○前門の日中外交(尖閣問題)、後門のネジレ国会対応に挟み撃ちされる格好だった菅政権は、ベルギーのブリュッセルで開催のASEM(アジア欧州会議)首脳会議のなかで温家宝中国首相との「会談」で、前門の障害をひとまず乗り越えた。だが、菅首相には、6日から各党代表質問がはじまった臨時国会への対応という難題が控える。
大使召還―国交の一部断絶などといった最悪の事態への展開が予想された日中関係は菅―温会談で一転、「正常化」へ向けて動き出した。危機ラインを脱出できた日中間で、水面下の対中パイプが作動した。仙谷由人官房長官―野中広務元自民党幹事長(元内閣官房長官)のラインである。
○野中氏は、曾慶紅前国家副主席との「特別な関係」で知られる。野中氏の対中パイプは胡―温現体制下でも、その系譜が機能し、温存されている。野中氏は、中国漁船船長逮捕以来、緊張がエスカレートする日中関係を憂慮し、同氏の立場から打開の方向を探っていた。一方、外交が不得手の菅直人首相に代わって官邸外交を仕切る仙谷官房長官は、野中氏とは10年以上前の90年代の金融国会のころから関係を密にしている。仙石氏は野中氏とは、TBSテレビ「時事放談」で、いく度も顔を合わせている。両者は携帯電話で立ち入った話ができる間柄である。
○仙石官房長官はASEMブリュッセルにおける日中首脳会談をセットし、事態打開の機会とする考えから、「密使」細野豪志民主党前幹事長代理を9月29日、北京へ送り込んだ。細野氏は、載秉国国務委員(前中国共産党中央対外連絡部長)らと密会、これを受けた形で30日、拘束中のフジタ社員4人のうち3人が釈放され、10月1日に仙谷―載秉国電話会談でブリュッセルでの日中首脳が合意された。
官邸主導の危機管理外交を展開した主役は仙谷官房長官であった。その仙谷氏を「水面下にあって側面から強力にバックアップしたのは野中氏であった」とは北京外交筋の解説である。仙谷、野中両氏は、内外政から小沢一郎氏の影響力を排除するという点で政治観を共有している。
○仙谷氏は、菅直人政権発足と同時に脱小沢路線の正面作戦を先導し、民主党代表選を通じて、「脱小沢」を民主党内に定着させた首謀者でもある。昨年12月に140人の民主党衆参国会議員を率いて訪中、胡錦濤主席との会見を演出、国家主席につながる対中パイプを誇ったのは小沢一郎幹事長(当時)氏であった。仙谷氏は、その小沢訪中団で実務責任者だった細野前幹事長代理を一本釣りして、「官邸の密使」に起用し、小沢の中国パイプの一端を取り込むことで、対中外交においても小沢の力を削ぎ落とす妙味を見せたのであった。