切り透かしと河内刈りについて

結果から云うと切り透かしと河内刈りは全く異なる手入でした。

 

写真左「河内刈り」写真右「切り透かし」

 

似ている要素があるかと思いましたがブログを纏めているうちに全く異なる技術であることがわかりました。切透かしは仕上げが粗く共通点は古葉止めのみ、葉を切りそろえるスピードときれいさは河内刈りのほうが勝ります。

この茅ケ崎には元々江戸末期に於ける鉄砲場としての官有地があり、払い下げ後に防砂林として植林された。結核療養所南湖院はその官有地の払い下げ後東洋一のサナトリウムとしてその当時の最先端医療現場を誇っていた。

1898年(明治31)駅舎が出来、後発ながらこの茅ケ崎に別荘開発が進み、住宅庭園には且つての防砂林の一部としての12mから15mの松がそこそこに存在している野木、古いものでは凡そ120年前の松があり、屋敷内では野木が繁茂しない様に切り詰め、枝を落し切り透かしとして成長を抑制する方法がとられた。

 

今回は毎年行っている切り透かしの様子を紹介しましょう。

 

 

切り透かしの特徴は本手入れ(葉毟り)ではなく古葉や中芽で止め、透かすためにピッチは広めに垂れ葉を除去します。毎年切り透かしするケース、3年毎、5年毎で其々透かすピッチや残す枝葉の量が変わります。

 

切透かしの技術、アメブロ手入れと鋏の関係 2017-11-10 18:03:33築山庭造伝前編を読み返すと…….。

 

手入れと鋏の関係 2017-11-10 18:03:33 『築山庭造伝前編』に描かれた中の深山すかし・小ずかし程度の手入れを切り透かしと推測判断して検証してみます。

https://ameblo.jp/primrose5591/entry-12327250158.html

 

江戸時代中期、享保20年(1735)に北村援琴が著した『築山庭造伝前編』前編に、木造りの事として、鎌割・挟み割り・野ずかし・深山すかし・小ずかし・指割・もみあげ・爪すかしがあり、この中の挟割は、ハサミで切り取ったものと推測している。

 

割るとは、広辞苑によると「ものを押し分ける」「けんかの仲裁に―・ってはいる」

などの表現時に使う事から、鎌割・鋏割・野ずかし・深山すかしは、突き鋏、鋏を使った鎌割は、突き鋏を使った手入と判断できる。

京都御苑

小ずかし・指割・もみあげ・爪すかしの小ずかしは、5本のうち3本にするような単位。指割においては、枯葉を除くもみあげは、前年の古葉を取り去る。爪すかしは本年の葉数を取り揃える。前回、親方の仕事の中で紹介した写真の中にある本手入は築山庭造傳の云う深山すかし・小ずかしに近いようです。

それでは何故そうするのか。

 

明治末期に於ける住宅庭園史の影響から敷地の狭広によっては手入の方法や手法は当然変わり、工夫も望まれる。手入の第一目的はその姿を物理的に保持する事、第二に観賞目的となる。物理的とは基本的に「障る」部分を主に指し建物に掛るや歩行に障るなど。

 

もっとも、「障る」では植栽時の樹種や将来像が描けられればあり得ない事。地域によってはその保持の技術、手法があり愛知三河、島根出雲、福岡大分の地域では孫芽出しでその姿を物理的に保持している。

 

写真は出雲の松

物理的な整枝について、手入れを怠るとほぼ3年で枝が乱れ5年後にはご承知の通り野木状態に戻る。人工的な整枝なので、本来のスケールに戻そうとする力の方が強くあっという間に戻されます。

自然の姿をモデルにした自然風の手入れでもスケールに合わなければ崩れます。手入はけっして自然ではありません。

 

透かしの基本…….。

この地域でピストル型の鋸より折込、長柄の鋸が好まれる理由はこの切り透かしの手入れに関係します。

 

さて、どの様にすると綺麗で美しいのか。

枝が揃っている

葉数が同じ

枝のピッチが均等

今年出た芽に揃える

 

例えば敷砂利の粒が大小で揃っていない場合と粒が揃っている場合では粒が揃っている方が美しい。芽と芽のピッチが均等で、敷砂利の粒揃いと同じく葉の数が揃うことが美しさ最たるものと認識できる。

解り易くいうと5本のうち2本を取る。

 

河内刈りの手入れは大阪河内地方の独特な手入れで長短の芽の長い方を取り短い葉芽と共に長さを揃え切る手入れで当然残した古葉から孫芽も吹き出す。そうしていくうちに葉が短くなり、出雲や福岡、三河の枝構成に近似したその姿を物理的に保持する事ができる。足立美術館を見る様におそらく管理方法で樹形がいちばん保持される手入れはこの手入れと評価しています。

写真左側より大分、出雲、河内、津島の手入れ

 

切透かしはその長短の芽の長い方を取り、短い芽と共に古葉止めとし葉は刈らない手入となり、残した古葉から孫芽も吹き出す原理となる。長短の長い方を中芽で止めた時は古葉からの芽が付きやすくなる。古葉が取られた状態で、中芽で止めた場合は時期によっては芽が付くが充実した芽とは云えない。

 

したがって亀甲透かしの作りではミドリ摘みの際、中途で止めた充実していない中芽はいずれ取られる運命になる。と云っても切り透かしと河内刈りの共通点は古葉止め、相違点は断然河内刈りの方が丁寧で綺麗。切り透かしは本手入れに準じるものではあるが粗い手入となります。

赤松(通常スケール)の場合は、本手入れ(葉むしり)をすると間延びし、どうしても貧祖になるため、切り透かしの応用に準じ、下に垂れた葉を除去するだけでもボリューム感を保てる。いずれにしても古葉があれば芽が出る事は総てに共通する。できるだけ手元に、懐に枝を保つには熊手を重ねた形状にする事で切り戻しも容易になる。

完成木で形状が大造りな樹形は限られた空間ではいつかは限界がくる。工数に限りがある場合、施主変わりの様な理由からは頭や枝をバラすか、工数やスペースに余裕があれば徹底して現状維持の形状を保つかどちらかになります。

 

自然樹形の成長が安定している理由は木々其々の新陳代謝が安定しているからで切断し刺激を与えると反発する。言葉を言い換えると活性活発化し生長点を戻そうとする。逆に成長速度が不完全になると葉や芽の大きさが最小限度になる。よく見ると枯葉が積もっている状態であることがよくわかる。つまり、古葉取りや葉むしりは元気にする作用と言えます。