フランスの貴族の方々から学んだテーブルセッティングの世界は、お洒落に見せると言うより、必要な物をシーンに合わせてシンプルに、かつ合理的にしつらえる事。
伝統の作法の世界から見ると、現代のセッティングは見栄えは良いけれど、果たして何人の人が心地良く食事が出来るかしら?とかどれだけの人が実践するかしら?と首をかしげたくなるようなセッティングをされる方が結構いらっしゃいます。
お作法が分からないとディスプレイの様なセッティングが正しいと思ってしまうのでしょう。
正統なセッティングとは、皆が心地良く過ごせる空間を作る事が大事ですので、「私ってセンスが無いかも」等と不要に心配しないで下さいね
さて、セッティングのハイライトは正餐で、主にディナーとなりますが、実は、最も優雅で贅沢な食事は「スーペ」です。
スーペって聞き慣れない言葉ですが、スーペとは夜食の事。
えっ、夜食ぅ?!・・・・と思われる方も多いですよね。
夜食と言うと受験生や飲んで帰ったお父さんの、お茶漬けとかおにぎり、と言う様な簡単にササっと食べられる食事をイメージしがちです
でもね、フランスの上流社会では、スーペとは、大切な人と分かち合う、最もプライベートな食事です。
ヨーロッパはオペラが盛んです。
特にイタリアでは市場のオバちゃんも仕事が終わればオペラを観に行く位身近です。
そこで、オペラやバレエ、クラシックのコンサート等が終わった後、観劇の余韻をそのままに、お屋敷で軽い食事を頂く習慣がスーペなんです。
ですから、本来ならスーペのセッティングは、今し方観て来たオペラの世界を思い出させる様なロマンティックで贅沢なモノであるべきなんですよ
↑スープを入れるチューリンをセンターに置いて…(写真はお借りしました)
スーペの習慣は18世紀以前にまで遡るもの。
王侯貴族は、夜遅くまで社交を楽しみます。
バレエやオペラ、芝居等を楽しむと、大分夜が遅くなりますが、王侯貴族達は、観劇の後、夫々の屋敷に戻って寝るなんて野暮な事はしません!
バレエやオペラ等非日常の世界を楽しんだ後、その夢の世界の余韻に浸りたいものです。
その為、親しい人を屋敷に招いて、軽い食事を摂りながら、今見て来た舞台の話を楽しむ等、舞台の世界を引継いだまま就寝するんです
因みに、ヨーロッパの食事がコンチネンタルスタイルといってパンとコーヒーの軽いモノになるのは、夜更かしをしてまで楽しむ為、朝はゆっくり起きて、軽く簡単に済ますと言う習慣があったからなの。
王侯貴族達は、テーブルやインテリアに、見て来たばかりのオペラに関連する小物を置いたり、銀の食器に金メッキをかけたヴェルメイユと言われる食器を使うなど、贅を尽くした、まるでオペラの世界から抜け出した様な空間を楽しんだ事でしょう。
それも気心の知れたプライベートな集まりの為ですから、何とも贅沢な世界です。
マリー・アントワネットも国の母に、夕食の後は社交を行って、その後スーペを摂りますと報告しています。
でも、アントワネットの場合は、仲の良い内輪の集まりと言うより、しきたりを重視した、由緒ある帯剣貴族を集めた堅苦しいものだったのでしょうね
スーペの語源はスープから端を発します。
↑マイセンのスープチューリン
語源から分かる様に、食事のメニューはこれから眠りに着くのですから、身体を温めて消化の良い物となります。
現代では、ワインに、スープやキッシュ、軽いお魚等、2,3種類のお料理が出されます。
当然18世紀のスーペは、もっとゴージャスに数種類のお肉やお魚料理、アントルメ等の中から好きな物を選んで食べていた事でしょう
現代は簡略化されて、一般の私達でも楽しめる様な気軽なメニューです。
そして、更に気軽な事は、昔の様にお屋敷に人をお招きする事もある様ですが、終演後はレストランに移って食事を頂く方が主流の様です
因みに、音楽の都と言われるウィーンでは、終演後、レストランは大忙し。
オペラ座の真ん前にあるホテル「ブリストル」では、終演後、味にも煩いお客様で大盛況になるのだとか。
↑オーストリアのアウガルテン窯のマリア・テレジアシリーズのチューリン
私は朝が早い為、コンサート等を見に行ってもサッと帰って翌日に備えるばかりですが、時間にゆとりがある時は、知人とバレエを観に行った後、スーペもどきを楽しんだ事があります。
例えば、以前、Kバレエの白鳥の湖を観に行った帰りの事。
終演後、広尾にあった、当時、懇意にしていたレストランに知人をお連れした事があります。
講演前に軽く食事を摂っていましたし、時間も遅かったので、電話でお席をお願いした際、観劇後と言う事情もお話しておいた為、シャンパンを頂きながら、こちらの希望に合わせて軽い食事を何品かピックアップして頂いた事を覚えています。
アミューズはシャンパンにあう、雲丹の貴婦人風。
スクランブルエッグに雲丹を合わせた料理を雲丹の殻の中に戻し、軽くオーブンで温めたお料理で、お店のスペシャリテ。
夜が遅くなると、食事も軽く少量になるので、この様な、お腹の負担にならない小さなお料理でありながらポイントとなる様なお料理があると、グッと気分も盛り上がります
日本では、オペラやバレエは敷居が高いと言われますから、ミュージカルやお芝居等を見た後に、その余韻を大切にしながらスーペを楽しまれるのは如何でしょう?
その様な意味でも、普段からお食事に行く際は、お店の方と良好な関係を築いていらっしゃると、いざと言う時は力になって下さいますよ。
勿論、心を込めて感謝の気持ちは忘れずに
終演後、駅前のコーヒーショップやファミレスで、サックリ済ませるのも通常は良いですが、折角、観劇やクラシックのコンサート等の非日常の空間を楽しまれたのですから、時にはお洒落をして徹底的に非日常を楽しむのも贅沢があるのも素敵です。
非日常の世界は、プリンセス感をグッと高めてくれますし、心の栄養にもなります
折角、プリンセスの様な女性として一歩を踏み出すのでしたら、時にはプリンセスごっこで実践あるのみです(笑)。
それを楽しむ為にも、日頃からお洒落感覚を磨く楽しみがあるのだと思います。
そう、プリンセスとは、お洒落も食事も文化も含めたマルチな楽しみを享受できる事。
ある意味、自分自身が総合芸術であり、アートです。
スーペこそ、プリンセスのお楽しみなのかも知れません。
↑リチャード・ジノリのヴェッキオ・ホワイトは価格も手頃で、合わせやすいシリーズです。