「報徳思想」のまとめに代えて(12)

混乱の日本を考える意味で想い出すのは、映画にもなった自伝的小説「次郎物語」の著者として知られる下村湖人(1884年~1955年)の生き方です。

戦前、戦中、戦後を通じ一貫して真理を追究した作家であり、一面では「日本の良心」と慕われた教育者でもあります。

同氏は人間の「知情意」を重視し、「知としての合理性」、「情としての慈顔愛語」、「意としての根気」を「人間形成の三原則」と考えたのです。

心のはたらきとしての「知情意」は、常に洞察、決断を求められる指導者、経営者には特に重要な要素ではないでしょうか。

漱石は有名な草枕の冒頭で、まさにバランス感覚の難しさを述べ、「人の世は住みにくい」と書いています。

「智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈(きゅうくつ)だ。とかくに人の世は住みにくい。」

人間として「知情意」の大切さは当然のことながら、若い頃からの気がかりだったのは、英知としての「真善美」とどう関係しているかということです。

「知情意」と「真善美」には重要な関係があるはず。しかし、その関係を解説している学者、書物、論文に出会うことがなかったのです。

そこでまさしく独断的な見解です。「知は真を、情は美を、意は善を希求する」。これでうまく収まるのではないか、と考えたのです。

今まで数百名の商人さんにお会いして学ぶことは、知情意の「情」、すなわち美意識こそが商人として大成する最高の条件ではないかということです。