21世紀へ向けた激動の5年間のメッセージ

 

5月18日(土)

 

私事ながら本年の3月31日をもって完全退社となりました。29歳で創業以来、59年に及ぶ永い歳月にわたり社員さん、メンバー店経営者の方々はもとより、数え切れない関係者の皆さまに支えられ、無事に勤務を終えられたことに心から感謝申しあげております。

 

もっとも社長を辞めてからの19年間は、現場を離れた名ばかりの相談役。社会が新しいIT、AIの時代へ転換していく中で、後を継いで事業の創造に取り組んでいる若い人たちの成長を見守る日々を過ごしてきたにすぎません。

 

創業から日々戦場という商いの現場を学ぶ機会を提供していただき、時には厳しくも温かいご指導をいただいた経営者の多くは天国へ先立たれました。そのお一人おひとりの顔を想い浮かべながら、現在はご子息、さらにはお孫さん世代が店を継承していることに安堵しています。

 

ところが最近、仕事とは関係のない「実践人」の同友から、時に「どんな仕事をやっていたのですか」と尋ねられることがありました。先日もそのような出会いがあり、ふと思いついたのが拙著「21世紀型専門店」(1998年9月発刊)のプロローグー「ひとりごと」、エピローグー「諦めのすすめ」です。

 

この本はまさしく激動の1994年から21世紀へ向けた5年間、「メンバー店会報」の「今月の提言」(きもの)、「マインドレター」(ジュエリー)に掲載した内容をテーマ別に編集し直したものです。弊社(ピーアール現代)が提唱、実践してきた仕事の内容でもあります。そのプロローグとエピローグの中に「自分の仕事」が集約されているように思えます。

 

「どんな仕事をやっていたのですか」への率直な回答であり、今にして想えば未熟な自分を曝け出しているように感じられる点も少なくありませんが、良くも悪くも発行当時、62歳のわが身の偽りない心情ということでご笑覧いただければ幸いです。

 

「プロローグ」――「ひとりごと」

 

・21世紀への五つの課題

 

「大下さんは相変わらす立派なことを言っているよ」

「むずかしいことを書いてるね」

「理屈はわかるんだけど現実はちょっと」

「戦略はいいと思うんだが・・・」など、影の声が耳に入ってくる。「PRさんはよく潰れなかったネ」と面と向かって話してくれた経営者もいる。

 

「きものをまだやってるの?」とあきれ顔の親しい友人。いずれもそれぞれに一理あるご批判だけに有り難く感謝してきた。

 

弁解がましいことは避けたいが、ひとだけ明確にしておきたいのは、弊社創業の目的は決して金儲けではないという厳然たる事実である。「またきれいごとを言う」の声が聴こえてくるが、これは偽りのない真実だからどうにも仕方がない。

 

創業期には「鬼の大下」と呼ばれていたが、たとえ売上目標が未達でも、そのことに関して社員を怒ったり、叱ったりした記憶は一度もない。鬼になるのはやるべき課題を「恐れ、甘え、逃げる」結果、メンバー店の売上目標を達成できなかった場合だけである。こういう場合には、大声を張り上げまさしくいのちがけで叱りつけた。

 

クライアントに対する責任とは、約束した課題を達成することである。これは当たり前のことである。しかし、この当たり前のことをやり続けることは容易なことではない。こうした当たり前をやりとげ、アメリカ広告業界に新風を吹き込んだその人が近代広告の祖とされるクロード・ホプキンスである。

 

店を売る「小売広告」の概念は弊社のオリジナルな命名であるが、その根本はホプキンスの姿勢に共鳴したからに他ならない。すなわち広告効果を高める基本的手法は、小売業に潜在化している無限の可能性と広告のノウハウをかけ合わせ、各店が独自のコミュニケーショスタイルを確立することである。