「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」⑤

 

5月4日(土)みどりの日。

 

「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」(ナンシー・フレイザー著 江口泰子訳、ちくま書房)の序章「共喰い資本主義」に続き、終章「マクロファージ」から抜粋してきました。

最後に白井聡氏の解説から、本書で注目したい点を要約します。

 

白井聡氏は述べています。

 

「筆者自身を含め、近現代の資本主義の危機、いやもっと正確に言えば、危機を内在的にはらんでいる資本主義の構造を分析する言説は国内外に多数ある。その中でも本書は、資本主義社会の矛盾の全体性、全般性を、その歴史的変遷、転位を含めて鮮やかに図式化した点において、際立っている。現代の課題を考察する上で、最良の文献の地位を間違いなく占めることになるであろう」。

 

では具体的な内容で、注目すべき点です。

 

1.「資本主義」という言葉の意味を拡張して理解すべきだと提案し、単なる経済的システム(市場経済)をさすのではなく、社会全般のあり方を示したもので、「制度化された社会秩序」=「資本主義社会」としていることです。

 

2.本書で分析の対象となっている人種差別、壊滅的な少子化の進行、再生産の危機、地球環境の危機、民主主義の危機などは、いずれも無限の資本蓄積を目指す資本主義のメカニズムに根ざすものです。

 

3.資本主義的な「生産を成り立たせる可能性の条件」は次の4つとされています。

 

(1)「搾取」ですらなく「収奪」で、その多くはグローバルサウスに住む人々。そうした人々が「北半球」の国々で従事するのは、底賃金で劣悪な仕事に従事することが多い。人種差別的というほかはない。

 

(2)市場に労働力を供給する重大な役割を担っているにもかかわらず、その対価を不十分にしか支払われていない再生産に従事する人々。この立場は圧倒的に女性が多い。

 

(3)自然環境について。自然は資本の価値増殖運動のため、天然資源を容赦なく掘り出す対象であり、同時に経済活動で生じた大量の廃棄物を捨てる場所となる。

 

(4)国家・公的権力について。資本主義的経済活動は公的権力による治安の維持、法の執行、制度の整備なしには成り立ち得ない。換言すれば、資本主義経済は自律的ではない。

 

この4つの「生産を成り立たせる可能性の条件」を、資本主義システムは自前で揃えることができません。これらの条件から一方的な収奪を行うことによってのみ、価値増殖の運動を続けることができるということです。

 

4.資本主義システムが自ら生産できないまま、喰い荒らしているのは、人間の労働力だけではなく、上記の4つの領域に見出していくのが本書の視点です。その結果はシステムを可能にするものを荒廃させてしまう。今日の政治的、社会的、生態学的な危機の深刻さがその証左であると示唆しているのです。

 

5.資本主義システムが蓄積体制を変化させるとき、その矛盾は解消されるのではなく、別の位相に転位される、換言すれば、矛盾のツケを誰かに負わせる、あるいは負わせ方を変えるにすぎないことがわかるのです。

 

6.その果てのいま、金融資本主義体制においては、ごく一部の富裕層以外の全員が搾取されると同時に収奪される「負け組」となるゲームが演じられています。こうした矛盾の転位のメカニズムを、「人種差別」「再生産」「自然破壊」「国家権力」の4つの領域で見事に描き出しているのが本書だとのことです。