新民主党宣言

小沢一郎元代表グループの離党による党分裂から一夜明けた3日朝。定例閣議に引き続く閣僚懇談会の最後に野田佳彦首相が発言を求めた。「昨日、野田内閣はちょうど丸10カ月を迎えました。こういう時期にさまざま各閣僚にご苦労をかけていますが、ある意味で新しく、新民主党を、新しく民主党をまた立て直すと、そういう気持ちで自分は取り組んでいきたい。政府、内閣におかれても、引き続き緊張感を持ってご協力を願いたい」。首相発言に対し、各閣僚は座ったまま全員、座ったままだったが、頭を下げた。野田首相(党代表)の下で党分裂という最悪の事態を招いたことへの陳謝の言葉はなかった。むしろ野田首相は発言のなかの「新民主党を、新しい民主党を立て直す気持で取り組んでいきたい」という部分に力を込めた。2003年の民主党と自由党(民由合併)以後、小沢氏を抱えた複合政党=民主党を小沢元代表が離党した機会をとらえて純化しようとの決意の表明であった。小沢元代表が離党―新党宣言というならば、野田首相は「新民主党宣言」というわけである。

野田流「巧言令色」

野田佳彦という政治家は修辞の巧みさにおいて同年代の政治家のなかでは群を抜く。野田首相が総選挙の街頭演説で力説した「消費税増税前のシロアリ退治」論という有名なフレーズがある。「消費税1%分は、2兆5000億円です。(中略)消費税5%分のみなさんの税金に、天下り法人がぶら下がってるんです。シロアリがたかってるんです。それなのに、シロアリ退治しないで、今度は消費税引き上げるんですか?!」「消費税の税収が20兆円になるなら、またシロアリがたかるかもしれません。鳩山(由紀夫代表=当時)さんが4年間消費税を引き上げないといったのは、そこなんです。シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです」。国家予算が天下り官僚ら食い物にムダ遣いされている状態のままでの消費税増税を厳しく批判した演説である。ネット上に、この演説の下りが動画で流され、印象深い野田語録の一つになっている。

野田首相のことばの巧みさで出色とされる例が、民由合併で民主党に入り込んだ小沢一郎氏を評したときだ。「モーニング娘の中に天童よしみが入ったようなものだ」。モーニング娘とは当時、人気絶頂だったアイドル・グループ。天童よしみは庶民のど根性を歌い込む演歌の歌い手だ。結党5年の青年期の政党といえる民主党とすでに14年前に政権与党の自民党幹事長を経験し、その後、自民党を飛び出し細川政権を立ち上げた手だれの政治家・小沢一郎との合従連衡に際して、モー娘とド演歌との組み合わせと見立てたのは野田の鋭い観察眼と言葉使いの柔軟さであった。いずれ両者が袂(たもと)を分かつ場面に立つと見通していたとしたら野田の炯眼には驚くほかはない。

ただ、野田首相の修辞の巧みさには「シロアリ」論に見られるごとく、いずれ我が身に振りかかる危うさが付きまとう。ことばで、その場をしのぐ、うわべをとりつくろう域をでていない「巧言」だからだろう。「論語」学而篇に「巧言令色鮮(すくな)し仁(じん)」とある。仁とは徳、他人にたいする親愛の情、やさしさ、を意味する。

自民党が下支えする野田民主党

細川内閣で首相特別補佐だった田中秀征元経済企画庁長官は最近の評論で、野田内閣支持率が20%台をキープしている理由に触れている。「自民党支持者が自民党の政策方向へ舵を切っている野田内閣支持へ回っているためだ。しかし、それらの野田内閣支持層は選挙の時には民主党には投票せず、自民党に入れる層なのだ」という趣旨だ。消費税増税、原発再稼働、公務員バッシングなど自民党ならずして自民党的政策を採用する野田内閣に、自民党支持者が政策的親近感を覚えるのは不思議なことではない。

野田首相の「新民主党宣言」には、自民党支持層を取り込んで民主党の立て直しをはかろとする意図が見える。09年総選挙で民主党へ投票した多くは非自民党政権を待望したが、民主党政治2年10カ月で失望感を深めている。民主党離反層を呼び戻すことよりも、憲法改正など自民党路線とそう変わらない民主党を打ち出すことで、旧来保守層にアピールする新保守政党へ民主党を生まれ変わらせるーー野田新民主党宣言が意味することではないのか。2009年9月の民主党とは似て非なる民主党が出現するのかもしれない。