「21世紀型専門店」から④
6月8日(土)
拙著「21世紀型専門店」(1998年9月発刊)からプロローグー「ひとりごと」です。ライフスタイル変化できもの需要が大きく減少し、廃業、蹉跌が多発していく激動の1994年から5年間、いかに未知なる21世紀へ対応していくかの問題意識です。
本日は専門店が永続していく「三つの条件」として次の3点を提示しています。①商人としての店の本質を追求する。②時代の変化に対応していく。③日々の改善を怠らない前向きな努力。
・「何が正しいか」を洞察する
企業(家業)もひとつの生命と考えるなら、人間が生きる意味、価値を求めるように、企業もまた存在の本質としてのはたらきを追求するのはごく自然であろう。弊社も決してその例外であろう筈がない。たしかな命題は雑草集団のわれわれが、どのように叩かれ、踏みつけられようと、ひと時たりとも本質追求の呼吸を止めてはならないということである。
そのために大切な視点は、「だれが正しい」ではなく、「何が正しいか」を洞察できる素直な心、感動する心を養うことである。社員さんに最も強調してきたのは、この本質性についてである。心ある方々との出会いに感謝し、今日を生きて生かされる各人が、真の自分に目醒めて欲しいとの願いである。
さらにそれぞれが「自分を大切にする」意味を仕事をとおして発見して欲しい。そういう生きる姿勢を持った人間のネットワークが新しい時代を創造していく力であり、社会の進化に貢献できることを、世紀末の混迷の中で日増しに強く感じているのである。
そんな心境の中でここ半年ばかりのことである。
「大下さんの言うとおりになってきましたね」
「予測が当たりましたよ」
「やっぱり売り上げよりCSです」
「本当によくわかりました」、などの声を聴かせていただく機会が多くなった。
その度に分かり合えて良かったと感謝する反面、ご縁をいただきながらお役に立てず、挫折された方々の胸中を察し、複雑で申し訳ない気持ちを禁じえないのである。その尊い体験から何を学び、いかに起ち上がり、自分を生き切るかに真の価値がある筈だからである。「逆境は天が与えた試練」(森信三)として、マイナス体験を乗り越え強く生き抜いて欲しいと切に願うのである。
・永続する「三つの条件」
売り上げ追求型の有力店が徐々に力を失い、行き詰まりを見せつつある。数年前まで有力店と呼ばれていた店が、アッという間に消え去るのが今日的状況である。どんなに売上高を誇っていても商人の本質から逸脱し、変化に対応できなければ生存の保証を失うのが経営体の宿命なのである。
ごく普通の会社(店)が挫折していく今、「店は潰れるもの」という歴史の教訓をまざまざ見せつけられる。そこで店が継続していく「三つの条件」を紹介しよう。京都型商法をヒントに拙著「日本型専門店」で提示した仮説である。
「三つの条件」とは次に三点である。
① 商人としての店の本質を追求する。
② 時代の変化に対応していく。
③ 日々の改善を怠らない前向きな努力。
この「三つの条件」を一円融合的に追求していくなら、店が消滅することはないという仮説である。残念ながらオイルショック以降の20年間、多くの経営者が「三つの条件」とは逆の方向を選択していくことに抵抗する術を持ちえなかった無力感を今日もなお抱き続けているのである。
なぜ多くの商人たちが商人の本質を喪失し、ひたすら売上高を追求してきたのであろう。市場が成長から成熟へと変化していく中で、なぜライフスタイル変化に対応するのではなく、客に迎合するプロモーシンを展開してきたのであろう。
日々の販売努力は顧客を創造するためではなかったのであろうか。デフレ下で縮小を続けるマーケットは、経営者に以上の点を問いかけているように思える。たしかなことは、今日もなお高額の金券や社販(社員販売)で売り上げを求める家業専門店に明日の繁栄を期待できない。もう目醒めなければ天が許さないと考えたい。