インド映画はお好きでしょうか。「踊るマハラジャ」で一時は日本でもブームの兆しが見えたものの,まだまだお馴染みのないインド映画。 インド映画の作品のほぼ9割以上が“歌って踊る”エンターテインメント作品で,美男美女が主役。悪者ははっきりと描写され,最後は正義が勝つ。まるで「水戸黄門」のような展開の作品が多いインド映画。ムンバイでは年間500本以上の映画が制作されており,インド版ハリウッドとして「ボリウッド」とも呼ばれている。
  特にインド女優には絶世の美女が多く,アイシュワリヤー・ラーイやプリヤンカー・チョプラはミスワールドにも輝いている。映画の中ではセクシーな衣装で歌って踊り,観客の目や心をつかんでいるが,キスシーンが解禁されたのは最近のことで,未だリアルキスシーンを目にする作品は少ない。ボリウッド映画史上初とみられるキスシーンは1933 年制作の映画『カルマ(Karma)』とのこと。
 インド社会では貞淑さが重んじられ,公衆の場で男女が絡み合うことへの反発が未だ根強いということだろう。
 ところが,そんなインドでハリウッド男優のリチャード・ギアは15年前の2007年,デリーで開催されたエイズに関する意識向上イベントに参加した際,同じくイベントに参加していたボリウッド女優シルパー・シェッティーをステージ上で抱擁し,頬に数回キスしたことで,一部の人々の大きな怒りを買った。各地で抗議運動が発生し,一部暴徒化したヒンズー教の過激派が,リチャードを模した人形を燃やすなど,過激な抗議運動も行われた。また,リチャードに逮捕状が発行され,シルパーが「わいせつ」罪などに問われる事態に発展した。人前で男女がキスするのは「インドの価値観に反する」ということなのだ。
 リチャードは逮捕状が出された段階で公式に謝罪。「キスが,HIVに感染する危険性のない行為であることを示したかったのです」と釈明し,「インドの友人たちを傷つけようという意図は全くありませんでした」とする謝罪声明を発表。また,自身が主演した映画『Shall we Dance?』(2004年)のワンシーンを再現したものだったとも説明した。
 一方のシルパーも,「リチャードは『Shall we Dance?』のポーズを取って,人々を楽しませようとしていただけ。ただ私は,彼がそれをやろうとしていることに気が付いていなかったから,いきなりでビックリした」と話していた。さらに,,「リチャードは誰の感性も,どんなインドの感性も傷つけるつもりはなかったとメディアに話してほしいと私に言っていたわ。彼に凄く謝られた。私は恥ずかしかったわね」とリチャードを擁護し,「インド国民の大半は大げさに捉えていない。一部の過激な人々が,自分やリチャードを利用して,騒動を大きくしようとしているだけ」と非難するコメントも発表した。また,このキス騒動が起きた2007年には,自身の新作が控えていたため,「騒動が良いプロモーションになったとも思う」と強気の発言もしていた。
 その後,渦中のリチャードの逮捕状はインドの最高裁の決定により無効となったが,シルパーをめぐっては,キスされた際に「抵抗しなかった」として,わいせつ容疑がかけられたままの状態になっていたが,今年に入り,ムンバイの裁判所は,シルパーの容疑は「根拠がない」として,「もう一人の容疑者(リチャード・ギア)による,望んでいなかった行為の犠牲者であるようだ」として無罪を言い渡した。無地決着ということだろうか。 
  このようなインドの非常に道徳的な側面の一端として,ボリウッド女優のキス事件を書いていたところ,先ほどインドで「21歳の既婚女性を拉致して集団レイプした後,街中を歩かせてさらし者に」というニュースが入ってきた。しばらくはコロナ化の影響もありインド旅行はできないが,時折報道されるインドのレイプ事件。インド社会の闇も部分もかなり深そうだ。