マルガレーテが深い悲しみにいる頃、ガンの宮廷では、兄の妃ファナが男の子を出産しました。後の皇帝カール5世。スペイン王カルロス1世です。
そしてマルガレーテに代母となる様聞かされると、マルガレーテは再び自分の進むべき道を見出し、子供たちの世話をしようと、その将来をあれこれ模索し出すのですが、実は、この時、父マクシミリアンは、今度はサヴォイ公フィリベールとマルガレーテを結婚させ様としていたのです。
実はこのフィリベールは幼い頃、ロワールのアンヌ・ボージュの宮廷で遊んだ子供達の1人、マルガレーテの幼馴染でした。
フィリベールは絵にかいたような長身で美しい若者でした。彼は若い時にフランスの宮廷で武者修行をしたことがあり、馬術とフェンシングの達人であり、誰も武芸を競える若者は他にはいなかったと言われています。
しかし、政務より狩猟や享楽を好んだ為に、治世は乱れてたいたのです。
マルガレーテにとってフィリベールは待ち望んでいたタイプの男性でした。
美しい容姿だけでなく、彼の狩猟での冒険話を聞くのを心から楽しみ、すっかり彼の魅力の虜になったのです。
フィリベールも亡くなった最初の妻との結婚では、他の美女に目が行ったものでしたが、マルガレーテの均整のとれた容姿にすっかり魅了され、二人はあらゆる面で似合いの夫婦だったそうです。
間もなくマルガレーテは夫は騎士としても猟師としても抜群だが、政務に関心がなく弟に任せっきりな事を見抜き、マルガレーテが公国の政治にかかわる様になりました。
マルガレーテはこれまでの国で体得した政治上の経験を実行に移すと、破綻をきたした財政を立て直し、有能な人材を宮廷に招き、短期間のうちにサヴォイ公国を模範的に国家に建直すことに成功したのです。
マルガレーテはフィリベールが祝宴等に目がない事を感じ取っていた為、出来る限り頻繁に華麗な祝宴を催したり、夫が乗馬や狩猟に行く時は必ず同行しました。
マルガレーテは幸せを味わっていると、いつも突然幸せを奪われる人生を味わってきた。それだけに、フィリベールと離れて宮廷にいると、狩猟の途中で夫の身に何か起きるのではないかと不安でたまらず、自分が彼のそばについている限り、何も起きないであろうと信じていたのです。
そんなある日、マルガレーテは何とも名状しがたい不安に襲われました。
彼女は政治上の重要な協議が予定されていたので、明日予定されている狩猟を中止する様頼んだのですが、フィリベールはその言葉を気にせず、翌日狩りに行くと、泉の冷水を飲んだ後、みるみる体調を崩し帰らぬ人となったのです。
マルガレーテは美しいブロンドの髪を切り、二度と結婚はせず、愛するフィリベールの事を思い生きようと心に誓うのです。
ガンの宮廷に戻ったマルガレーテは、父マクシミリアンに自分はもう誰とも結婚をするつもりはないと伝えました。
度重なる別れに、流石に適応能力の強いマルガレーテも、これ以上悲しい思いはしたくなかったのでしょう。
マルガレーテの中に統治者としての才能を見つけたマクシミリアンは、マルガレーテをネーデルラントの総督に任命し、メッヘルンの宮廷を中心としたネーデルラントの内外政を一任させると共に、マクシミリアン自身は神聖ローマ帝国内の統治と対フランス等帝国を取巻く外敵の対応に専念する事としたのです。
自身の子供を持つ事は生涯無かったマルガレーテは、後に、両親を亡くした亡き兄フィリップの4人の遺児の養育に全霊を注ぎました。
マルガレーテが何にもまして力を注いだのはハプスブルクの隆盛で、特に甥のカールを立派な君主に育てる事でした。
マクシミリアン帝が逝去するとマルガレーテは甥のカールを皇帝選挙で皇帝に就かせる為尽力し、ヨーロッパ全体の平和を目指して奮闘するカールをサポートしながら、故郷ブルゴーニュの反乱分子もよく手なずけ、誰からも敬愛される名総督になると、住居をメッヘルンに移し、ここをルネサンス期の芸術が開花した一大芸術都市に変貌させたのです。
かつて祖国の手によってフランスに売られた花嫁は、マクシミリアンとカール5世、名君2人のサポート役として、またネーデルランドの統治者として、その才能を発揮し、甥や姪に囲まれ、国民の母として多大な愛情を勝ち取ったのです。
・・・・to be continued