「いつまで黙っているつもりですか?」

次郎はかたくなに口を閉ざした。

会話は危険だ…。

直感がそう告げている。


人は得体の知れないものには心を閉ざす。

最低限の自己防衛…。

"当たり前"の反応だ…。


だが、それ故に…隙も大きい。

ものすごく真面目な常識人なんだろうな…。

たぶん、真実を暴くことは残酷な結果をもたらすだろう。

この事件のカギは彼の「性質」の中にある。


「ちょっと休憩しましょう。コーヒーとお茶どちらがいいですか?」

『…今は要らない。』

「まぁ、そう言わずに…。僕もあなたとゆっくり話したいだけなんですから。僕はコーヒーにします。佐藤さんは?」

『じゃあ同じものを貰おうか。』

「わかりました。」

僕は一度部屋を出る。

このままじゃ、たぶん彼は口を閉ざしたままだろうから。

緊張を緩ませるのも大事なことだ。

彼に冷静さを取り戻させるために…。


コーヒーをトレイに乗せ、ミルクと砂糖もついでに乗せて、僕はまた戦場へ向かう。

僕は何を見たいんだろう?

残酷な結果を?ただ真実を?もはや"趣味"の領域なのかもしれないね…。

被害者についても調べないとなぁ…。


部屋の扉を開けると、黙って前を向いたまま、真っ直ぐに座っている。

少し整理が出来たのだろう。

「お待たせしました。ミルクと砂糖はお使いになりますか?」

『…両方。』

彼は呟くと、砂糖のスティックをあけて流し込み、ミルクを入れ、ガチャガチャとかきまわした。

…かなりの甘党なんだなぁ。それに、疲れているのだろう。たぶん、夜も眠れていないんだろうということは、容易に想像できる。


彼は砂漠の迷子みたいに、一気に流し込み、一つ大きなため息をついた。

「もう一杯飲みますか?」
『いや、結構だ。』

「喉が渇いていたんですね?インスタントですいません。」

『いや、おかげで少し落ち着いたよ。仕事のことも思い出したがね。』

「仕事のこと?」

『サラリーマンにコーヒーは付き物だっていう事だよ。』

彼は軽く微笑んだ。

…この時おり見せる人なつっこい表情が、部下から好かれるのだろうな。

「僕らも変わらないですよ。仕事中の一杯。大きな案件が終わった後の一杯なんてもう!!」

『格別だな。』

太古のアロマで、リラックスした二人。

先に口火を開いたのは、彼だった。