歩きながら
君が、呟いた。
私が亡くなったら
私が大好きだった
あの湖の前にベンチを
置いて欲しいって。
一緒に歩いていた
僕の足はパタリと
止まった。
タイムマシーンで一気に
真っ暗な未来へ
引きずり込まれる感覚に
目眩を感じながら。
今、君の手が、こんなに
温かいのに、そんな日が
本当に、本当に
やってくるのかと
信じたくない気持ちと
目の前に見える、
誰かが思い出に作った
ベンチの景色が交錯して
僕の胸は、これでもかと
いう程えぐられた。
そう。
人は何かを
残したいんだ。
この時代に、この場所に
確かに、あなたが
生きていたという証を
何かで残しておきたいんだ。
生まれてこれた
喜びと悲しみと
ありがとうと
忘れないでを
何かに残したいんだ。
だから、暫くしてから
僕は、分かったよと
君に言った。
こぼれ落ちそうな涙を
一生懸命飲み込んで
そう返事をしたのを
君は知らない。
今日という日から
あちこちで見かける
ベンチを真っ直ぐ
見れなくなったのも
君は知らない。