプレヒトの人望のなさに放棄した諸々の実権も戻って来たのだった。
どや?これが、わいの遣り方やbyフリードリヒ
つづく