「全一学ノート」とはどういう哲学か

 

10月23日(金)霜降。

 

「全一学」を理解していく糸口として、二つの講演「わたくしが歩んできた道」

(昭和35年)、「全一学にたどりつくまで」昭和52年)から抜粋しました。

 

前者は同先生の宿命的な人生と、「真理は現実の唯中にある」という独自の学問

観、後者からは一人の人間として、哲学者として自己を貫き独自の哲学体系で

ある「全一学」への過程を知ることができます。

 

講演「わたくしの歩んで来た道」(神戸大学教授の退官記念講演)から

 

・学問を媒介に「人間の生き方」を明らかにしたい

・「真理は現実の唯中にあり」と開眼する

・零下二十度の空き家で「死より生へ」の根本転換

・異質的な両極を切り結ぶ「学問的方法論」

・理論的な「恩の形而上学」と啓発的な「修身教授録」

・古本屋で「一番読みたいものを一冊だけ」買う

・「自分の体へ融けこんでいることしか書かない流儀」

・一日に四百字詰めで四十枚から六十枚を書き上げる

 

講演「『全一学』にたどりつくまで」(新教育懇話会の講演)から

 

・「哲学」というコトバの代わり「全一学」へ辿り着く

・日本人は東西文化の融和の使命を負う

・「アカデミズムの世界にも一種の流行」を痛感する

・哲学は自分自身の世界観・人生観を打ち建てるもの

・日本人と波長が近いスラブ民族の哲学

・西晋一郎、西田幾多郎の卓越した恩師を学び直す

・西田哲学の最も卓れている点は巨大な生命力!

・「西田門下」の毎田周一、梯明秀、唐木順三

・東西の哲学思想の切り結ぶ接点———「全一学」

・「人間は各自の哲学をもつべし」を実現

・「全一学」の全一的体系は「円相」である

 

さて、森門下の寺田一清先生が同先生の処女作「哲学概論」から「恩の形而上

学」、晩年の「哲学五部作」などを精読し、全精力をかけて編輯したのが「不尽

叢書」の「全一学ノート」です。

 

森信三先生は同書の目次を見せられた時、「一瞬、わたくしは心の底から驚い

たのである。何となれば、そこにはわたくしの一代の哲学的な歩みが、コンデ

ンスせられた形態で一目瞭然として披瀝せられているではないか。

 

『不尽叢書』の他の語録はともかくとして、少なくともこの『全一学ノート』

だけは、余りによく選びに抜かれた精髄なので、これだけは充分に理解し得な

い人も少なくあるまいから、その種の人々のために、書き顕わす必要がありは

しないかと考えたのである。」

 

その結果生まれたのが「全一ノート」の「自著自解」という様式による「全一

的世界」という450頁に及ぶ「全一学」の哲学体系であります。この時同先

生はすでに86才を迎えていたのです。

 

寺田一清先生の永年の執念が生み出したのが「全一学ノート」であり、さらに

86才の森先生の心を揺り動かしたのが「全一学的世界」だと言えます。