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プレシオ国際特許事務所のメンバーが気になる判例を紹介します。

プレシオ特許事務所セレクト審判決例


平成21年(ワ)第13089号





1 原告特許請求の範囲





<本件特許発明1>

A バーに取付けられる表示装置であって,

B 第1の情報を表示する第1表示状態,および,第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と,

C 前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え,

D 前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,

E 前記本体における前記固定具に対向する面から突出するように前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチが設けられ,

F 前記本体を上方から下方に向けて押すことにより,前記固定具上に支持された前記本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ,前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる表示装置。

 



2 被告製品





a 自転車のハンドルバー又はハンドルバーステムに取付けられるメインユニットであって,

b 第1の情報を表示する第1表示状態,第2の情報を表示する第2表示状態などの複数(n個)の情報を表示する第n表示状態を実現可能な表示部を有するメインコンピューターユニットと(ただし,被告製品1においてはnは9,被告製品2においてはnは12),

c メインコンピューターユニットを収納し,ハンドルバー又はハンドルバーステムの所定位置に動かないよう取り付けるメインカバーを備え,

d 前記メインカバーは,矩形状の硬質プラスチック板と,該プラスチック板の周縁に立設された弾力性のあるシリコーンラバー製周壁部とを有し,前記プラスチック板の上面の前側の左右両側に深さ約0.6ミリメートルのくぼみが設けられ,前記メインコンピューターユニットは矩形状の上面と底面と四方の側面とを有し,前記側面全体と上面の縁が前記メインカバーの周壁部で覆われており,該底面の前側の左右両側に隆起高さ約1.3ミリメートルの一対の突起が突設され,該底面の後ろ側の中央部に隆起高さ約1.6ミリメートルのロッドが軸方向移動可能に突設され,前記一対の突起の先端と前記ロッドの先端が前記プラスチック板の上面に当接することにより,前記メインコンピューターユニットが前記メインカバー上で前記一対の突起の先端を支点として下方に動くことが可能となるように載置されており,

e 前記メインコンピューターユニットにおける前記プラスチック板の上面に対向する面である底面から突出するように前記ロッドが設けられ,該ロッドの上端部に当接して操作される押圧スイッチが前記メインコンピューターユニットの内部に設けられており,押圧スイッチがロッドの先端に当接することにより前記第1表示状態と前記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われ,

f 前記ロッドが設けられている部分のメインコンピューターユニットの前記上面を上方から下方に向けて押すことにより,前記プラスチック板のくぼみに嵌合する前記一対の突起の先端を支点として,前記メインカバー上に載置された前記メインコンピューターユニットが下方に動き,その反作用で,前記ロッドが相対的に上方移動して前記メインコンピューターユニットの内方に押し込まれ,その先端部が前記押圧スイッチを突き上げ作動させることにより前記第1表示状態と前記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われるメインユニット。





3 争点

・本件特許のうち請求項1及び請求項4に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(無効理由は全て認められなかったため省略)

・被告各製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか(争点2)

・原告の損害の額(争点3)(省略)





4 当裁判所の判断



・構成要件AないしCの充足性

 上記・のとおり,被告各製品は「a 自転車のハンドルバー又はハンドルバーステムに取付けられるメインユニットであって,」,「b 第1の情報を表示する第1表示状態,第2の情報を表示する第2表示状態などの複数(n個)の情報を表示する第n表示状態を実現可能な表示部を有するメインコンピューターユニットと(ただし,被告製品1においてはnは9,被告製品2においてはnは12),」,「c メインコンピューターユニットを収納し,ハンドルバー又はハンドルバーステムの所定位置に動かないよう取り付けるメインカバーを備え,」との構成を有するものである。そして,被告各製品の「自転車のハンドルバー又はハンドルバーステム」,「メインユニット」,「メインコンピューターユニット」及び「メインカバー」は,その機能・構造に照らせば,順に本件各特許発明の「バー」,「表示装置」,「本体」及び「固定具」に相当する。したがって,被告各製品は,構成要件A「バーに取付けられる表示装置であって,」,構成要件B「第1の情報を表示する第1表示状態,および,第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と,」,構成要件C「前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え,」の各要件をいずれも充足するものと認められる(被告各製品が構成要件AないしCを充足することは当事者間にも争いがない。)。



・構成要件Dの充足性

ア 「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,」の意義

・特許技術用語集第2版(甲4)によれば,「回動」とは「正逆方向に円運動すること」を意味し,広辞苑第6版によれば「支持」とは「〔1〕ささえること。ささえて持ちこたえること。」を意味するとされているから,特許請求の範囲の記載からは,「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,」(構成要件D)とは,本体が固定具上で正逆方向に円運動可能となるようにささえられていることを意味するものと理解することができる。



 本件明細書には「回動」について特に定義する記載はないが,本件明細書の記載によれば,本件各特許発明の「回動」という動きは,「本体を上方から下方に向けて押すことにより,固定具上に支持された本体が回動し,切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれ,第1表示状態と第2表示状態の切換えが行なわれる」ように機能する動きとして,その技術的意義を有するものといえる。

 そして,本体が固定具上で正逆方向に円運動可能となるようにささえられていれば,本体に設けられた切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれるように構成することは可能であるから,上記機能を実現することができるし,また,【発明を実施するための最良の形態】では,表示装置本体100の矢印DR3方向及びDR4方向の動きを「回動」するものとして記載され(段落【0025】),さらに,図12には,固定具上にささえられた本体が描かれ,矢印DR3方向及びDR4方向の動きは,支点Fを支点とした正逆方向の円運動として図示されているから,本件明細書の記載は,特許請求の範囲から理解される「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,」の上記・の意味内容と整合するものである。

・したがって,構成要件Dの「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,」とは,本体が固定具上で正逆方向に円運動可能となるようにささえられていることを意味するものと解するのが相当である。

・被告らの主張について

 被告らは,「回動」といえるためには,支点として不動の中心点又は中心軸が必要であると主張する。

 確かに,本体を固定具上で回動させるためには,その動きの支えとなる支点が必要になる。

 しかし,特許請求の範囲に不動の中心点又は中心軸が必要であるとまでは記載されていない上,上記のとおり,本件各特許発明の「回動」という動きとは,「切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれ,第1表示状態と第2表示状態の切換えが行われる」ように機能する動きとして技術的意義を有するものであるから,そのような技術的意義に照らせば,「回動」という動きに,支点として不動の中心点又は中心軸までもが要求されるものとは解されない。

 さらに,上記のとおり,本件明細書の段落【0025】,【0026】及び図12には,発明を実施するための最良の形態として,表示装置本体100をスライドさせ,表示装置本体100の係合部120と固定具200の嵌入部材230とを係合させて,表示装置本体100を固定具200に取り付けて支持する構造が記載されているところ,当該構造から,支点として不動の中心点又は中心軸が構成されるとまで解することはできないし,図12に示される支点Fも,矢印DR3方向及びDR4方向の動きを支持する支点とは認められるが,不動の支点又は中心点とまで断ずることはできない。

 したがって,構成要件Dの「回動」といえるために,不動の中心点又は中心軸が必要であるとまで解することはできず,被告らの主張は採用できない。

イ 被告各製品が構成要件Dを充足すること

 上記のとおり,被告各製品は,「d 前記メインカバーは,矩形状の硬質プラスチック板と,該プラスチック板の周縁に立設された弾力性のあるシリコーンラバー製周壁部とを有し、前記プラスチック板の上面の前側の左右両側に深さ約0.6ミリメートルのくぼみが設けられ,前記メインコンピューターユニットは矩形状の上面と底面と四方の側面とを有し,前記側面全体と上面の縁が前記メインカバーの周壁部で覆われており,該底面の前側の左右両側に隆起高さ約1.3ミリメートルの一対の突起が突設され,該底面の後ろ側の中央部に隆起高さ約1.6ミリメートルのロッドが軸方向移動可能に突設され,前記一対の突起の先端と前記ロッドの先端が前記プラスチック板の上面に当接することにより,前記メインコンピューターユニットが前記メインカバー上で前記一対の突起の先端を支点として下方に動くことが可能となるように載置されており,」との構成を有しているところ,メインコンピューターユニットが一対の突起の先端を支点として下方に動くということは,一対の突起の先端を支点として正逆方向の円運動をすることにほかならないから,被告各製品は「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,」(構成要件D)との要件を充足するといえる。

 なお,被告らは,被告各製品のメインコンピューターユニットはメインカバーを構成するラバーの弾力性により支えられているものであるから,「固定具上で回動可能に支持され」ていないとも主張するが,上記のとおり,被告各製品のメインカバーは本件各特許発明の「固定具」に相当するものである上,本件各特許発明の「本体」に相当するメインコンピューターユニットが「回動」という動きをするものである以上,被告各製品のメインコンピューターユニットがメインカバーを構成するラバーの弾力性により支えられているとしても,「固定具上で回動可能に支持され」との要件を充足することは明らかである。 

・構成要件Eの充足性

ア 上記9で検討したところからすれば,構成要件Eの「切換スイッチ」とは,表示装置における電気回路を開閉する装置を構成するものであって,本体における固定具に対向する面から突出するように設けられ,本体を上方から下方に向けて押すことにより,固定具により本体の内方に押し込まれるように構成され,表示部の第1表示状態と第2表示状態の切換えを行なうものとして機能するものと解するのが相当である。

イ 上記のとおり,被告各製品は「e 前記メインコンピューターユニットにおける前記プラスチック板の上面に対向する面である底面から突出するように前記ロッドが設けられ,該ロッドの上端部に当接して操作される押圧スイッチが前記メインコンピューターユニットの内部に設けられており,押圧スイッチがロッドの先端に当接することにより前記第1表示状態と前記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われ,」との構成を有するところ,押圧スイッチはロッドの先端に当接することによって作動するものであるから,押圧スイッチとロッドは,一体不可分として電気回路を開閉する装置を構成するものというべきである。

 そして,被告各製品の押圧スイッチとロッドにより構成される装置は,表示装置(被告各製品のメインユニット)における電気回路を開閉する装置を構成するものであって,本体(被告各製品のメインコンピューターユニット)における固定具(被告各製品のメインカバー)に対向する面から突出するように設けられ,本体(被告各製品のメインコンピューターユニット)を上方から下方に向けて押すことにより,固定具(被告各製品のメインカバー)により本体(被告各製品のメインコンピューターユニット)の内方に押し込まれるように構成され,表示部の第1表示状態と第2表示状態の切換えを行なうものとして機能するものであるから,構成要件Eの「切換スイッチ」に相当するというべきである。

ウ 被告らは,構成要件Eの「切換スイッチ」は一つの部品により構成されることが必要であるから,被告各製品のロッドと押圧スイッチを組み合わせたものを「切換スイッチ」に該当するということはできないと主張する。

 しかし,特許請求の範囲の請求項1では,「切換スイッチ」について,「本体における前記固定具に対向する面から突出するように・・・設けられ」たものであり,「前記本体を上方から下方に向けて押すことにより,・・・固定具により前記本体の内方に押し込まれ」るものであって,表示部の「第1表示状態と第2表示状態の切換え」を行うものであると記載しているだけであり,一つの部品からなるとは限定していない。

 そして,本件明細書の【発明の詳細な説明】の個所には,実施の形態として,表示装置本体100に「ゴムボタン130」と「タクトスイッチ140」とを設け,上記「ゴムボタン130」が本体内部に向けて押し込まれることにより「タクトスイッチ140」が押され,表示状態の切換えが行なわれる態様のものが記載されているところ(段落【0018】,【0019】,【0034】),上記「ゴムボタン130」と「タクトスイッチ140」とは,その機能・構造において,一体不可分として表示装置の「電気回路を開閉する装置」を構成するものであるから,両者が一体となって「切換スイッチ」をなすことは明らかであり,「ゴムボタン130」と「タクトスイッチ140」のいずれか一方のみを「切換スイッチ」としているものではない。なお,本件明細書の段落【0034】には,「表示装置本体100における固定具200に対向する面(すなわち,表示装置本体100の底面)から突出するように第1と第2表示状態の切換えを行う「切換スイッチ」としてのゴムボタン130が設けられる。」と記載されているが,上記のとおり,「ゴムボタン130」と「タクトスイッチ140」とは,その機能・構造において,一体不可分として表示装置の「電気回路を開閉する装置」を構成することが明らかであるから,「「切換スイッチ」としてのゴムボタン130」との記載は「「切換スイッチ」を構成するゴムボタン130」の意味に理解することができる。本件明細書の段落【0034】の上記記載を根拠として「切換スイッチ」を一つの部品により構成されるものに限定するのは相当でない。

 したがって,構成要件Eの「切換スイッチ」を一つの部品により構成されるものに限定すべきではないから,被告らの上記主張を採用することはできない。

エ したがって,被告各製品は構成要件Eを充足する。

・構成要件Fの充足性

ア 上記のとおり,被告各製品は,「f 前記ロッドが設けられている部分のメインコンピューターユニットの前記上面を上方から下方に向けて押すことにより,前記プラスチック板のくぼみに嵌合する前記一対の突起の先端を支点として,前記メインカバー上に載置された前記メインコンピューターユニットが下方に動き,その反作用で,前記ロッドが相対的に上方移動して前記メインコンピューターユニットの内方に押し込まれ,その先端部が前記押圧スイッチを突き上げ作動させることにより前記第1表示状態と前記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われるメインユニット。」との構成を有するものである。

 そして,上記・,・で検討したとおり,一対の突起の先端を支点として下方に動くメインコンピューターユニットの動きは「回動」という動きに該当するものであり,押圧スイッチとロッドとは一体不可分として「切換スイッチ」を構成するものであるから,上記fの構成を有する被告各製品は,構成要件F「前記本体を上方から下方に向けて押すことにより,前記固定具上に支持された前記本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ,前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる表示装置。」との要件を充足するというべきである。

イ なお,被告らは,構成要件Fの「本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ」といえるためには,少なくとも本体の円運動の直接的結果として,「切換スイッチ」の「押し込み」が生じるものであること(直接的因果関係があること)が必要であるが,被告各製品の押圧スイッチ3が作動する際に技術的意義を持つ動きは垂直方向成分のものであり,水平成分の動きは極めて微少な動きであって技術的意義を持つものではないから,被告各製品は構成要件Fを充足しないと主張する。

 被告らの主張は,被告各製品のメインコンピューターユニットの動きを垂直方向と水平方向の成分とに分解した上で,垂直方向成分の動きが押圧スイッチ3を作動させる際に技術的意義を有するというものであるが,特許請求の範囲の請求項1には「前記固定具上に支持された前記本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ,」と記載されているだけであり,「回動」(円運動)を構成する垂直方向と水平方向の成分の双方の動きにより切換スイッチが本体の内方に押し込まれる必要があるとは記載されておらず,また,本件明細書にも被告らの主張を裏付けるような記載は一切ない。

 被告らの上記主張は,特許請求の範囲及び本件明細書の記載に基づかない独自の主張であって採用の限りでない。

・小括

・以上で検討したところによれば,被告各製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するものと認められるから,これを輸入・販売する被告の行為は原告の本件特許権を侵害する行為ということができる。

 そして,証拠(乙5,乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,補助参加人は,現在,被告各製品を一部設計変更しており,被告はこれを輸入販売し,従来製品である被告各製品の輸入販売そのものは停止していることが認められる。

 しかし,その設計変更がされた経緯及びその内容程度に照らし,従前の被告各製品の製造が再開され,被告がこれを輸入販売するおそれは否定できないから,原告の被告に対する被告各製品の輸入,販売又は販売の申出(販売のための展示を含む。)の差止請求には理由があるというべきである。なお,上記証拠によれば,被告は,被告各製品を被告補助参加人に既に返品していることが認められ,現在,所持している事実を認めるに足りる証拠はないから,被告が本件特許権の侵害品である被告各製品を所持していることを前提とする廃棄請求については理由がないというべきである。

特許法103条により,被告には上記侵害行為についての過失が推定されるから,被告は,原告に対し,不法行為に基づき,本件特許権侵害により原告が受けた損害を賠償する責任を負う

第5 結語

 以上によれば,原告の請求は,特許法100条1項に基づく被告各製品の輸入,販売等の差止め請求には理由があり,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償については,108万9898円及びこれに対する不法行為の日の後であることが明らかな平成22年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がないから,上記理由のある限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。