黙って家を飛び出してあてもなく街をさまよう。

あたしの居場所なんてもうないんだ…。

もう25歳も過ぎ、友達も家庭というものを築きだし、あたしは本当に彼に生かされていたのかもしれないって、ふと思う。

前はどんなふうに生きてきたっけ?思い出せないよ。

ほんの少し前には普通に生きていたはずなのにね…。

『ウソつきだったからじゃない?』

自分の中からの声。

違う。ウソつきなんかじゃない。ただ波風立てないように、自分のサイズを合わせていただけ。

それは悪いことなの?


あたしには何もない。地の底まで落ちた気分。


カバンの中から急に音が鳴る。

恐る恐る画面を開くと、やっぱり『ヒロム』の名前があった。

この電話に出れば…今の気分からは解放される。

ただ…出てしまえばあたしは…あたしじゃいられない気がする。

守るべきは今までの自分?それともプライド?


…あたしは電話に出なかった。正確には出ることが出来なかった。ぐるぐると廻る思考の中、着信を示す明かりは消えてしまったのだ。

それは二人のこれまでをつなぐ糸を、断ち切るかのように、残酷に、暴力的に…切れた。


あたしはどうしていいか、わからなくなっていた。


どこが地面で、どこが空か。わからなくて。わからなくて。泣いた。ただ泣きつくした。

それで何が変わるなんてわからない。

何も変わらないけど、ただ身体が反応した。

もうヒロムには頼れない。自分で居場所をなくしたんだ。

これからあたしは、誰にも頼らないで生きなければいけない。

そう。一人で。ヒトリで。

昔みたいに戻るだけだ。

『戻る』?

何が悲しくて戻らなきゃいけないのだろう?


あたしは…どうしたいのだろう?

何が不満だったのだろう?

何も不自由なく、ヒロムは頑張っていたはずなのに…。

どうして…。あたしのワガママなのかな?

あたしのワガママで傷つけたのかな?

でも…冷めていく料理を見るのは耐えられなかったの。

まるで"これから"のあたしを見ているようで。

冷めていくのは気持ち?

料理なら暖め直せばいい。

ただ、気持ちは?

レンジでは…無理だよね。

冷めたわけじゃない。許せなかったのは信じきれなかったあたし?それとも、そこにいてくれなかったあなたに?

もう…まるで…あたしはわからなくなっていた。