今日は夕方まで、ドンヨリとした雲が垂れ込めていて、時折パラパラと雨が降りはしましたが、たいした事もなくやり過ごしていたら、16時過ぎからはピーカンな天気になりました(天気に弄ばれていますねぇ)。

 

辻真先「たかが殺人じゃないか」です。

副題は「昭和24年の推理小説」です。

前作「深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説」に続く昭和ミステリ第2弾です。

探偵役は、前作でも活躍した那珂一平君が登場しますが、本作では次の第3弾でも中心人物になる風早勝利(彼が狂言回しを務めています)と、友人も含めた関係者を中心に物語が進行して行きます。

 

戦後昭和23年からの新しい学制(633制)で生まれた東名学園高校3年生の風早が、「推理小説研究会・映画研究会」合同の卒業旅行で殺人事件に遭遇し、研究会仲間の咲原鏡子・大杉日出夫・薬師寺弥生・神北礼子と両研究会顧問別宮操(彼女も第1作から登場。尾張藩別式女の血を引く武芸百般に秀でた設定)の6人で、謎解きに挑むのがミステリの主筋になります。

まあ、辻さんのミステリですから読む前から何の心配もしていませんし、実際にオーソドックスな推理小説として高い水準に有る小説ですが、何よりも昭和24年当時の時代的空気が細部に渡って細かく書き込まれており(私の生まれる遥かに前ですから、それが本当はどんなものかはわかりませんが、これまで様々に聞きかじって来た限り雰囲気が良く出ていると感じました)、例えて云えば当時を題材にした良質の映画(Always 3丁目の夕陽の様な)を見ている感覚に、とても近いのではないかと思います。

 

それは、巻末の膨大な参考資料からも明らかですが、個人的には8年程住んだ事の有る東三河の地勢的な考察も、間違い無くこの地を良く調べて理解なさった上での著述と感じました(卒業旅行先の湯谷温泉・蓬莱山等は、今でも記述内容と同じ様な風情が感じられます)。

ともあれ、彼らの卒業制作に当たり第2の殺人事件が起き、別宮先生の依頼で那珂一平が登場し物語は大団円となりますが、物語のエピローグとして風早の実家(老舗料亭「勝風荘」)が100m道路開発の為に立ち退きにあったり、咲原がアメリカに渡ったりと読者をノスタルジーモードに引き摺り込みながら、最後の最後で読者にドンデン返しを喰らわせてくれます(この仕掛けをどう読者が捉えるかで、殺人事件そのものの真偽が不明になってします)。

 

手練れの名人が推理小説を書くとこれだけ面白い作品になるのですね。

改めて辻さんの素晴らしさを認識し直した作品です。