今日も昼過ぎには、真夏を思わせる暑さになりました。

所用で友人の車に乗せてもらったのですが、エアコンではそう簡単に室温が下がらない程、タップリと熱気が籠って往生しました。

 

原田マハ「美しき愚かものたちのタブロー」です。

近年贔屓の原田さんが、松方幸次郎を主人公にした小説を書いたと知れば当然見逃す筈がなく(恥ずかしながら単行本発行時2019年5月には存じ上げませんでした)、この文庫の宣伝を目にして慌てて贖いました。

 

国立西洋美術館設立の核になった松方幸次郎氏のコレクションが、様々の謎を含みながらも一部が日本に返還(フランス側の立ち位置は寄贈だそうですが)された逸話は、美術ファンならずともかなりの頻度に耳や目にした事があると思いますが、その中心人物を主人公に美術小説の大家原田さんが物語を奏でるのですから、駄作な訳は無いと読み始めましたが、案の定(作家の大胆な想像力で埋めた部分は有りますが)面白く様々な記憶が刺激されて480頁が瞬く間に無くなってしまいました。

 

総理大臣の三男に生まれ、イェール大を出た後に保険会社を経て神戸の川崎造船社長に就任し(後に会社が傾いて、辞任して衆議院議員も務めています)、経済人としては一旦莫大な財産を築いた幸次郎が、どんな経緯で膨大だと伝えられる(国立西洋美術館に有るのはそのごく一部だそうで、会社清算や戦争被害で実態は不明の)コレクションを収集したのか、外野の美術ファンとしては興味が尽きない物語です。

 

幸次郎のコレクション開始時期から、西洋美術の研究者として同行・アドヴァイスしていた田代雄一と云う架空の人物(モデルは矢代幸雄氏とのことですが)を通して、松方の豪快な生き方と収集方法を細かく表現してくれて、尚且つ第2次世界大戦の混乱からフランスに押収されたコレクションの一部を、返還したもらう交渉過程まで(吉田首相肝入りで、サンフランシスコ講和条約締結を受けて始まった交渉だとか)を描いてくれていますので、(飽くまでフィクションの部分も有るでしょうが)日本初の西洋美術館が創設された経緯も良く判りました。

 

それにしても、あの時代にあれだけのバイタリティーで、己の感覚と専門家のアドヴァイスで世界トップクラスのコレクションを築き上げたのですから、松方幸次郎氏の業績がもっと多くの美術ファンに理解されると良いですね。面白い小説でした。