彼女を見送ったあと、急にドキドキが襲ってきた。

初めての意識。

惹き付けられる求心力。

これが『好き』ってことなのか?


とりあえず濡れてしまった制服を脱ぎ、バスタオルで適当に体を拭いて、普段着に着替える。

そして二人の制服を乾燥機に放り込む…が、乾燥機は風呂場の前室。

行くしかない。

一応前室をノックする。自分の家なのに、他人の家みたいに急に落ち着かない。

『なに?』

優子が答える。

「乾燥機がここだから。あと着替え。下着どうしよう?母ちゃんの持ってくる?」

『悪いからいいよ。とりあえずTシャツとジャージで』

「わかった」

乾燥機にすべて放り込み、スイッチを入れる。

扉を閉め、足早に自分の部屋に戻った。

落ち着け、俺。

音のない部屋が堪えきれなくて、テレビをつける。

臨時ニュースが入ってくる。

[大雨洪水警報]

(発達した台風並みの低気圧が…)

チャンネルを変えても、話題は変わらなかったから、テレビを消した。

[コンコン]と軽いノックの音。

ドアを開けると、濡れた髪が頬に張り付いて、なんだかキレイだった。

同じものを使っているはずなのに、どうしてこんなにいい匂いがするのだろうか…。

『健も入ってきなよ?温かいよ?』

「うん」

ぎこちなく返事をしてノロノロと風呂場に向かう。

やましい気持ちはないと言えばウソになるけど、思春期なら当然のこと。

その気持ちを『やましい』だなんて思いたくはない。

風呂に入っても何だか落ち着かなく、俺は早々に上がることにした。


『早いね?男の子だから?』

「わかんない。多分、いつもはもう少し長いと思うよ」

『遠慮しなくてもよかったのに。あ、ドライヤー借りたから』

「ああ、うん」


見慣れたはずの風景に彼女が混ざるだけで、こんなにも違って見えるなんて、想像したこともなかった。

「そういえば、さっき大雨洪水警報出てたよ。まだ止まないみたい」

『そっかあ…どうしようね?』

「とりあえずもう少し待とうよ。止まない雨はないんだし」

『…ちょっと今のカッコいいね』

「やめろ。忘れろ」

『"止まない雨はないんだし"だって』

「いい加減に…」

じゃれ合うようにもつれて、偶然にも彼女が下になる。

無言のテレパシー。時間が止まったみたいに、彼女は目を閉じる。

引き寄せられるように重なり合う唇。

雨音だけが響いていた。