今日は昨日の1日中降り続いた雨がカラリと上がりましたが、朝から曇り空が続いてしまい、そこそこ気温も上がったからも有って、結構ジメジメ感が強い1日になってしまいました(まあ、昨日「梅雨入りしたものと思われる」東北地方ですから、当たり前に我慢しなければなりませんね)。

 

矢野誠一「戸板康二の歳月」です。

今ではもうそのお名前を聞く機会も無くなりましたが、私が物心付いて芝居を楽しんだり小説を楽しんだりし始めた大昔には、戸板康二と云う巨人(演劇評論の第一人者・直木賞作家)がいらっしゃって、私の本棚に大事に保存しているだけでも27冊の著作が有り(全部で172冊だそうです)、若い時分に貪る様に読んで学び私淑していた記憶があります。

 

その戸板さんが78歳を前に、お亡くなりになったのが1993年だそうですから、丁度私も仕事や家庭生活の都合で演劇・小説の世界から、少し足が遠ざかっていた時期でもありますので、戸板さんが亡くなった前後は良く存じ上げないまま今日まで来てしまいました。

 

先日古本市をブラついていて、この本の書名と著者名(何冊も読ませてもらった矢野さん)を発見して、そのコンディションの良さにも納得して購入しました。

奥付を見ると、出版されたのが1996年で出版前に「別冊文藝春秋」で4回に渡り連載された内容だとのこと、全体で258頁ですが行替えも少なく、戸板さんと親しく交流した著者がその思いの丈を、出来るだけ詳細に(プライバシーには充分留意なさっています)残しておきたいと考えてらっしゃる姿勢が滲み出る様な迫力を感じました。

 

生前著者は、有名な「東京やなぎ句会同人仲間」として、演劇・舞台芸術の世界では親しい後輩として、戸板さんと長く親交を重ねたそうですが、この本ではその交遊の思い出に加えて、戸板さんの出生から著者と知り合うまでの履歴も丁寧に述べられていますので、ネットの情報を検索しただけでは得られないウェットな戸板さんの半生を知ったのも、この本を読んだ嬉しい副産物でした。

東京山の手の子供として育ち、劇界でもその紳士的な生き方・所作で多くの友を持ち活躍された戸板さんですが、実はどうしても苦手で喧嘩をしていた相手も何人かいたと云うエピソードも、矢野さんしか書けない楽しいエピソードでした。

 

途中、戸板さんの後輩仲間の一人大河内豪さん(帝国劇場支配人・銀座セゾン劇場設立準備室長)が自殺なさった下りでは、お仲間内の苦渋の思いがヒシヒシと伝わる筆致で、私も報道を通じては覚えている事件でしたので、改めて当時の劇界に漂っていた気分を改めて思い出しました。

ともあれ、久しぶりに戸板さんの人となりや仕事に触れる機会を得ましたので、手持ちの何冊か読み返してみようかと思っています(先ずは「團十郎切腹事件」かなぁ)。