民主党政権中枢、当初「ラッキー」の言葉も
◆東日本一帯を未曾有の大震災に陥れた3月11日のことである。地震の影響が皆無に近かった選挙区の徳島市へ戻っていた前官房長官・仙谷由人は同日、地震後の時刻に開かれた地元後援会の会合であいさつ。「参院(予算委)開会中に大震災が発生。菅さんはとてもラッキーな人だ」と語ったーーおびただしい地震情報にまぎれこんで、こんなメールが発信されていた。
地震直前の菅直人内閣の支持率は主要メディア調査で20%台前半から10%台後半へ低落していた。政権と与党民主党は、2011年度予算関連法案の成立にめどが立たず、政変含みの「3月政局」が現実味を帯びて進行中であった。窮地に立たされていた民主党政権中枢にある仙谷氏が「これぞ天佑神助」といわんばかりの言葉を口走ったのは、正直な本音といえる。


谷垣自民総裁、「唐突」と入閣要請を断る
◆地震発生から8日後の3月19日昼過ぎ、菅直人首相は首相官邸から自民党本部にいる谷垣禎一総裁へ電話をかけた。谷垣氏の電話会談後の記者会見などによると以下のやり取りがあった。
菅首相「谷垣さん、副総理兼震災復興担当ということで入閣して欲しい」
谷垣総裁「あまりにも唐突なお話ではないか。現段階は、各党・政府震災対策合同会議を提案して、設置して、動き出したばかりです。その会議の場で、災害復旧についてわが党のまとめた提言を出したりするなど、これからも全面的に協力する積りである。本日から実務者会合(各党合同会議の下に設置)が始まった。震災復旧に関しては、手を緩めることも惜しむこともなく、引き続き閣外から全面協力させていただく」。
菅首相からの入閣要請は与野党一体で震災対策に当たる必要とポストの提示はあったが、連立を組む前提となる基本政策の合意に向けた協議などに触れる話はなかった。しかし、政権与党の総理・党首から野党第一党の党首への入閣要請は「大連立」そのものである。現在の政権は、2009年総選挙の結果を基盤としている。東日本大震災という不測の「国難」的な緊急事態ではあるが、政治的・政策的な前提条件なしの「大連立」という話は乱暴に過ぎる。
菅首相は地震当日11日夕に自ら呼びかけた与野党党首会談を首相官邸で開き、各党首に震災対策への協力を求めた。これにたいして野党側は自民党のみならず震災復旧・被災者救援にかんしては全面的な協力姿勢を示している。こと震災対応に関しては、その遂行に差し支えのない与野党協力関係ができていた。
ところがーー。翌13日午後、菅首相は首相官邸で垣総裁とサシの民自両党首会談。これには民主党から岡田克也幹事長、自民党から石原伸晃幹事長が同席した。菅首相は、谷垣総裁に、従来枠を超えた政権への協力を強く要請した。菅首相は、谷垣総裁にたいして、震災対応だけでなく、政権そのものへの「協力」を取り付ける含みを持っていた。ずばりいえば「大連立」提案であった。
19日の電話会談は、それまでの1週間の経過を踏まえた両党首のやり取りだった。谷垣総裁は電話会談のあと、同日午後4時半から招集した緊急役員会に諮り、党機関に図った上で菅首相にたいし、党として正式に断る電話を入れた。この時点で自民党内体制が「大連立」に即座に応じるまでの準備が整っていなかったのが大きな理由であろう。


谷垣入閣要請の菅提案は生きている
◆「期間を区切るなどのやり方はあるが、いまは(政権)体制をいじる時期ではない。一段落したら議論すればいい」。26日午前、テレビ東京の番組に出演した谷垣総裁は、多少の時間を置いたあと菅首相が呼びかけた「大連立」に応じる含みを持たせた。菅首相提案を拒否した一週間後の谷垣氏のことばである。谷垣発言は、党内体制が、「大連立」に向けて整いつつある状況を示唆した。
 一方、民主党は、22日の民主党常任幹事会の席上、岡田幹事長は川内博史衆院議員の質問に答えて「(谷垣氏への入閣要請=大連立)提案としては総理が言われた以上、それは残っているというふうに一般には受け取られているのではないか」。自民党内の空気の変化を踏まえ、「大連立」提案は継続してると政権与党サイドからのサインを発した。


震災対策名目に閉塞状況の脱出策として自・公乗る?!
◆「奇貨居(お)くべし」。大震災を機会に、「大連立」を志向すべきの声と動きは民主党、自民党双方に広がる。与党復帰待望が強い公明党を加える究極の大連立構想として3党間のチャネルが起動している。民主党は、衆参ネジレ国会で政権運営に苦慮し、この先に控える内閣の重要課題である社会保障と税の一体改革、TPP(環太平洋経済連携協定)参加問題を進める目途がたたない。自民党は政権復帰戦略に目鼻がつかないため、政権の一角に噛むことで政権復帰へのきっかけをつかみたい。公明党は、11年にわたる自公連立で、もの取り・実利主義で支持基盤を納得させるのが体質化しているが、野党に転じて、それが難しい状況に陥っている。それぞれ閉塞状況に包まれる各党は、それぞれ「大連立」に思惑を秘める。


谷垣禎一震災相、山口那津男原子力災害担当相でいい
◆大連立積極派の自民党の石破茂政調会長は周辺にもらす。「簡単に断るなどしないで谷垣震災担当大臣、山口原子力災害担当大臣とかでいい。閣僚入りという単純な話ではなくて、結局は大連立なのだ。緊急避難的な大連立をすべきだ。ただ党内はほぼ拒否論なのは菅総理というのがよくない(からだ)」。
 若手からは「国会がネジレたままの状況ではすべての意思決定が遅れてしまう。『復興のための臨時の挙国一致政権』であるならば、国民の理解も得られるでしょう。その選択肢を決して捨てるべきではない」(岩屋毅衆院議員メールニュース457号 2011年3月25日)。
菅首相は、1月の内閣改造で与謝野馨元財務相を、社会保障と税の一体改革を主任務にする経済財政担当相に起用した。自民党、たちあがれ日本にあって民主党の経済政策へ完膚なきまでの批判を加えてきた与謝野氏の民主党政権への入閣は批判を招いた。菅首相は、その与謝野氏に、社会保障と税の一体改革という政権の最重要政策を委ねた。今回の大震災に際しても、菅首相は、震災担当、原子力災害担当という政府の震災復興策の肝心要の部門を谷垣、山口という他党党首に任せるというのだ。震災対応で、首相官邸と民主党政権は、その「非力」を露呈したが、復興関連ポストを民主党外閣僚に丸投げするというのも、責任のない話ではある。


世論は「震災利用の大連立」に懐疑的?!
◆27日配信の共同通信世論調査によると、「大連立政権になることには?」の問いに、賛成41・8%、反対45・1%。「賛成」が多い理由は、東日本大震災の復旧・復興、東京電力福島第一原発の事故対処に超党派で迅速に対応すべき、という世論が大連立賛成の数字に含まれていると見られる。その数字がどの程度か判明しないが、「賛成」の数字はかなり割り引いて見なくてはなるまい。他方、「反対」は過半近くを占める。「震災対策は超党派で、政権は09年総選挙結果を踏まえたままで」という世論状況が読み取れる。大震災復興を建て前にするにしても「大連立」には懐疑的といえる。