岩見隆夫毎日新聞客員編集委員、星浩朝日新聞編集委員、橋本五郎読売新聞特別編集委員ら大手紙政治担当のベテラン記者を8日夜、野田佳彦首相は、首相官邸裏のそば割烹『黒澤』に招いて、懇談した。野田首相が店のノレンをくぐったのは午後6時51分。玄関をでてきたのは同9時42分。同日から消費税増税を柱とした社会保障・税一体改革関連法案が衆院本会で審議入りした。その夜にたっぷり3時間近い会食は、首相の余裕だったのか、それとも見えない出口を求める模索のなか政治記者たちから知恵を必死に引き出そうとしたのか。

 その席で、出席者の一人(政治ジャーナリストによると岩見隆夫氏)が「総理にとって政権維持と消費税増税とどっちが大事なんですか?」と尋ねた。野田首相は「岩見さんほどの方が野暮な質問をするんですね。消費税(増税)にきまっているじゃないですか」と応じた。――こんな話が永田町の政治記者の間に広がっている。

G8サミットから帰国した野田首相を待ち受けるかのように、一体改革関連法案は21日から特別委員会で本格審議が始まった。通常国会会期末まで、残すところ、ちょうど1カ月。政局は今年前半で最大ヤマ場にさしかかった。

打開の糸口探るが

野田首相は委員会審議の答弁で、不退転の決意を重ねて強調した。しかし、国会の現状は、野党が要求する問責2閣僚の交代を野田首相が拒否しているため、ほとんどの委員会は機能停止に陥っている。打開のための自民党の谷垣総裁との再会談する道も、水面下の折衝が先週、発覚してしまったため、思うにまかせない。

他方、野田首相は、党内体制を固めるため、消費増税法案に反対の主張を崩していない小沢一郎元代表との会談へ向けた調整を輿石東幹事長に指示した。しかし、おそらく小沢氏が動くのは法案の衆院採決時期が見え始めた段階で、それまでは首相との会談に応じることはなく、健康上の理由などを持ちだして時間稼ぎをはかると見られている。

このため民主党内には、野田氏が小沢氏と妥協して、目途の立たない消費増税法案の採決は先送り、今通常国会は会期延長せずに、いったん閉会するという見方が広がっている。輿石幹事長がかねてから、目論んでいる”継続審議”論である。

さっそく反応したのが石原幹事長だ、「消費税関連法案の採決を先送りすれば、即座に内閣不信任決議案や首相問責決議案を提出する」と対決色を打ち出した。この場合、内閣不信任決議案が、民主党多数の衆院で可決される可能性は薄いが、参院の首相問責決議案が野党多数で可決される可能性は小さくない。首相問責決議が可決の事態になれば、参院で首相出席の審議は難しくなる。

裏付けに欠ける、勇ましい言葉の空回り

「反省すべきところは反省し、緊張感を持って職責を果たしてほしい」「一体改革関連法案などの審議にマイナスだ」と問責2閣僚の交代を拒否。「やらないといけないことをやりぬいてしかるべき時に民意を問う」「(来夏の衆参同時選に言及した輿石幹事長発言は)齟齬のある発言はない」と強調。――G8会合から帰国の途についた野田首相は19日(日本時間20)ワシントン・ダレス空港で報道陣に囲まれ、強気のことばを重ねた。野田首相はG8サミット会後の席上、消費税増税法案の成立を果たすと述べて、同法成立を「国際公約」に仕立て上げていた。

 しかし、政府・与党に野田首相の強気を支えるバックアップ体制がまったくできていない。挙党態勢を固める民主党一体改革推進本部の初会合は21日の特別委員会の審議入り2時間前の午前11時から、滑り込むような形で開かれる、というあたふたぶりだ。政策責任者の前原誠司政調会長は体調不良を理由に欠席した。野田首相がいう「政治生命をかける」、「不退転の決意」は完全な空回り状態にある。ことばだけでは人は動かない。深刻なのは、身を呈して、野田首相のために働く、救世主のような存在は、いまの民主党内に見当たらないことである。