二人は考え込んでいた。

『とにかく楽器を弾いてみないか?』とケンヤ。

『でもこのままじゃ何も変わらないだろ?』とトオル。

『そうだけどさ…。音楽はさ、理論はあるけど、理屈じゃないだろ?』

『…そうか。ケンヤ。戻ろう』

急に立ち上がり、スタジオに戻ろうとするトオルの肩を捕まえる。

『わかったのか?』

『わからないけど…試す価値はある』


スタジオに入り、セットに座るトオル。

まだ納得もできない様子で、訳のわからないまま楽器を持つケンヤ。

『ケンヤ。俺についてきてくれ』

走り出すリズム。

『それじゃ譜面と違うだろ?』

『いいから!!』

トオルのリズムに引きずられる。

…仕方ない。ここで譲るのもおかしな話だ。

リズムを壊さないように。だけど自分の存在はきちんと鳴らす。

ギターの隙間は残しつつね。


ブースの外でニヤリと笑うヒロム。

「…やっと気づいたか」


ひととおり曲を終え、声をかける。

「わかったのか?」

『はい』とトオル。

『俺はまだ…』とケンヤ。

「トオル。説明してやれ」

『俺たちは譜面にこだわり過ぎていたんだ。ミスしないように、失敗しないように』

『それが当たり前じゃん?』

『違うさ。失敗のないものと成功したものは』

『どういう意味?』

『ケンヤ。今の演奏どうだった?』

『好き勝手に弾いたけど、楽しかったよ』

『そう。それでいいんだ。この譜面なんてあってないようなもの。だって、これから俺たちで作り上げていくものだから。ですよね?ヒロムさん』

「そういうことだ。特にケンヤ。お前の一番いいところは"ノリ"だろ?そこをなくしたら誰にも届かない」

『そうだよな…。音楽だもんな。難しい顔して弾けばいいってわけじゃないってことだ』

『そうだね。俺たちは俺たちの楽しいように鳴らせば、絶対にいいものができるはずだから』

「そうだな。元々理論より感性で選んでるからな」

『ヒロムさん。さっきはすいませんでした』

「明日は雪かなぁ…。ケンヤが謝るなんて」

スタジオ内に笑い声がこだました。



これでリズム隊の音録りは完成するだろう。

僕らのミュージックは、どんどん現実化してきた。

楽しくて仕方なかった。

夢が現実になる瞬間。

まさに夢見心地な気分。