講演録「西博士と西田博士」(10)

 

6月6日(金)

 

「西博士と西田博士」(昭和38年11月10日、森先生68歳)と題する講演は、西晋一郎先生の二十周忌法要の後、広島大学で特別に開催されたもので、哲学を求める方には良きガイドブックになると思います。本日は壮年期に共に参禅していたのは、北条先生の影響ではないかということです。

 

共に壮年時代に参禅していた

 

同時に、これらお二人の思想家が、その人間形成上に受けられた感化影響という点で、もっと大きく共通する点は、共に壮年時代において参禅せられていたようですが、これも私の考えによりますと、全く北条先生の影響といって良かろうと思われるのであります。

 

西田先生が三十代という学問の基礎形成期において打坐されたことは、先生の「寸心日記」(アテネ文庫)に明らかですが、西先生もまた壮年期において仏通寺にお通いになられたことは周知の事柄であります。しかも共に臨済禅だったということも、恐らくは北条先生に発しているのではないかという気がいたすのであります。

 

さらに両先生が共に寡黙であって、学生などがお訪ねしても、しばしば取りつく島のないほどだったという点なども、どうもその源流は北条先生に発しているのではないかと考えられるのであります。

 

なお、北条先生について、詳しいことを知りたいと思われる方は、先生の追憶集ともいうべき「廊堂片影」というものがございますからご覧になられるがよいと思います。なかなかの大冊ですが、今は亡き巨人、北条時敬先生の面目を伺いうるものとしては唯一の文献といってよいでしょう。

 

さて、以上はいわば「学問以前」ともいうべき点における、ふたりの思想家の共通点について申しましたから、次には学問上の共通点について申してみたいと思います。

 

まず第一に、周知のように、お二人ともにその著述が非常に独創的な思想体系の表現だということであります。その点で、明治維新以後民族のもった最初の独創的な思想家であると共に、爾後今日に至るまで、それに並ぶ思想家を輩出してはいないのであります。