純粋な気持ちや優しさは、必ず相手に届きます。
そして、その美しい思いは、お相手だけではなく、周りの方々にも伝わるものです。
ルイ14世治下の宮廷で「野に咲くすみれの様な人」と、誰からも好かれたルイの最初の寵姫ヴァリエール嬢は、純粋な優しい心の持ち主でした。
その優しさを、ラ・フォンテーヌは「その美貌よりもずっと美しい優しさ」と表現し、ラファイエット夫人は「とても美しい、とても優しい、とても感じやすい」と要約した程ですから、悪意が渦巻く宮廷で、純粋な気持ちを持ち続けた事は稀に見る美徳であり、どれだけ沢山の人から愛されたか、想像し易い事でしょう。
さて、このルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール嬢はルイ14世の弟の奥さん、つまり王弟妃アンリエット・アングルテールの女官でした。
ルイが初恋の人マリー・マンチーニと泣く泣く別れ、国策の為にスペイン王女マリー・テレーズと結婚したものの、初恋の女性を忘れられず、かと言って王妃を愛せる訳でもなく、鬱々とした毎日を過ごしていた時ルイの前に現れたのが、従兄妹のアンリエット。
弟のオルレアン公フィリップの妃としてフランスに嫁いで来たのです。
アンリエットは2歳の時、クロムウェル率いる革命軍によって父チャールズ1世が失墜した為、ルイ13世の血縁を頼って母とフランスに亡命してきたのですが、折しも、フランスはフロンドの乱の渦中。
囚われの身となっていた、母后と幼いルイ14世を含む、フランス宮廷は、この母子に救いの手を差し伸べる事は出来なかったのです。
フロンドの乱が鎮静し、何とか僅かばかりの面倒を見てやれる様になる迄、母と娘の生活は困窮を極め、やがて祖国で父チャールズ1世が処刑されるとアンリエットの兄チャールズ2世が王位に就き、フランス亡命中の母子はロンドンへ戻っていったと言う幼馴染。
幼い頃、ルイが「イノサン墓地の骸骨」と呼んで泣かせた、痩せっぽちな少女は、数年後、艶やかで輝くばかりに美しい、才媛としてフランスに戻ってきたのです。
しかし、夫であるオルレアン公フィリップは女装趣味があり、ホモセクシャルの傾向が強く、女性を愛する事が無かった為、王弟妃アンリエットもまた不幸な結婚生活を過していたのです。
愛のない結婚生活を強いられている2人が再会すれば、何が起こるかは明らかな事。
文学に造詣が深く響く様な才気のあるアンリエットに、初恋の人の面影を見つけたルイはアンリエットと意気投合し、その親密さは日に日に増していくのですが、恋する女性は弟の妻。
同時に、アンリエットにとって、愛しい人は夫の兄。
ルイとアンリエットにとって、義兄妹の壁は高かった!
たちまち宮廷でも噂となり、ルイとアンリエットは別々に母后によばれ、立場を考える様、釘を刺されたのです。
幾ら恋多き・・・いや、見境がない男ルイとは言え、流石に義理の妹だけに越えてはいけない壁がある事は、母后から言われずとも分かっている。
それはアンリエットとて同じ事。
二人は会うのを自粛して、手紙でやり取りを続けるも、他人の手を介してのやり取りはどうもまどろっこしい。
そこで、アンリエットは女官の1人を加えて、3人で会うなら誰も怪しむ人はいないだろうと、3人で会う事を提案したのです。
そこで白羽の矢がたったのが、ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール嬢だったのです。
・・・・to be continued